ネットの酸いと甘い


 待ち望んだ仕事の終わりは随分と時間がかかった。勇者出立を一週間後に控えてるせいか、生勇者を一目見ようとする人で隣街であるマシエドも徐々に人で溢れてきている。そうなると必然的に宿泊客が増え、私の仕事も多く。


 「出立が終われば少し休む時間を作ろう」そうご主人が労いの言葉をかけ、本日の労働が終了した。真っ暗な空を見上げて、地球よりあきらかに大きい月がいつもより上にきている。心配性な勇者が「何かあったのかもっ何かあったのかも!!! 俺ちょっとマシエドまで行ってくる!!!!」等と暴走してなければいいなと考えながら身支度を済まし、自室に向かった。


 彼は極度に「独り」を恐怖している。

 私だって怖い。だけれど「一人目と二人目」では怖さが違う。


 独りだった者が同胞を得て無くし、また独りになる恐怖。

 独りを知らぬ者が同胞を無くし、初めて独りになる恐怖。


 絶望を知っているかいないかではソレに対しての恐怖は余程のものだろうな、と思う。私は絶望から全てが始まったから彼より少しだけ、冷静になっているのかもしれない。


 ベットに潜り、いつもの体勢でログイン。正直な感想を言っていい?


 『落ち着け!!!! 勇者様wwww!!!!! お前の出立で仕事忙しいからイン遅れるっていってあったでしょーが!!!! メッ!!』


 この書込みがまんま感想です。スレの皆が最初はなだめていたけどネガティブ思考全開勇者に疲れたのか悪ノリし出して脱走はデメリットが大きいやら、じゃあ城から>>1にアピールしてみるやら、マシエドに魔法ぶち込んでみる等、もはやカオスだ。


 やめろ、私を殺したいのか?


 そのくせ私がインを知らせれば『おかえり~』『おつー』『お疲れさーん』とか、めちゃくちゃ普通にしてる。……お前らのノリ替えのよさがいっそ、愛しい!


 昼間、悶々としていた事すら吹き飛ぶ。この場所が、この交流があるから私は狂わずに、見失わずに済んでる。特に今日の様な日は実感はひとしおだ。皆への感謝を心の中で呟き、優しく溶けていった。


 


 ネガティブ勇者が落ち着いてから私は本日発生した懸念案件を早速投下した。途端に変わる空気が心地いい。真面目な人、やる気のない人、ふざけてる人、態度に変化がないのにそれぞれの話しの中心には案件がある。一つの結果を求めない話し合いではとても素晴らしい議論方式なような気がする。私の楽観的予想もとりあえず述べておいた。


 >>1 甘すぎる

 >>1 そんなに旨いこたぁいったら人生楽チンコ

 >>1 もう少し危機感を持て>>1

 >>1 そうだといいねホジホジ(´σ_` ) ポイ( ´_ゝ`)σ ⌒゜

 >>1 それだ!

 >>1 お前ら楽観的と書いてあるだくぁwせdrftgひゅじこl;p@:


 なんていうか、ごめんなさい? 場を乱しただけだったOrz


  

 また結果だけ述べよう。


 うん。なんか私、軽視されてね? おばちゃんなんだか疎外感をすこ~し感じちゃうな。


 >>1 神殿兵なんだろ?そいつがなんか情報持ってくるのは確実だろ

 >>1 まあなんだ、いつでも逃げれる様に荷物はまとめとけ

 >>1 それでFA


 これでも一番生死の危機が身近な人なんですががががが。

 寂しさは覚えるけど仕方ない。うん、仕方ない。

 繰り返して自分で自分を慰める侘しさよ。


 戦うコマンドが選べない私は「逃げる」の一択しかないのも自覚している。


 ベットから降りて夜中にモソモソ荷物を即まとめ始める私は重々にその言葉を受け止めているからだ。決して不貞腐れているからではない。



 『マシエド立ち寄った時にチート駆使してなんとかするからそれまで我慢してくれ>>1 』

 


 最後に書込まれた勇者様の優しい言葉が本日の私の慰めになりました。


 


 勇者様優しさまでマジ勇者!






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