第188話 ペンタグランマ

 「わかったぞ!」


 「どれが!?」



 皆で朝食を食べていたら、お師匠が飛び込んで来た。

 だけど、問題が有り過ぎて、どの問題が判ったのかが分からない。

 落ち着いて、詳しく聞いてみると、王都の五芒星ペンタグランマを調べていたのだと言う。

 お師匠が浮遊島、アクセルがエピスティーニでそれぞれ分担して、突き止めたのだという。



 「うむ、この世界には、ダルキリヤと同じ規模の五芒星ペンタグランマが、全部で12個有ることが分かったのじゃ。」


 「ふーん? ヴィヴィさん、他に五角形の国に心当たりある?」


 「いえ、ちょっと思い付きませんが……」


 「国とは限らん。遺跡じゃからな。人の立ち入らぬ山岳地帯だったり、地竜の居る白い大陸だったり、海底だったりするのじゃ。」


 お師匠が、印の付いた球体を倉庫から取り出すと、私達に見せてくれた。

 一つは、北の白い大陸の地峡近くに在った、小さな村の辺りだ。

 球体の表面に、12箇所の印が付いている。私はそれに見覚えが有った。



 「あー、これ、サッカーボールと同じだ。切頂二十面体ってやつでしょう。」



 切頂二十面体というのは、12枚の五角形とそれを取り囲む20枚の六角形から成る立体だ。正二十面体の角を切り落とした形なのでそう呼ばれる。身近な物では、昔の白と黒のサッカーボールの形。知られていないのは、原子爆弾の爆縮レンズの形でもある。

 五角形同士の距離は、およそ4390リグル(約7024キロメートル)。とすると、球の直径は大体8125リグル(13000キロメートル)弱で、外周はおよそ25000リグル(40000キロメートル)ってとこか。大体地球と同じ位だな。

 お師匠がびっくりした顔でこっちを見ている。



 「え? 何?」


 「おまえ、今の情報だけで星の直径と外周まで暗算で計算したのか?」


 「あ、本当だ。無意識だった。数学者半端無いな。でも、距離の数値が大雑把だから、大体だよ?」



 まあ、凄いっちゃ凄いのか。sin36°とか計算しちゃってるしな。普通出来ないよね。



 「あ、そう言えば……」


 「来るぞ!」


 「ソピア様、来ます!」



 ドドドドドドドドーーーン!!!!!!!!



 オウフ、オーウフ! 不意打ちだった。今回8つか。

 でも、もう気絶しないどころか、クラっとも来ない。頭にマッサージ機押し当てられた程度の振動だったよ。

 内訳は、水族館の飼育員、薬剤師、ラノベ作家、考古学者、電気工学科の学生、物性物理学の研究員、パティシエ、歌手、の8つ。

 何か、これ必要なのか? と思う様なのも見受けられるけど、誰のチョイスなんだろう?



 『!--ジャンヌが選んでるの?--!』


 『!--選んでいるっていうか、神格のかけらを持っている人を探して、飛ばしているのよねー……--!』



 そうだったのか。誰かの意志が介在して、このラインナップなのかと思った。神格のかけらねえ……後幾つ位飛んで来るのやら。



 「ううむ、既にわしらでもぼんやり見える様に成ったぞ。」


 「すごいわねー……」



 ま、そんな事はいいんだけど、五角形の地点の調査だよね?



 「じゃあ、サクッと調査行って来る?」


 「お、おう、光柱の件は、今のおまえにとって既に『そんな事』なんじゃな……」



 そんな事というか、一つ解った事は、ある。神格の飛んで来る数は、フィボナッチ数列に沿って増えて来ているんだ。

 1、1、2、3、5、8、と来ているから、次は13で、その次は21になるはずだ。次が有るならの話だけどね。

 これが何の意味があるのかは、まだ情報が少なすぎて、分からない。



 まあ、そんな事より調査だ。

 皆が食事を終えたのを見計らって立ち上がると、眼の前に掌を突き出した。

 掌底というか、目の前の空間壁に壁ドン!


