第257話 オリンピアー!

 今回は、塔を昇った時と違い、目的地に近付いて来ている気配は有った。

 しかも、塔が途中に何本か在ったし、小さな島も在って、降りて休む事も出来たのも大きい。

 ただそれだけの事なのだが、景色が変化してくれるだけで、『目的地の無いマラソン感』は無くなり、先へ進む事が出来る。

 距離にしたら、上方向には10万ヤルト(10万メートル=100キロ)程度しか行っていないのだけど、上昇に使うエネルギーは、横方向に飛ぶエネルギーとは比べ物にならない位大きいんだよね。

 まあ、神竜であるブランガスにしてみれば、肉体的に疲れたというよりも、精神的に疲れたというか、飽きたって感じだったみたいだけど。


 次の朝、ブランガスの手の中で目覚めると、ケイティーとクーマイルマは既に起きて、外を眺めていた。

 ケイティーが、ブランガスの指の隙間からの視線を外さずに、私の方へ右手だけ伸ばして、来い来いと手招きする。



 「どうしたの?」


 「あった。」


 「ありました。」



 何々どうしたと、二人の側へ行って、外を見てみると、目の前に巨大な山がそびえ立っていた。

 火星のオリンポス山に匹敵するのではと思わせる程の巨大な山だ。

 火星のオリンポス山って、標高2万7千メートルだっけ。エベレストのおよそ3倍の火山だ。

 この山は、火山では無く、エベレストの様な褶曲山脈の一部みたいで、屏風の様に連なった山の一番高い所の事なんだけど、周囲の山もそれに匹敵する位に高い。化物山脈だ。


 だからといって、1万キロの彼方から見えるというのは物理的にあり得ないじゃん?

 いや待て、私はこの世界を勝手に地球規模の惑星だと思っていたのだけど、もっと大きい可能性も有るのか。

 えーっと、1万キロの彼方から標高3万メートルの山が見える、星の半径はと…… 計算してみる。

 あ、無いな、太陽のサイズの倍以上にもなってしまう。そんな巨大惑星あるわけ…… 無い? いやいや、この広い宇宙には、無いと断言出来ないものがあるんだよなー…… でも、そのサイズで重力は地球レベル? うーん、何で出来てるの? ガスで出来ている木星だって超重力だというのに。

 いや、ここが惑星の上というのがそもそも間違いなのでは? 謎の異世界なんだし。平面世界かもしれないぞ? そんな世界って、何処だよ!?

 等と自問自答していたら、こっそり私の肌に触れて思考を読み取っていた、ケイティーとクーマイルマがポカーンとした顔をして、頭の上にハテナマークを浮かべていた。途中から、意味が分からなかったらしい。



 「この高さの山は、他には無さそうなので、ここで決まりですか?」



 そう、クリオネ達に問うたら、動きが激しくなった。

 ケイティーの妖精の通訳によると、ここで間違い無いらしい。

 そうか、やっと目的地に着いたのか。


 私達は、地面に降り、ブランガスは人竜形態になった。

 朝食を皆で食べてから、あの山に…… 昇るの? 何の装備も無しに、徒歩で昇るのは無理だよね。またブランガスに乗せていって貰うしか無いか。



 「ところで、ここ、ちょっと寒くない?」


 「はい、寒いです。」


 「見て、雪があるわ。」



 ケイティーとクーマイルマが寒くてガタガタ震えている。

 ケイティーは、妖精を二人出すと、一つをクーマイルマへ渡し、体温を調節する様に命じた。

 妖精は、クーマイルマの頭の上へ乗ると、光輝いて魔力をクーマイルマの体へ通している様だ。

 ケイティーも自分の肩に妖精を乗せている。いいな、あれ可愛いな。私のジニーヤは私と同じ位の身長が有るので、肩や頭の上に乗せられないんだ。もしかして、やれば小さいの出せるのかな? まあ、ジニーヤに頼らなくても、私は自分の魔力で体温調整出来るから良いんだけどさ。何かつまらない。


 ケイティーが指差す山肌の裾野辺りから上が、白くなっている。

 裾野と言っても、その辺りで2千~3千ヤルトはあるのだろう。それ位、この山は馬鹿でかいのだ。



 「でも、おかしくない? 塔の上へ10万ヤルト(100キロ)昇っても、空気が薄くも寒くも成らなかったのに、何でここは寒いのかな?」



 頭上を見上げると、半分の太陽が輝いている。気の所為なのか、光がちょっと弱い様な?

