第27詠唱 帝国の復活
しばらくしリリィはゆっくりと目をさます。
何本も連続で映画を見た時の様な疲れがぶわっと体の芯から沸き出て、気だるそうに伸びをした。
「長く寝ちゃったのか......」
辺りは窓からさす月明りで照らされていて、部屋が静かなせいか返り時計の秒針が刻む音がやけに大きく聞こえる。
「あら、お目覚めになられたんですね」
突然聞こえてきたフランチェスカの声に「ヒャッ!」と飛び上がりソファーから滑り落ちた。
「ふうちゃん驚かさないでよ」
「ふふふ、その呼び方懐かしいですね」
「待たせたね、今までココを任せちゃってごめん」
「良いですよ、お帰りなさいリコリス様」
「じゃあみんなの所に戻ろう」
「その前にこれを」
置いてある花瓶の様に大きい黄色く透き通った瓶を渡した。
最初に飲んだ赤い小瓶とは違い今度は果実の様な甘い匂いがする。
「これ全部飲むの?」
「ええそうです、リコリス様の体に刻まれている呪術の魔法陣は強力ですから、その量が丁度良いんです」
「え~」
自分の顔より大きい花瓶の様な瓶に二度見した。
「ちゃんと全て飲んでくださいね、じゃなきゃ中途半端に姿が戻っちゃいますから
「う、うん......」
キュポンッとゴムの栓を抜き一呼吸してから飲み口を咥えて目をつむり一気に飲み始める。
「んぐんぐ......」
飲んでいると徐々に赤く爛れた皮膚は綺麗な灰色の皮膚に戻り、身長は少し縮み元の体に戻った。
「プハァ!凄い甘ったるかった~」
「本当に一気に飲み干しちゃうんなんて流石です」
「私元の姿に戻ったかな?」
少し恥ずかしそうに顔を赤くする彼女に「はい、元の可愛いお姿に戻りましたよ」と答えると少しうれしそうな顔をする。
「私の昔着てたドレスってある?」
「そう言うと思って洗濯して用意しときました」
テーブルの上に置いてある黒い綺麗なドレスを、晴着を扱うようにそっと持ち上げると広げて見せた。
「凄き綺麗だね、ありがとう」
「私が着せてあげますよ」
何気ないフランチェスカの言葉に「へ?」と顔がブワッと赤くなり止まる。
「なに赤くなってるんですか?昔は良くメイドに服を着せてもらってたじゃないですか」
「いやでも、もう大きくなったし......じっ自分で、できるよ」
「恥ずかしがってないで早く着替えますよ」
抵抗するリリィの手首を強引に掴み、震える彼女に容赦なしに着ているローブを脱がす。
「キャ――!」
流石メイドをしていただけあって慣れた手つきであっという間に裸にすると、マジックの様に一瞬でドレス姿に変えた。
「さぁ行きましょう」
「最悪......」
プクーと餅みたく頬を膨らませフランチェスカの後をついて行った。
「そう言えば起きたばかりですみませんがこれからの事はお決まりですか?」
「もちろん」
「流石リコリス様ですね、尊敬します」
その時月光に照らされるフランチェスカの所々穴の開いたボロボロのローブを見て足を止めた。
「どうしたんですか?」
思いつめた表情をするリリィは拳を握り口を開く
「私が女王になるのに皆納得するだろうか」
「私達はリコリス様の帰るのを信じてこの城を守ってきました、少なくともこの城に居る全員は喜びます」
「皆を置いて逃げた私を本当に喜ぶだろうか」
「皆が先に逃げたんです、エルシリア様のご命令で、リコリス様は皆が逃げてもなお戦い続けた、そんなお方を皆は責めたりなんてしませんよ自信を持ってください!」
その言葉にリリィは目頭が熱くなりフランチェスカに背を向けると深呼吸を数回して頬を叩いた。
「ありがとう、じゃあ行こう全てを終わらせる為に」
「はい!」
二人はメイド達の居る部屋に向かう
「お嬢様!あぁお美しい!記憶がお戻りになられたんですね」
「皆、今までごめんなさい突然現れたのに命令する身分じゃないけど、私のワガママを聞いてほしい」
メイド達は右こぶしを後ろ腰につけて左手を高々と上げて「はい、リコリス様!」とオストラン城式の敬礼をした。
「では、あなた達二人は結衣達をここへ呼んできてください、あなた達四人はオストラン城の旗を持って大広間で待機、その他のメイドはここにいないメイドと騎士達を同じく大広間に待機で」
全員は「はい!」と言い即座に魔法で姿を消し行動を開始した。
「リコリス様!」
ドアの方から聞こえる声にリリィは振り向いた。
「記憶が戻ったせいかなんか懐かしい感じがするね、ベティ」
自分の名前を呼ばれたベティは、蛇口をひねった様に涙を滝の様に流してリコリスの腰に抱き着いた。
「良かった、本当に良かったです~!」
「今までココを任せてゴメンね」
「とんでもありません、私はメイドとして当然の事をして来たまでです」
「そうか、ありがとうこれからもよろしくね」
「喜んでお供させて頂きます」
鼻水を垂らしながらニコリと笑う
「その涙はアシュリーの為に取っときな」
ハンカチを差し出す
「やはりあーちゃんを殺すんですね」
「約束だから、本当に自分ができるか分からないけど」
やはりベティはアシュリーと仲が良かったせいか心配そうな顔をし少し黙る
「そうだこのティアラを」
思い出したかようにあの夜エルシリアから預かったティアラを両手から出すと渡した。
「ベティが持ってたのか、もう無くなったのかと思ってたよ」
「エルシリア様から預かる様に言われまして」
「えへへ、見た目だけは女王様っぽくなったね」
「中身も立派な女王ですよ」
すると結衣たちとそれを呼んできたメイドが入ってきた。
「お姉ちゃんどうしたの?その肌と服装」
「これが私の本当の姿なんだよ」
(そうか結衣は記憶を消されていたんだっけ......しかし聞くの忘れたけど誰になんだろうか?)
