第30話接近戦(ただし無粋は認めない)
駅に設置されたコインロッカーを使用中、そうでないものまで見境なく鍵部分を壊しまくった張本人フィーエ。
まだまだ飽き足らないのか、反対側に設置されているコインロッカーへと方向を変えた。
「エイジ!そいつをロッカーに近づけさせるな」
エイジの宿主、田中・昌樹は未だに自らの犯した失態に気付いていない。
そればかりか、先程から敵にヒントを与えまくっている事にさえ気付いていない。
「アンタはもう黙っていろ!」
とうとうエイジにまで愛想をつかされてしまった。
「俺が何をした!?エイジ!」
エイジの態度に腹を立てている場合でもないのに。
「さてと、探偵さん」
身をひるがえしてスノーが昌樹の前に立ちはだかった。
対峙する二人は、お互いに目の前に立つ者が敵だと認識、昌樹は携帯警棒を、スノーはジャケットのポケットから折り畳み式のナイフを取り出した。刃渡り12センチほどの小型のものだ。
リーチでは昌樹が有利。と余裕の笑みを浮かべてスノーに向かって歩き出す。
一方のスノーもナイフを弄びながら昌樹へと歩き出し。
昌樹の警棒の射程距離に入った!
「甘いね。探偵さん」
と、腰の後ろに手を回したかと思えば、素早く抜かれた左手には自動式のピストルが握られていた。
瞬時に身を低くして、さらに踵を返す、すかさずまた踵を返す。
カオスな動きを見せる昌樹を捉える事ができない。弾は一向に当たらない。
「この距離で外すなんて」
悔しさのあまり首回りに筋を立てる。
「近過ぎるんだよ!」
1メートル未満の距離で乱射された弾丸は4発発砲されるも、昌樹にかすり傷一つ負わせることもできなかった。
代わりに4発発砲した時点で、いつの間にか左手に持ち替えていた警棒によってピストルを叩き落されてしまった。
「エイジ!コイツを使え!」
エイジに向けてスノーから叩き落したピストルを蹴り飛ばす。
床を滑ってきたピストルを拾い上げると、迫りくるフィーエの頭部に向けて残弾すべてを撃ち込む…2発しか残っていなかったが。
相変わらず頑丈なフィーエはピストルの弾などものともしなかったが、最後に投げつけられたピストル本体には、床に落ちるまで視線を釘付けにしていた。
その隙をエイジが見過ごすはずが無い!
右足を頭上高く上げて。
“白銀の刃”発動の体勢に入った。
ところが、フィーエは驚くべきスピードでバックステップ。
まるでゴキブリが後方移動しているみたいに俊敏な動きを見せる。
驚きを隠せないエイジの顔はスノーへと向けられてゆく。
「気付いたかい。そうさ、君たちがたどり着くまでにフィーエにエネルギー補給をさせておいたのさ」
クィッと首を向けた方向には。
床はもちろん、壁や天井に真っ赤な飛沫痕が、というよりも、まるで真っ赤なペンキをぶちまけたような光景が広がっていた。
「貴様…何人の人間を殺した?」
エイジの問いに「そんなの数えていないよ。もう、バラバラにしちゃったし、繋ぎ合わせて数えるのも面倒だよね」
サイコパスな言動をするスノーに、エイジは怒りを露わにした。
その無邪気な笑顔を見せるスノーの顔が苦悶の表情に一変。
昌樹が警棒でスノーの左腕を乱れ打ちしている…。
「痛い!痛いだろ!止めろよ!」
痛みを訴えるスノーの視線の先には。
訴えに耳を貸さずに黙々と警棒を振り下ろす男の姿。
男は黙って罪の対価を払わせるもの。
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