美形長身の考える事なんか心底どうでもいい

 レッスのその苦笑を見て私は彼の笑った顔を昼間の一回しか見た事がないと、立ったままふと思った。


 宿屋に居る時は基本、無表情。女将さんや旦那さんと話しをしていても何かしらの感情が顔に出ることはなかった気がする。稀な私との会話では高確率で苦笑していたがどちらかというと自嘲的な感じを受けた。今もそう。


 「急を要するって訳ではないけど、知っていればイシーダも安心する話しかな? 前召喚者捜索の隊は勇者様出立に伴い解散。情報が少ない上に時間が経ち過ぎている、生きていたとしても表立った場に居ないのならばもう人として扱われている可能性が低く、判別や勇者様との遭遇の危険はない、そう方針が決定。不測の事態に伴い、対象者と唯一接触があった俺が抑止力として出立の同行者に決まった」


 私にとって喜ばしい事柄も含まれるのに、話しの要件を喋っている時のレッスの口調がとても恐ろしいと感じた。機械的というのか感情が一切籠っていない、その命令を言った人物の言葉そのままを再生して聞いている感覚。心底どうでもいい、無駄な仕事を増やしやがって目障りだ、と本人に言われた様な錯覚がする。


 「イシーダの知りたい事も大体これで分かると思うんだけど、どう?」

 「……少し考えさせて下さい。衝撃過ぎて何が聞きたいかちょっと吹き飛んでしまったので」


 あまりの言われ様にちょっと動揺している。突っ込み所は多々あるけど……人として扱われてないってなにそれ。拉致されてから人権無視されてる人なんか私、見た事ないよ?

 平和で豊かに見えるのにどこの世界にもアンダーグランドな闇があるのか……大通りを絶対使うっておばちゃん決めた。鼻歌交じりに探検~なんて童心に戻って細道裏道突き進むのもうやめる。


 『いっしーその考え逸れまくってるからね? 今の話しの結果だと、馬鹿め! お前を生かすも殺すも俺の采配一つだ、ふはははは!でFA』

 『それだ! まーくん偉い! まじ勇者!』

 

 ナイスフォローに心中でm9(゜д゜)っ ソレダッ!!の顔文字を送ろう、まーくん。


 一番ハッキリさせたい事はレッスの意向だ。味方かそうなのかまでは分からなくとも害悪になる考えの持ち主なのかだけは判別させたい。律儀にも黙って待っている無表情なレッスに、まずは軽いジャブ。


 「昼間の事が気になったんですが、なんで行き成り勇者様の横に? 私から隠す様に思えたのですが」

 「やっぱり不自然だったみたいだね。ごめんね? 勇者様の能力は未知な物が多くて、もしあの場で彼にイシーダが同じだと気付かれると……その、彼は結構少年の様な性格をしているからその場で騒ぎ立てでもされたら他の同行者への隠滅は難しいと判断したんだ」


 またも苦笑を浮かべたレッスの答えは思いがけない気遣いでの行動だった。意外な考えだったので嬉しく思う、が! 私はレッスが発した初謝罪に天にも昇る心地である!!


 よっしゃーーーーーー!! 恩人とは言えども一度でもいいから謝らせたかった……!!


 女ってのはなぁ、自分を傷つけた人間へのしつこさと強固さは並じゃなんだよ。ハッ。


 『怖いよ~ここに鬼がおる~! いっしーにリアル鬼女の片鱗が見えて全俺が泣いた』


 まーくんの呟きで得意になっていた気持ちをなんとか落ち着かせる。そうだ、まだ話しの途中だ。まーくんのKY発言まじチート!


 「お気遣いありがとうございます、レッス。彼に是非会いたいのですが、対面は叶うでしょうか?」

 「残念だけど……それは叶えてあげれないかな。イシーダの所に来る前に同行者達と話し合って、明日の朝ここを立つのが決まったんだ。道中の勇者様の足が思うより速く、次の町までも問題ないとの判断で。だけど彼は無理してたんじゃないかな、と思うよ。」


 早々に夕食を済ました後、街議会長に宛がわれた客室のベットに直ぐ籠ってしまったしね。相変わらず苦笑交じりで言うレッスだけどいつもと違う雰囲気が漂っている。言葉や表情に感情が薄っすら滲んで見えた気がした。


 『ついでに今もベットに籠ってるのはオレオレ!オレだよ!ダミー1型君です』


 お願い。今は喋んな、学! お母さんお話し中だからね? いい?

 

 『ごめんなさいお母さん』


 気を取り直してレッスに集中しなければ。なんか頭使いすぎてパーンしそうだ。チョコ食べたい。うん、あとでまーくんに出して貰おう。まーくんなら持ってる、はず! 


 「そうですか、無理言ってすみません。……あの、レッスの中では私を神殿に突き出すって選択肢はあるんですか?」


 私の直球すぎる質問に珍しくレッスがビックリしてる。目が点になってんじゃない? ってくらいの実にいい見開きっぷりだ。もう遠まわしに聞いたり、言葉選んだりとか面倒臭くなっちゃったんですよ、おばちゃんだから。


 私の超直球発言の衝撃から立ち直ったらしく、レッスが苦笑した。もう合図は苦笑認識でいいよね?


 「その選択肢は俺にはないよ。ただ、もう少し落ち着いたら家に戻ってきて欲しい、とは思ってるかな?」


 あっ、もーメンドクセ。


 レッスの言葉に私が思ったのはこの一言だけ。その発言は旦那以外認めない。絶対にだ。



 メンドーこの上ないからもうお前帰れ。 




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