スキル『世界の妹』を修得したら異世界で若おかみになっちゃった!

柳瀬鷹也

第1話 大人気「国民の妹」金田真結香ちゃん

 『見てください!これが国民の妹です!』




 わたしはテレビに釘付けになっていた。




 キラキラと輝く可愛い衣装を着て、


 真っ白な氷の上を、優雅に、華麗に、スピーディーに滑り、回り、飛ぶその様はまさに妖精か天使のようだった。




 テレビの中の彼女の名は、「金田 真結香」(かねだ まゆか)




 圧倒的な才能と努力で、フィギュアスケート界のトップに君臨する彼女は「国民の妹」という二つ名で呼ばれている。




 彼女の出場する試合のチケットは常に満員御礼。老若男女、誰しもが彼女の演技と笑顔に心を撃ち抜かれてしまう。




 彼女を特集したテレビ番組では、自衛隊さんや警察官の方といった真面目な職業の人たちも堂々とファンを公言し、


「まゆかちゃんは国民の妹!何があっても守り抜く!」と言ってはばからない。




 演技の最後、彼女の決めポーズである、ピストルを発射するアクションと共にみんな両腕で心臓を押さえてキューンと卒倒してしまう。その時の表情は、みんな幸せそのものだ。




 『今回も素晴らしい演技でした! これが国民の妹、金田真結香です!』




 テレビから絶賛のナレーションと、割れんばかりの拍手、そしてリンクに投げ込まれる大量の花束とぬいぐるみが流れ映し出されてくる。




 完璧な演技だった。結果はもちろん優勝。序盤、中盤、終盤と一切のスキもミスもなく、それでいて自由奔放で躍動感と力強さに溢れていた。




 「わあぁ、やっぱり真結香ちゃんはすごい! あこがれちゃう!! わたしも国民の妹なんて呼ばれてみたいなぁ!」




 そう言ってテレビの前で目を輝かせているわたしは、




 「下連雀 澪」(しもれんじゃく みお)、九歳の小学四年生。






 横浜中華街のホテル【ピエール・ドゥ・ロンサール】の後取り娘だ。




 とは言っても、中学二年の姉がいるし、まだ家業をを継ぐなんて事は実感が湧かないのだけれど。




 でも、「働かざる者は食うべからず」という親の方針に従って、時間のあるときにちょくちょくホテルの仕事を手伝っている。




 その分お小遣いを増やしてくれるから嬉しいので、学校が休みの日には進んでお手伝いをしていた。




 特に好きなのは厨房のお手伝いだ。最初の頃はじゃがいもの皮むきや、フライに使うパン粉を作るために食パンをフードプロセッサーにかけるといった仕事が主だったけど、




 一年くらい経った今は、食べ放題のビュッフェやランチセットにお出しするキノコのマリネ、ポテトサラダ、ホウレン草のソテー、サンドイッチやパスタといった、それほど難しくないものを作らせてもらえるようになった。




 当然、ディナーのコースやアラカルトでお出しするような料理は、まだ一切関わらせてもらえないけど。




 わたしは運動は苦手で、「国民の妹」真結香ちゃんみたいに氷の上を滑れたりはしないけど。




 いつか、真結香ちゃんがこのホテルに泊まりに来ることがあった時には、わたしの料理を食べてもらいたい!




 そんな思いで、料理のお勉強をするのであった。




 そしてある日曜日の朝、わたしは家から歩いてすぐの「関帝廟」(かんていびょう)という神社にお参りに来ていた。ここ横浜中華街で働く人達を見守ってくれている「関羽様」が祀られている神社で、横浜中華街で働く人たちの心のよりどころであり、観光名所でもある。




 赤と金色を基調とした豪華な門と本堂から出来ていて、日本式の神社とはまた違う荘厳さがある。




 わたしも日曜日はここにお参りに来るのが習慣になっている。他にも何人もの人がお参りに来ていたり、観光客が記念写真を撮ったりしている。




 白い階段を上り、祠の前で手を叩き、目を閉じて神様にお願いをする。




 (まゆかちゃんみたいに国民の妹になれますように! お料理が上手になりますように! おこづかいが増えますように!)




「……その願い、叶えてしんぜよう!」




 え、だれか耳元でしゃべった?




 あわてて目を開ける。すると、祠の中からゆっくりと何かが出てきた。壁をすり抜けて。




 人の姿?女の人?




 その女の人は、一直線にわたしの方へと近づいてきて、優しそうに微笑みかけてくる。




「さあ、そうと決まればレッツゴー♪」




 いきなり現れた正体不明の女の人に手を取られて、気付いたら私の体は宙に浮かんでいった――

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