JSを愛してやまないラノベ作家の俺にJCが弟子入りを迫ってくる件について

エミヤ

JCの弟子入り

プロローグ

 俺――海藤かいどうたけるの朝は一枚のパンツから始まる。


 それもただのパンツじゃない。――JSのパンツだ。


 まず俺は目覚まし時計を止めると、昨日の内に枕元に置いていたパンツ――近所の小学校に通っている五年三組、清水しみずすずちゃんのものを食べる。


 次に洗面台に向かい冷たい水で顔を濡らし、三年四組、志村しむらほたるちゃんの汗が染みた使用済み体操服で綺麗に拭き取る。


 歯を磨く時には、市販されている歯磨き粉を二年一組、本田ほんだ深雪みゆきちゃんの使用済み縦笛に付けて磨く。


 正直、歯ではなく縦笛を磨いている気分にさせられるが、気にしない。


 磨き終えると、自室に戻り制服に着替える。


 身仕度を終えれば、あとは朝食を残すのみ。俺はリビングに向かう。


 朝食は今年で十一歳になるJSの妹―菱川ひしかわ依子よりこが作ってくれる。


「おはよう、お兄ちゃん! 今日は依子、お兄ちゃんのためにとても美味しい朝食にしたから!」




「そうかそうか! ならお兄ちゃんもご褒美をやらないとな!」


 依子の瑞々しい唇を貪る。これは依子というより俺にとってのご褒美かもしれないな。まあ、本人も嬉しそうにしてるからいいだろう。


「ん……ッ!」


 洩れる喘ぎ声。ついでに唾液も啜らせてもらおう。


 依子の唾液美味しいなあ! 永遠に飲んでいたいなあ!


 しかし、いつまでもこうしているわけにもいかず、依子から離れ朝食の並んだ席に座る。


 本日の朝食は、JSの使用済み上履きをじっくり煮て取った上品な味のスープ。


 JSの履いた靴下を千切りにしてドレッシングをかけたサラダ。


 メインディッシュはJSのパンツをバターで炒めたソテー。


 しかもこのパンツ――脱ぎたてホヤホヤの依子のものを使っている。産地直送の極上のパンツだ。


 依子汁をたくさん吸っているのだから、舌もとろけるような味わいだろう。


「いただきます」


 俺は胸をときめかせながら、JS製の朝食を口に運ぶのだった。






「……何よ、これ」


 幼馴染の在原ありはら紅葉もみじは読んでいた原稿から視線を外し、テーブルを挟んだ正面にいる俺――菱川ひしかわとおるに訊ねる。


「何って、俺の新企画『JSと一緒』だが? どうだ、面白いだろう?」


 俺は現在、学校帰りにウチに寄った紅葉に新企画の原稿を読ませていた。


「私以外の人にも、これは見せたの?」


 紅葉は俺の質問に答えるどころか、逆に訊いてくる。


「……一応、担当にファックスで送った。感想もメールで送ってくれた」


「どんな内容だったの?」


「答えなくちゃダメか……?」


「ダメね。答えないなら、私も感想は言わないわよ」


「チ……ッ」


 正直、思い出したくもないが……背に腹は変えられない。


 渋々とテーブルに置いていたスマホを手に取り、画面を紅葉の方に向ける。


『死』


 たった一文字で、ここまで殺意を感じるメールは中々ないだろう。


「まあ、そうなるわよね」


「なぜだ!? 最高に面白いだろう!? 何が問題なんだ!?」


「むしろ、問題にならない部分はどこにあるの?」


「く……ッ! やはり凡人共には、天才ラノベ作家たるこの俺、JS太郎の作品の尊さが理解できないようだな!」


 JS太郎。これは俺のラノベ作家としてのペンネームだ。


 二年前のゴロゴロ文庫新人賞で大賞を獲り、デビューした。


 当時は高校一年生だったこともあり、編集部は俺を期待の新人だ何だともてはやしていたが、最近はJS狂いのキチガイ作家などと抜かしやがる。


 そこで今回は奴らを見返すために、今持てる俺の力の全てを注ぎ込んだ新作を作ったわけだが、


「あんた、こんなの書いてる暇があるなら学校くらい来なさいよ」


「こんなのとか言うな! 俺の迸るパトスをたっぷりと注ぎ込んだ作品なんだぞ!」


 こんな感じで評価は芳しくない。何が問題なんだ?


