第251話 クーマイルマの勘

 1日の捜索を終え、塔に集合して報告をし合う。



 「次の塔の中間辺りまで広範囲に飛んでみたけれど~、全く反応無しだったわぁ~。」


 「私達も大木の虚とか洞窟とか、沢の下なんかを重点的に見て回ったのだけど、何の痕跡も見つからなかったわ。」


 「あたしは、ここでは無いと思います。」



 ブランガスは、疲れたーという様に塔に背を着けて座り込んだ。

 たった1日の捜索で、見つかるはずは無いと思うのだが、クーマイルマの言葉には何か根拠が有るのだろうか?



 「何と無くなんですけど、ソピア様の気配がする気がするのです。あっちの方角から。」



 クーマイルマは、ある方向を指さした。



 「本当なんでしょうね~。眷属の繋がりのある、神竜であるわた~しぃ~でさえ、分からないというのに~?」


 「でも、クーマイルマは、誰よりもソピアのマナを体内に取り入れた子ですし、そんなつまらない嘘を言う子ではないです。」


 「ふう~ん?」



 ブランガスは、マジマジとクーマイルマの顔を見つめた。

 クーマイルマは、勉強の為という名目で、飲料にはするなというソピアの言い付けを破ってまで、ソピアのマナが溶け込んだ風呂の残り湯を飲んでいた程の少女だ。

 かなり変態的執着にも思えるほど、ソピアへの信仰心は強いのは確かなのだ。

 クーマイルマの中のソピアのマナが、引かれ合っているとも考えられなくもない。

 どちらにしろ、全く手がかりが掴めていない現在、僅かな可能性にも賭けてみようという気持ちであった。



 「まあ、この調子で調べていては~、見つけ出すまでに何年掛かっちゃうか分からないものねぇ~。ここは、この子の勘に頼ってみるのもアリかもねぇ~。」


 「私も賛成です。もしそれで見つからなくても、また今まで通りの捜索方法に戻れば良いだけですから。賭けてみましょう!」



 次の日の早朝、三人は、キャンプを畳み、万が一行き違った時の事を考えてメッセージを残し、クーマイルマの勘に従って、その方向へ飛び立った。

 クーマイルマの指し示す方向は、次の塔の右寄りの方向だった。

 ケイティーは、塔を通過する時、ちょっとこの塔の周囲も捜索してみたい、もしここの近くにソピアが居たなら、すれ違ってしまうという気持ちで、後ろ髪を引かれたのだが、一度決めた事なので頭を振ってその考えを振り払った。