結衣の別れてからの過去に気になったが、今はそれどころじゃない為聞くのは我慢した。
「皆そろったね、これからの行動を説明したいからテーブルの周りに集まって」
何も知らない結衣やアイラ達は「何話すんだろう」や「リリィちゃんどうしたんだろう」などざわざわと話すが、リリィはテーブルの前に立つと火が消えた様にフッと静かになった。
「ありがとう、私はあなた達を信じている、これから話す事はそんなあなた達を思っての事ですから良く聞いてください」
ドミニカ達はゴクリと固唾を飲み頷く
「あなた達は今から向こうの世界の昔私がアシュリーと住んでいた家に避難してもらいます、案内はベティがするので安心してくださいね」
ベティの方を見ると「お任せください」と頭を下げた。
「でも、リリィちゃん何故私達は避難しなきゃいけないの?」
疑問に持ったイザベルは手を上げて聞いた。
「確かに疑問に持ちますね、それは話すと長くなるから詳しい事は言いませんが、禁術で世界を荒れ地にし全種族を全滅させるからです、その禁術であなた達が巻き込まれて死なない様にです」
「もしかして過去と何か関係するの?」
メイドにリリィがリコリスだった頃の事を聞いたのか、ドミニカはリリィの過去を知っているかの様に聞く
「そうです、話しは変わりますが向こうの世界とこちらを繋ぐゲートは第五地区にあるのですか?」
アイラの方を見ると頷いて口を開く
「あぁ、撤去されてなかったらそこにあったはずだ、しかしアシュリーの手下がそこに行くのは難しいだろう」
アイラの言葉に「アシュリー?」と眉をひそめるベティに「どうしたの?」とリリィは聞く
「いや、アシュリーは今向こうの世界に居るのでここにはいないと思いまして」
「確かにあの人はもうこの世界には戻るなんて考えられないしなぁ」
「じゃああれは......」
「考えられるのはアシュリーに化けた使い魔でしょう、なのでそこまで警戒しなくても良いでしょう、それよりも金ぴかを警戒したほうが良いかと私は思います」
「リリィの事なら大丈夫、たぶん偽物である私だけしか眼中にないと思うから」
「なら良いんですが……」
「それよりもこの黒い雨でしょう、この感じだと恐らく地中に眠ってるマジカルコアは枯れ果てて魔法は無限に使えない状態でしょう、しかも魔法少女だとずっと濡れると魔力が雨に吸われて死もありゆる状態になりかねません」
窓から見える荒らしの如くビュービューと降る雨に目を細める
「我々黒灰の魔女なら魔力もありますし大丈夫では?」
「そうか、では戦闘も考えて今いるメイドは全員はアイラさん達の護衛についてください、任務が終わったらあなた達も向こうの家で待機で」
「分かりました!リコリス様」
「あと結衣は私と残ってね」
「分かった」
話しが一区切り着いたところでドアからコンコンとノックが三回聞こえてきた。
「はい」
「リコリス様、騎士とメイド全員を集めました、旗の準備も完了です」
「分かった、ありがとう」
リリィはイザベル達の顔を見渡し「じゃあ向こうで会いましょう」と言って部屋を出ていった。
♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎
リリィと結衣は大広間へ向かっていた。大広間は女王に手間を取らせないために最上階に作られているのだ。
壁のヒビからヒュルヒュルと隙間風がうるさく聞こえる中、二人は黙って坦々と階段を上がっていると結衣が口を開いた。
「ねえ貴方ってリリィお姉ちゃんじゃなくて、もしかして黒灰の魔女元王女のリコリス・オストランなの?」
「そう、それで今から相手するのが本物のリリィ」
「そう、なんだ......そうだったんだ」
リリィは足を止めて後ろにいる結衣の方を向いた。
「私からも質問させて、貴方は誰に記憶を消されたの?少なくともアシュリーじゃないはず」
「私の記憶を消したのは恐らく雪ゆきと名乗る人」
「恐らく?」
「正直覚えてない、覚えてないけどあの人に会ってから記憶が無くなったの」
「そうなんだ」
(なるほどやっと分かった、私と戦った後結衣は雪と名乗る人物に会い、私の記憶だけを消し同時にゲート化する魔法陣を消した、その数年後、機動隊に入りドロテガに会ってリリィとの思い出を制御している魔法陣を解いてもらった......か、しかし何のために?)
