第6話 話を聞いてください
そんなこんなで王城にやってきた私と父様。
今の父様の目はぎらついています。絶対に失敗は出来ないのです。まさに背水の陣。母様に家を出る直前まで脅されていましたから……。
さて私達は着いて早々に謁見の間へ通されました。
国王様と王妃様、そして問題の……おっほん、王子が入場されました。私は父様に見習ってゆっくりと礼をします。
「面をあげよ。レイモンド、ジゼル嬢。急に呼び出してすまぬな」
「いいえ、陛下。私達は微塵も、これっぽっちも、面倒なことになったとは思っておりません」
嫌味を爽やかにいった父様。
「いやぁ、私は嬉しいよ。友のレイモンドの所のご令嬢が息子の婚約者になるなんて」
「うふふっ、そうね」
「両陛下、まだ決定しておりません。それに私達侯爵家はこの婚約に反対です」
眉間に皺を寄せている父様からは、母様にシバかれていた時の様子は一切感じられません。その冷気に私もびくりと肩を揺らしました。
父様、頑張って!
「そうはいってもなぁ……。一番収まりがいいのもウェリス家で、何よりジルフォードがジゼル嬢の事を気に入っているから、無理だ。それはお前も分かっているだろう?」
「……ウェリス家は確かに一番権力バランス的にも良いとは思いますが、それは他の侯爵家にも当てはまります。公爵家のご令嬢もいたでしょう。そこを押しのけてジゼルにするのは如何なものかと思いますが。ジルフォード殿下がジゼルを見初めたとかいうアホみたいな話も一時の気の迷いで―――」
「どうだ、ジゼル嬢。息子と婚約しないか?」
「ちゃんと聞いて下さい!」
段々毒を吐き始めた父様の反論に被せて国王様は私にそう尋ねました。父様は飄々としている陛下をみて頭を抱えながら叫びましたが、私はいきなり振られたがために、どう対応すれば良いか悩んでいて、そんな父様の叫びは耳に入りませんでした。
果たしてどうするのが正解でしょうか?
父様が反対しても無理だったということは所詮令嬢の私が言っても何も変わりませんし、うまく言いくるめられそうです。
……泣き落としする?
いや、そんなキャラにもない事は止めておきましょう。ぼろがでます。
「……わたくしはグラシエ公爵家のフリージア様が殿下の婚約者様に相応しいと思いますわ。ご聡明でいらっしゃりますし、何より殿下への愛が一番溢れておりましたから、きっと素晴らしい婚約者様になるのでしょう」
「……どうだ、ジルフォード」
殿下は一歩前に出て、私の方を見てにこりと華やかな、かつ胡散臭い笑みを浮かべ言いました。
「公爵家と婚約せねばならないということも無いですから、ジゼル嬢はピッタリです。私は幸せな家庭を築きたいですから、一方通行な愛は望んでおりません。それに、貴方のお茶会の時の控えめな態度と花開くような可愛らしい笑顔に惹かれたのです。私は貴方がいいのです、ジゼル嬢。いえ、リズ」
……はい、論破。ってやつですかね。
つまり、殿下のフリージア様への感想は「鬱陶しい、嫌い」という訳ですが、私は空かさず心の中でツッコミました。
いや、一方通行な愛って言いますけど……
私 と 貴 方 で は 違 う の か ?
って。
もし仮に、気の迷いで現在私を殿下が好いていたとして、それは一方通行な愛にすぎません。何せ私が殿下の事は何とも思っていませんし、寧ろ出来れば避けて生きていきたい人物なのです。
取って付けたような私を選んだ理由。それで私とお父様が納得すると思ったら大間違いなのですよ、殿下。私は少しも本気にしていません。
あと最後にしれっと愛称で呼ぶのは止めて欲しいです。「リズ」と呼ばれた瞬間、父様にぎょっとされましたし、両陛下はホクホクと私達を見ています。
「殿下、わたくしも一方通行な愛は望んでおりませんわ。ですので……きっとこれから直ぐに殿下には愛し合えるお方が現れると思います」
(訳)殿下の事は好きじゃあありません。だから婚約者は別の人にしてください。
「……ねえ、リズ。私の事は『ジル』と呼んでと言ったよね?」
(訳)ほら、私達仲がいいでしょう?
……ええ……、今の私の話はどこに……?
ぴしっと氷漬けの如く固まった私を見て、黙って見ていた国王様がふっと笑って言いました。
「それだけこういう会話が出来るのだから、二人は問題ないな?」
えええええええええええええええええええええええ!!!!!!!
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