「今年は大学受験も控えてるのよ? そんなの書いてたら浪人するわよ?」


「構わん。俺は今後、作家として食っていく。そんなことより、この作品の何が悪いのか教えてくれ」


「もう……」


 溜め息を吐きながらも、紅葉は再び原稿に視線を落とす。


 何だかんだ言いながらも、こうして付き合ってくれるのはありがたい。幼馴染もいいものだな。JSの次くらいに。


「まず、何でこの主人公はパンツを食べてるの?」


「JSのパンツを食べてのに理由がいるか?」


 重要なことなのでキメ顔で答える。


「……ねえ、一つ確認したいんだけど、パンツは食品じゃないことは知ってるわよね?」


「当たり前だ。パンツが食えるわけないだろ。お前は何を言ってるんだ?」


 まったく、この幼馴染は時折意味の分からないことを言うから困る。


「落ち着け私。相手はあの透よ? 怒るだけ無駄。怒るだけ無駄……」


 ブツブツと何事か呟き出した紅葉。


 何だ、持病か? もしそうなら、今度いい病院を紹介してやろう。


「パンツが食品じゃないことを理解しているなら、どうして主人公はパンツを食べてるのよ!?」


 なぜか知らないが、紅葉がキレた。


 これは早めに病院を紹介した方がいいかもしれない。情緒不安定なところを見ると、精神科が妥当だろう。


「あのな、JSのパンツだぞ? 集める、見る、食べるの三拍子揃ったオールマイティーアイテム。食べない方がおかしいだろ?」


 JSのパンツに失礼というものだ。


「もういいわ……次にいきましょう」


 額に手を当てて、何かを堪えるような仕草をする紅葉。


 心なしか、原稿を読み始めた時よりもやつれて見える。


「この洗顔と歯磨きのシーン……何、この狂気に満ちた朝の身仕度は?」


「狂気? お前は何を言ってるんだ? これは、JSへの愛が感じられる涙もののシーンだろ?」


「愛は愛でも、あんたのJSへのイカレた愛情しか感じられないわよ!」


 おかしいな。俺が込めたのは純粋な想いのはずなのに、どうして理解されないのだろう?


 首を捻る俺を余所に、紅葉は話を進める。


「最後に朝食のシーンだけど……あー、思い出したら具合が悪くなってきたわ」


「え、何で?」


 メチャクチャ美味そうな朝食じゃないか。具合を悪くする要素など皆無だろ。


「実の妹とキスして唾液を飲むわ、JSのパンツや靴下を食べるわ! こんなの読んだら具合が悪くなるのは当たり前でしょ!?」


「むう……」


 ここまでボロクソに言われては、流石の俺もひるむ。


「な、ならこの原稿は――」


「ボツよボツ! こんなの製品化しても売れるわけないじゃない!」


「はあ……仕方ない」


 俺は紅葉から原稿を回収し、渋々とゴミ箱に放り込んだ。


 自信作だったのに……。


「もう最悪。あんたが登校するように説得に来ただけなのに、何であんなものを読まされなくちゃいけないのよ……」


 肩を落としながら重たい息を吐く紅葉。


 こういう反応をされると罪悪感が湧いてくる。……仕方ない。


「悪かった悪かった。お詫びにこれやるから許せよ」


 俺はテーブルに置いてた袋から一冊の本を取り出し、紅葉に手渡した。


「許せって、そんな上から目線で――って、これ……!?」


 俺が渡した本に、紅葉がギョッと目を見開いた。


『JSは最高だぜ!』の四巻。


 JS太郎著者の作品。内容は、典型的な現代ファンタジーもの。主人公がJSとイチャイチャしながら、力を付けていく物語だ。俺のデビュー作でもある。


 俺のはち切れんばかりのJS愛を書き記した一品。俺はネットで評価を確認したりしないが、担当曰く売上はゴロゴロ文庫内でも悪くないそうだ。


「これって確か、発売はもう少し先じゃなかった?」


「担当が完成品を送ってきたんだよ。普段は面倒だからって、そんなことしないくせに」


「へえ……ならどうして今回は送られてきたの?」


 紅葉は疑問を口にしながらも、視線は本に釘付けだ。


 普段はラノベどころか漫画も読まないくせに、なぜか俺の作品だけは読むのは前から疑問だったが、答えてくれたことはない。


「俺に訊かないで読んでみろ。それで答えは分かる」


 紅葉は本を開く。そして、


「……凄い」


 感嘆の声を漏らした。


 しかし、それも仕方のないことだ。先に読んだが、内容は俺が書いたので当然面白い。だがそれ以上に、絵が神懸かっていた。


 絵の色遣い、線の一本一本に至るまで俺のJSへの愛を余すことなく表現してくれている。


「なるほどね、これは担当さんが送ったのも納得ね」


「だろ!? いやあ、マジで凄いよな! 流石は俺の作品の作画担当、プリティーガールさんだな!」


「ちょっ……そんなに誉めないでよ」


「はあ? お前は何を言ってるんだ?」


「べ、別に何でもないわよ……」


 いきなり顔を赤らめるとは、変な奴だな。


「しかし、プリティーガールさんは本当に凄いな」


 プリティーガール。二年前に、俺がデビューしたのとほぼ同時期にイラストレーター業界に現れた謎の天才。


 性別はおろか年齢も不明で、二年間共にやってきた俺ですら会ったことはない。


 俺の担当は正体を知ってるらしいが、なぜか頑なに会わせようとしない。


 いつか直接会ってお礼を言いたいものだ。


「紅葉はどんな人だと思う?」


 何となく幼馴染に訊いてみる。別に答えは期待してのものではない。


「さ、さあ!? 私、ちょっと分からないなあ!」


 慌て出す紅葉。俺、何か変なことを訊いたか?


「私、もう帰るね! 本ありがとう!」


「お、おう。気を付けて帰れよ……」


 いきなり立ち上がると、紅葉は急ぎ足で部屋を出た

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