 途中で夜になり、安全そうな場所を探してキャンプをして、まだ薄明るく成って来たら飛び立つ。

 塔は、その間に2本程パスした。

 この世界も、地表の大部分は樹海に覆われている様だった。

 三人が最初に転送された様な砂漠地帯はもう見当たらなかったが、サバンナっぽい樹木がまばらに生えている地帯は在ったし、草原地帯も目にしたが、大半は森の様だった。

 何処かに原住民が住んで居る様な、国とはいかなくても、せめて集落位はあるのかなと期待はしていたのだが、知的生命の住んで居る痕跡は全く見なかった。



 「こんな所で、ソピア、心細い思いをしているんじゃないのかな……」



 皆は無言だった。

 と、その時クーマイルマが確信に満ちた声で叫んだ。 



 「ここ! この辺りです! 間違いありません!」



 塔の近くでは無いが、クーマイルマがここだと断言した場所へ向けてブランガスは、一声吠えると高度を低め、適当な着陸出来そうな開けた場所を見つけて降り立った。



 「大当たりかも。 上から見た感じだと、森の中から煙が立っているのが見えたわ。あっちよ!」


 「何か悔しいわね~、私がぁ~分からなかった事がぁ~、こんな小娘に分かっちゃうなんて~。」



 魔力阻害フィールドさえ無ければ、私ぃだって~と悔しがっている。

 煙の見えた方向へ進んで行くと、奇妙な樹木の残骸が散らばっているのに気が付いた。



 「まるで戦闘の跡みたい。何が有ったのかしら? ぎゃあ!」



 傍らに転がっていた、木の枝を杖にしようと何気無く拾い上げたケイティーが、悲鳴を上げて枝から手を放した。

 驚いた事に、枝は蛇の様にのたうち、ケイティーの右腕に絡み付いて来たのだ。あまりの激痛にケイティーは枝を振り払おうとする。

 それを見ていたクーマイルマが、ケイティーから枝を引き剥がそうと手をかけた瞬間、掌に走った痛みに思わず手を引いた。

 掌を見ると、幾つかの針で刺したような穴が開き、血が流れている。

 ブランガスは直ぐにケイティーの腕に絡まっている枝を掴むと、力任せに引き千切った。

 しかし、枝からは無数の針の様なトゲが飛び出しており、枝の破片がケイティーの腕に縫い付けられていて、離れようとしない。

 ブランガスは、慎重にその破片の一つ一つを取り外し、腕を握ったままそこへマナを注入した。



 「ぎゃああああああ!!!」



 ケイティー大絶叫。

 ケイティーの腕からは、今の植物のトゲだろうか、細胞の一部が皮膚を突き破って幾つも飛び出し、地面に落ちる前に燃え尽きた。 腕の方もブランガスのマナによって傷はふさがり、前よりも調子が良い位に回復してしまった。



 「この激痛さえ無ければ……」



 マナ水であれだけ痛いのに、直接注入された痛みと言ったら、筆舌に尽くしがたい程だった様だ。



 「結果良ければ全て良しよ~ん。あなたも手を出しなさぁ~い。」



 右腕を抑えて蹲るケイティーを知り目に、クーマイルマの方を向き直って、来い来いと人差し指で合図をしながら、ブランガスは悪びれずに言った。

 ケイティーの痛がり様を見て怖気づいたのか、首を左右に振って遠慮しているクーマイルマの手を取ると、森の中にはクーマイルマの絶叫が木霊こだました。



 「それにしても、この木は何なんでしょうか? 動物なのかしら?」



 ケイティーが剣の先で枝を突いている。

 ブランガスがそれを拾い上げると、枝の側面に無数の穴が開いて針が飛び出し、腕を突き刺そうとしてくる。

 しかし、その針は神竜の皮膚は突き破れない様で、肌の表面で跳ね返されていた。

 ブランガスが、えいっとマナを込めると、その枝は炎を上げ、燃え尽きてしまった。



 「その辺りに散らばっている木片には十分気を付けて進みましょう。」


 「刺されても~ぉ、私がすぐ~に直してあげるわよ~。」


 「細心の注意を払って進みましょう!」



 クーマイルマがブランガスの言葉を無視してケイティーの言葉を補強してきた。だって、木片に触ると二重に痛い目に合うのだから。もう懲り懲りなのだろう。

 煙が立ち昇っていた辺りに近付いて行くと、森の中に微かに太鼓の音が聞こえて来た。



 ドンドコドンドコドンドコドンドコ……



 三人は、顔を見合わせ、いきなり襲われる危険性を考慮して、背を低くして、慎重に進んで行くと、開けた場所に、焚き火を中心に踊り回っている、複数人の人影があるのが分かった。


 どうやら、ここは原住民の集落らしく、住居も樹上に、目立たない様に作られている。

 焚き火の奥からは、大勢の男達が神輿の様な台座の上に載せられた椅子を担いでやって来た。

 そこには頭にカラフルな鳥の羽で飾られた、黄金の冠を被り、服に色取り取りの装飾品やネックレス、腕輪や足輪で飾られた少女が座っている。

 原住民は、謎の奇声を発しながら踊り狂っている。



 うんばばうんば、うんばばうんば…………



 焚き火の回りで踊っていた原住民は、その少女を載せた神輿が登場すると、その回りを取り囲み、踊りながら立ち止まっては平伏し、再び踊っては立ち止まり平伏するを繰り返している。

 やがて神輿は、村の中央に設えられた一段高い場所へ降ろされ、全ての人が平伏して祈っている。



 「ソピア! なーにやってんのよ、あなた!!」



 ケイティーは、思わず突っ込みながら飛び出して行ってしまった。

 ツッコミ体質なのだろう。我慢出来なかったらしい。



 「あっ、ケイティー、クーマイルマも! ブランガスも居るの!?」




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