第26話ケチる女、不老不死を目指した者

「あの…お客様?どうぞ、こちらへ。向こうのお席へご案内いたします」

 ウェイトレスの声に。


「結構よ」

 見下ろしながらレインは答える。しかし。


「あっちへ行け。そこに立たれると、皆が迷惑するっしょ」

 追い払うかのように理依が告げた。


「ちょ、ちょっと理依。彼女たちを刺激しないで。相席なら…」

 言っては見たものの、残念ながら、ここは二人席。


「どうぞ、こちらへ~」

 内心ムカついているだろうに、ウェイトレスは笑顔で促す。


 しょうがないとレインたちはウェイトレスの案内に従い、奥の席へ。


「あの…私もアレを食べたい」

 席に着くなり、ナンブが静夜たちが食べていた免震パンケーキを要求した。


「しょうがないわね」




 都合の良い事に、ナンブは静夜たちから背を向ける形で席に着いている。これならディープステッチャーの不意打ちを受ける心配も無い。


 しかしデカ女の視線は、静夜たちを突き刺すように向けられている。


 すると、レインが立ち上がって、こちらに向かってくるではないか。


「来た!」

 構えていたい二人に、レインはメモをよこした。


 メモには電話番号が記されている。


「席が離れているのだから、掛けて来なさい」


「お前が掛けて来い!」


 初対面の相手に電話を掛けろと要求されて、大人しく引き受ける静夜ではなかった。

 出されたメモ用紙に自身の電話番号を殴り書きして突き返した。


「チッ!ケチな女!」

 捨て台詞を吐いて、ツカツカと席へと戻ってゆく。



 しばらくして着信音が鳴った。スピーカーモードで電話に出る。


「もしもし、レインだけど」


 プチ!


 切ってやった。


 奥の席から睨んでやがる。


 もう一回着信。スピーカーモードで電話に出る。


「ふざけてるの!?アナタ」


「見えている相手に二度も名乗るものだから、てっきりアタマの悪い人かと思ったわ」

 告げてレインを見やると、やはりコチラを睨んでいる。


「ムカつく女だけど、言い争っている場合ではないわ。早速だけど本題に入るわよ。あのアフロの探偵は今、どこにいるの?教えなさい」


「教えなければ実力行使?」


「ええ、必要とあれば」


「生憎だけど、私も知りたいのよ。マッキーの居場所。仕事で探し出して欲しい人物がいるのにさ。彼を見つけ出したら、私にも教えてくれる?」



 すると、電話の向こうでため息を漏らしている。


「駆け引きしている場合じゃないの。WW2を引き起こした人物がこの街に入ったと報せを受けたの。ヤツは何をしでかすか分からない」


 レインの話を聞くなり、二人はププッと吹き出した。


「随分とデッカイ事を言い出しましたね、先生」


「第二次世界大戦を引き起こした人物?どこの空想小説っての。ねぇ」


 信じないばかりか、小馬鹿にし始めた。すると。



「予想通りのリアクションで笑えるわ。でもね、アドルフ・ヒトラーがオカルトに傾倒していったという事実は知っているわよね?」


「それ、映画の話でしょ?冒険活劇系の」


「ナチスのシンボル“ハーケンクロイツ”が卍の逆だという事も知らないの?」

 説明を受ける最中、二人は顔を寄せて。


「え?そうだっけ?」

 テーブルに指で描いて見せる。「あ、ホントだ」


「あれは一種の“まじない”で、彼は科学の他にオカルトを用いて世界征服を企んでいたの」


 にわかに信じ難いが、とりあえず話を進めてもらおう。「それで」


「ヒトラーが求めたのは“不老不死”。それを体現していた人物が、彼に方法を教える代わりに材料の収集を手伝わせた。これがWW2がヨーロッパ各地に広がった真相よ」


「不老不死!?まさか!、その人物って…マッキーに匣を預けたサンジェルマンて言うんじゃないでしょうね?」

 まるでオカルト雑誌さながらの展開に、まさかと思う質問を投げかけた。

 



 だが。



「違うわ、彼女の弟子、カリオストロの方よ」


(誰だよ、そいつ)

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