 まあいいや、飯だ飯っ!

 道中の海で見つけた魚を捕まえて来たから、それを焼いて食べよう。

 森育ちのクーマイルマは、海の魚はあまり馴染みが無い様だけど、焼き魚の美味しそうな匂いには抗えなかった様だ。美味しい美味しいと食べていた。空腹は最良の調味料とは良く言ったものだ。

 カツオ位の大きさの魚なので、一人1匹も食べればお腹いっぱいになってしまうのだけど、ブランガスは頭からバリバリと、捕まえて来た残りの数十匹を全部一人で美味しそうに食べていた。



 「ねえ、ここからはこの子達が案内してくれるそうよ。」



 お、クリオネ達、やっと役に立ってくれるのか。

 観察者プローブというだけあって、本当に観察するだけしかしてくれなかったもんね。

 ジニーヤが改造したおかげで、1匹だけは片言は喋れる様になったけど、あまり意思疎通出来ていなかったからさ。心配しちゃったよ。


 さて、ブランガスに乗って飛んで行こうとしたら、すい~っとクリオネ達は、飛んで行ってしまった。

 徒歩移動位に遅いので、ブランガスに乗って追跡する事も出来ない。ブランガスは、ゆっくり飛べないのだ。

 仕方無いので、皆で歩いて追いかけて行く事になってしまった。

 私達、山を昇る様な装備なんて、してないよ? どうするの。難儀な案件に成ってしまいました。

 岩場を1リグル(1.6キロ)も歩かない内に、ブランガスがぐずりだした。子供か!



 「もう~、歩くのだ~る~いぃ~。」


 「ブランガス様、子供みたいですよ?」


 「だぁってぇ~、私ぃ~、歩くの好きじゃないのよぁ~。」


 「もう、子供みたいに駄々こねて! 置いてっちゃいますよ!?」



 クーマイルマがブランガスに厳しい。あまり無礼を働かない様に言って置かないと、いつかうっかり酷い目に合うかも知れない。なにしろ、神竜がうっかり力加減を誤っただけで、人間なんて蟻ん子みたいに潰されてしまうのだから。



 「仕方無いなー。私が運んであげるよ。」


 「わぁ~い! ソピアちゃん、大好き~。」



 抱き付こうとしてくるのを、ひょいと避け、魔力で頭の上に持ち上げて歩いた。



 「わ~い、楽ちん~。」


 「あなた達も疲れたなら、運んであげるわよ?」


 「いえ、大丈夫。(みっともないわ)」


 「あたしも大丈夫です……(それは、恥ずかしいです)」



 クリオネプローブ達は、地面から浮いているからスイスイ進むけど、私達は足場の悪い岩だらけの斜面を歩いて昇っているので、かなり遅い。



 「あ……」


 「ん? どうしたの?」


 「いや、自分の足で律儀に歩かなくても、浮遊術で浮いて付いて行けば良いんじゃん!」



 私って、おまぬけー。3人運ぶ位、今の弱った魔力でも全然出来るよ。

 私は、二人を持ち上げ、自分も浮遊術で浮かび上がって、クリオネプローブ達に付いて行く事にした。



 「ねえ、ケイティー、あの子達にもっとスピード出しても良いよって言ってあげて。」


 「分かったわ。」



 ケイティーは、妖精をクリオネ達の所まで飛ばすと、移動スピードが上がった。快適快適。



 「魔力の到達範囲は、5ヤルト位って言っていたけど、10ヤルト位は行けるみたいね。」



 ケイティーの指摘で気が付いたけど、そうみたい。徐々に魔力の有効範囲が広がっているみたい。

 今、地上から10ヤルト位の所を飛んでいる。

 良く見ると、私を中心に15ヤルト位先で何かがバチバチと反応して火花を散らしているのが分かる。

 反対のエネルギー同士が、エネルギーの釣り合う位置で対反応しているみたい。



 「大発見です! ソピア様の近くだと、魔導が使えます!」


 「あらまぁ~。大発見だわぁ~。」



 へ、へぇ~。私は、塔の代わりになるのかー。



 「でも、鍵は使えませんよ。」



 塔の劣化版だった。



 「水が出せるのは大きいですよ! はい、ソピア様、あ~ん。」


 「ごくごく、有難う、クーマイルマ。」



 気が利くな、お嫁さんに欲しい人材だ。

 あ、クーマイルマの目付きがおかしい。余計な事考えない様にするの難しい。




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