第254話 帰還の可能性

 「えっ? あたしがこの世界で魔導を使える?」



 ソピアの話はクーマイルマにとって、かなり意外なものだった様だ。

 何故なら、神竜であるブランガスでさえ、反力場アンチフォースフィールド内では魔力場を展開出来ないのだから。



 「あの村の戦士達は、不思議な魔導を使っていたの。それは、ジニーヤの魔導と干渉して消えてしまったんだけどね。」



 私は、自分の仮説を話してみた。

 魔都では、魔王様が反位相空間体アンチフェーズ・プラス、通称マナ喰いを吸収ドレインして使っていた。

 魔導として使わないで、そのままエネルギー体として撃ち出すだけだたのだけど、それを魔導を発動するエネルギーとしても利用出来るのではないのか、と。

 つまり、反力場アンチフォースフィールドは、私達の居た世界の力場とは、逆のエネルギーフィールドなのだ。

 グラフに描けば、プラスとマイナスの様に、ゼロを中心に折り返した様な、反転したエネルギーなので、ちゃんとエネルギー量を持っている。

 ここの住民である、『ひと族』は、この世界に充満するエネルギーを利用して、魔導を発動していた。

 つまり、同じ種族であるクーマイルマにも、それは出来るのではないか?



 「でも、やり方が全く想像出来ません……」


 「多分、魔族も生物である以上、体内ではアンチマナは生成出来ないと思うの。ただ、耐性があるだけ。だけど、外部のアンチマナを吸収して貯め込む事が出来る。それを利用するのよ。」


 「アンチマナを吸収ドレインする……」


 「そう、魔王様が、神殿内部に溜め込まれたマナ喰いを吸収していた様に。」



 クーマイルマは、考え込んでしまった。

 こればかりは私にもやり方を説明する事が出来ない。何故なら、私も出来ないのだから。

 自分で見つけて貰うしか方法が無い。


 そうこうしている内に、森の中の塔へ近付いて来た。私が最初に目指していた塔だ。

 塔へ着くと、私はブランガスの掌から飛び降り、塔へタッチしてテレパシーを送ってみる。



 『!--お師匠! ヴィヴィさん、皆! 聞こえる!?--!』


 『『『『『『『『『『--ソピア!!!--』』』』』』』』』』


 『--無事だったか!--』

   『--皆には会えたの!?--』

  『--怪我はしていない!?--』

    『--お腹空いてない!?--』

     『--そこは何処なの!?--』


 『!--ちょっと皆、一度に喋ったら分からないよ!--!』


 『--おほん、ソピーや、皆とは合流できたのかな?--』



 皆が一斉にわーっと喋ったので面食らったのだけど、代表してお師匠が状況を確認してくれた。



 『!--うん、皆とは合流出来たよ。今皆ここに居ます。--!』


 『--ケイティーです。皆無事です。』


 『--クーマイルマです。こっちにも魔族が住んでいました。--』


 『--ほう、魔族がのう……--』


 『!--そんな話はどうでもいいなじゃな~い。私は、ソピアちゃんに出会えただけで、し・あ・わ・せ、なの~。--!』


 『!--あーもう! すぐ抱き付くー! 甘噛するなー!!--!』



 《クライアントとの接続が復帰しました。同期を開始します。古い情報をアップデートします。》



 ん?

 何か謎のメッセージが頭の中に……



 『!--ソピアちゃんが~、こっちで得た知識や新しい魔導なんかが~、私~にも共有されたのよ~。--!』


 『!--あっ! ずるいぞ、ブランガスだけ!--!』


 『!--僕もそっち行きたいー!!--!』


 『!--まあまあ、皆が帰ってくれば、僕らも得られるさー。慌てない慌てない。--!』


 『!--ブランガスだけが一足先っていうのが狡いんだよ!--!』


 『!--ヴァンストロムは、おこちゃまね~。でも~、こればっかりは~、危険に飛び込んだ私ぃ~の役得なのよ~。--!』


 『『『!--ぐぬぬ……--!』』』



 確かに、危険を顧みずに来てくれたケイティー、クーマイルマ、ブランガスには感謝しても仕切れない。

 もしかしたら、転送先が真空の宇宙だったかもしれないし、ブラックホールの内部だったかも知れないのに。



 「ほらほら、感謝はちゃんと言葉にするのよ~。」


 「う、うん、ブランガス、クーマイルマ、ケイティー、来てくれてどうもありがとう。……なんか照れ臭いよ。」


 「はい、良く出来ました~。」


 「だからもー、甘噛やめてー!」



 私達は、右も左も分からない異世界で再開出来た事を喜び合い、これからの方針を話し合った。



 「方針と言っても、元の世界に戻る方法を探すんでしょう?」



 そうなんだ、この世界から元の世界へ戻る方法が全く見当も付かない。

 来れたんだから、戻る事も出来そうな気がするんだけど、こっちの世界にはピラミッドが見当たらないし、そもそもあの装置は一方通行の可能性もある。


 ゼロの領域ヌル・ブライヒ、私が言う所の謎空間へ入る事が出来れば、可能性が無いわけではないのだが、こっちの世界と向こうの世界の目印が無ければ、無限に存在する並行宇宙の中から見つけ出す事なんて出来やしないのだ。謎空間に入ったまま、永久にその中を彷徨うしか無い。

 しかし、手がかりが一切無いこの状況では、0.001%だろうと0.0000……1%だろうと、謎空間移動が最も可能性が高いのだろうけどね。

 そういや、ジャンヌは他の宇宙へ出掛けて行って、神格の欠片を拾って、どうやって戻って来ているのだろう?



 『!--教えて!ジャンヌ先生!--!』


 『!--そんなの、一所懸命に帰ってくれば良いんですよ!--!』


 『!--ええー……--!』


 『!--と、言うのは冗談で、目印を付けとけば良いんです。空間扉を開きっぱなしにしておけばいいの。--!』


 『!--あ、ああ…… なるほど。--!』



 なんだ、意外が簡単な方法だった。

 何で私がこれを思いつかなかったんだろう。

 ドアは開けたら閉めなさい、という親の躾で、出入りしたら、無意識に閉めちゃうんだよね。



 「じゃあ、空間扉を開く方法が解かれば、帰れる可能性が有るのね!」



 まあ、それはそうなんだけどね。あくまでも可能性ね。

 取り敢えずは扉を開く事を最優先の目標にしておこう。



 「それもそうなんだけど、この子達の事も気に成るんだ。助けを求めているの。」



 例の24匹のクリオネプローブ達の事だ。1匹は私のジニーヤが改造しちゃったけど。

 ケイティーが、妖精ジンを出して、その1匹と遊ばせている。



 「私の妖精ジンに聞いて貰った所によると、この子達は、神を救えるだけの者、つまり巨大なエネルギーを持った者が現れるのを待っていたらしいのよね。」


 「そこまでは私の聞いた情報と一緒ね。」


 「疑問なのは、神とは何で、何処に居るのか。助けて欲しいというのは、救い出して欲しいという意味なのか、手伝って欲しいという意味なのか……」


 「それから、この子達、面白い事を言っていたわ。ソピアの事をメソ……」


 「メソ言うなー!」


 「違うの、中央神核メソ・デイティ・マハーラと呼んでいたわ。」


 「紛らわしいぞ、コノヤロー!」


 「私は、この単語を聞いた事があります。ブランガス様、あなたはソピアの事をそう呼びましたよね。海底ピラミッドでヴァンストロム様を問い詰めた時に、確かにそう言いました。」



 ケイティーは、ブランガスへ向き直り、厳しい目つきでそう問い質した。




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