考えるとキリがないと思ったリリィはモヤモヤしながらも再び階段を上り始めた。
「そういえばその雪って人が“黒灰の王女リコリス様に全てが終わったら私の所に来て下さい魔法のない世界で待ってます”って言ってたよ」
「そう、なんだ」
(という事は黒灰の魔女か......)
ぼんやり考えながら上るうちに大広間のドアの前に着き、リリィは一旦頭を切り替える為に深呼吸をした。
「結衣、貴方は後ろで立ってるだけでいいからね」
結衣が頷くと「よし」と扉を開けた。
「あ、リコリス様、準備は出来ました」
開けた扉は大広間の舞台に繋がっていたみたいで舞台準備をしていたメイドが入ったリリィに近づく
「ありがとう、あなたは後ろに並んでて」
「はい!」
舞台の前を見ると前に20人ほどの騎士とメイドが並んでいた。
(結構少ないんだなぁ)
リリィは演説台の前に立つと「今並んでる皆は右端によって並んで」と言い列をずらさした。
「まさかココで使う事になるなんてね」
人差し指にはめている流星の指輪をさすると拳を握り天井に向かって突き上げた
「我、この指輪に命ずる!反黒灰の魔女をここに集結させよ!」
指輪は星の様なきらめきが無くなると共に、一瞬で60人ほど現れる。
突然の出来事に呼び出された反黒灰の魔女達はキョトンとし、隣で並んでいた全員もキョトンとしていた。
「重ねて命ずる!今召喚した者達に、私に対する強い信仰心を植え付け裏切らない様にせよ!」
ガラスの指輪はたちまち石化すると砂となり消えていった。
(願いは叶ったのか?試しに命令してみよう)
「そこの貴方、今すぐに死になさい」
指を指されている灰色のローブ姿の反黒灰の魔女は「リコリス様のご命令であれば!」と言い少しの迷いも見せず、杖を握り杖先を米神こめかみに押し当てると「ツァンプフェン」と唱えて太い鋼の槍を出現させ脳みそを貫通させた。
「......」
強い信仰心を植え付けられてた魔女達は恐怖という感情がないのか、仲間の血や脳みその破片がベッタリと服に着こうが一言も悲鳴を上げず、ただただリリィの方を見て整列をした。
逆に正常な魔女達は驚きを隠しきれず、目を見開いてその死体を見ている者も居れば思わず嘔吐おうとをする者も居た。
「右端の皆驚かせてすまなかった、だが!これは必要な事である!君たちのすぐ近くにいる者達はついさっきまで殺し合っていた者だ!今信仰心を試させてもらった、皆周りを見渡してみろ!」
整列しているメイドや騎士達は言われた通りに自分の周りに居る人たちの顔を見渡した。
「そこにいるのがお前たちの信じる事の出来る仲間だ、それ以外は敵だと思え!知らないやつは敵だ!武器を持っていなくても敵だ!信じるな!エルシリアは人を信じすぎた故に死んだそしてこの城が犠牲になった、全ては言葉が原因だ!言葉が人を狂わせる!魔法じゃない言葉なのだ!言葉はウイルスみたいなものだ!耳に入り脳に寄生する!
我々が無くすべきはそのウイルスを発生させる生き物全てだと思わないか!」
握った拳で台を叩くと周りから「そうだー!」や「その通りだ―!」などワーワーと怒涛の声が上がる。
「お前たちは私の為に命を燃やして戦う駒に過ぎない、しかし!私もこの帝国の駒に過ぎない、だから私はお前たちに全てを捧げよう!だからお前たちも全てを私に捧げろ、
我が国は火の鳥だ!私達の力で蘇らせ、もう一度旗を立てよう!」
拳を前に突き出すと四つのオストラン帝国の国旗が高々と上がる。
「これよりワルキューレ計画はファイナルフェイズに移りミッション・グランドゼロを発令する!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます