私はモブキャラとしか言いようがない絶望
平和です。
このまま平凡にこちらで第二の人生を初めてしまえと囁く心もある。
容姿が若く見られるのだから年齢を偽ったまま伴侶を得てここで生きる。独り身には嬉しい世界だ。ここの世界は誰だろうが整った顔をして、大体の人は心根の優しい穏やかな人々で溢れているのだから。でも私は鏡を見る度に思う。
ここは私の居場所じゃない。
化粧や、ましてスキンケアなんてしていない自分の顔。違和感。毎日接する人々の顔に慣れて、それが日常になっている。そして夜、寝支度をするたびに鏡に映る自分にいつも助けられる。
自分の顔が自分では分からない事に胡坐をかいて逃げるな、と。
今日の仕事の終わりの伺いと共にご主人や奥さんに挨拶をして自室へ。最後の寝支度の寝巻に着替え、すぐベットに潜り込む。枕を顎の下固定し、手を振って画面を呼び出す。そして日課として定着したネットにダイブ。
行く所は一つ、まとめサイトだ。奇特な協力者のおかげで掲示板から独立し、流れに怯えるという不安はなくなった。何か有用な書込みがされてないか目を通してから、自分のインを伝える。
『お疲れー、仕事終わったけど勇者様wは今日はこないのかねぇ?』
勇者様wは、私が少し落ち着いてkwskの為にスレに行った時に初接触して以来、一日も欠かすことなくスレに顔を出している。まとめに移動してもそれは続いている。生活リズムの違いでほぼ確実に彼の方が先に来ているのがつねだ。
その彼が、まだ、来ていない。
嫌な予感が私を支配しようとしている。彼は拉致されてから直ぐに国王と対面というテンプレ展開をしたらしい。魔王ww討伐の条件に帰還を約束させ、下準備期間に入っていると言っていた。生活、情勢、世界、まずはここで生きる為の一般の事を。慣れてきたら戦闘に対しての本格準備が始まるという予想は彼や私、スレ住人一致の見解だ。
『ただいま、諸君。少し遅れてしまったようだね』
何度目かの更新で、キャラ作りして勇者様wがインしてきたのを確認して、ほっと気を緩めた。彼は決まってここに来る時に「ただいま」と発言する。彼もまた、ここの世界での存在を認めていない。その意思表示だろうか? その事について私は一切問わない。
ただ、かならず皆で「おかえり」と返事をするだけだ。
『おかえり』
そう書込むとリアルで会った事もない彼がへにゃりと気を抜いた笑顔で喜んでいる顔が、見えたような気がした。
『あんがと。ただ良いか悪いか分からんけど、勇者www拉致のお披露目wwが決まったwwwwなにこれ死ねるwww』
彼のこの書込みは、日常の変化を私に覚悟させるには、十分。
良くも悪くも動く時が来た。
でもふと思ったけど、私なにすればいいんだろ?
てか何か役に立てるの?
まさしく完璧といえる最強チート能力多数完備の勇者に。
そんな自分の平凡さに少し泣いてもいいだろうか?
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