 すると、掌を中心に波紋が広がり、何だかぼやっとした穴が空いた。



 「う~ん、出来そうな気がしたからやってみたのだけど、空竜みたいに上手くいかないなー……」


 『!--イメージを明確にするのさ~。--!』



 フィンフォルムのみたいにゴシック調なのか、ロココ調なのか知らないけれど、無駄に荘厳な扉が出せると、格好良いんだけどなー……

 穴の向こう側は、あの白い大陸で見た極寒の村だった。そして、五芒星ペンタグランマのあるはずの場所。


 空間に現れる波紋は、空間壁が実際に揺らいでいる現象で、空間壁に干渉している状態だ。力任せに割るのとは違って、魔力を無駄にはしていないので、開閉はスムーズなのだけど、空間がパリーンと割れるのは、超獣が出てくる時みたいで格好良いよね。

 扉は光学魔導なので、私にはまだまだ難しいやつだった。


 謎空間に一旦入って、移動して、向こうで出る、と言うアクションをコンパクトに纏めて、扉を開いて反対側の扉から出る、間に謎空間で移動するを極薄で挟んであるというイメージだ。フィンフォルム、意外と頭良いな。



 『!--それ程でも~あるよ~ぅ。--!』



 調子に乗るから褒めるの止めよう。


 向こう側へ出ると、意外と温かい。太陽の熱を感じる。

 まだそこら中に氷が在るけれど、溶けて水が流れ、小さな小川が何本も出来ている。氷河の上には無数のクレバスが出来ているので、歩くときは注意が必要だ。極寒に慣れて生活していたこの村の人達にとっては、気候の変化はちょっと迷惑だったかもねー。


 私とお師匠とケイティーにとっては、一度見た景色だけど、他の人達にとっては雪と氷は珍しいみたいで、はしゃいでいた。

 クーマイルマだけが扉の向こう側からこっちを覗いていて、こっちへ来ないので、手招きして呼び寄せた。



 「あ、あのう、あたしは学校へ行かなければならないので、遊んでいるわけには……」


 「大丈夫だよ、まだ1刻(2時間)位あるでしょう? 送り届けてあげるから、学校の鞄持って来て、ちょっとだけここで遊んで行こうよ。」


 「は、はいっ!」



 ぱあっと顔が明るくなって、パタパタと鞄を取りに行って戻って来た。冷たい雪に触れて、きゃっきゃと喜んでいる。私と同じ歳の女の子なんだよね、まだまだ皆と一緒に遊びたいだろうし、色々我慢させちゃってるなと思う。でも、後ちょっとの辛抱だからね。


 1刻位、皆で雪だるま作ったり、雪合戦をして遊んだ後、クーマイルマの授業が始まる前に、空間扉を開いて学校へ送り届けてあげた。


 さて、ここからは調査開始だ。

 まずは村人へ接触してみよう。



 「ここは、わたくしに交渉させてくださいまし。ソピアちゃんの言う、言葉に思念を乗せると、知らない国の言葉とも会話が出来るというのを試してみたいの。」



 そう言うと、ヴィヴィさんはツカツカと、遠巻きに見ていた村人へ近寄って行き、話しかけた。



 「ごきげんよう、村人さん。わたくし達は、ダルキリアからの調査団ですの。こちらの村長様にご挨拶したいので、お取次願えますかしら?」


 「ダルキリアだと!? そんな軽装でここまで旅をして来たって言うのか? 俺にはあんたらがいきなり現れたように見えたぞ。 それに、さっき、そこで子供達が遊んでいたじゃないか。俺は、幻覚でも見ているのか?」



 かなり怪しまれている。

 確かに皆、旅装束じゃないし、荷物も持っていないし、ちょっと近所にお散歩に出ましたって感じの軽装で、しかも、老人と女子供だけの集団。怪しさ満点だー。



 「ヴィヴィよ、選手交代じゃ。……あー、おほん、たしかこの村に、アーニンガという女性が住んでおったと思うのじゃが、もし存命じゃったら、ロルフが訪ねて来たと、取り次いで貰えんじゃろうか?」



 村人は、凄く訝しげな顔をしたのだが、村の中へ引っ込んで、奥の家から一人の女性を連れて来た。

 年の頃は、40代と言った所だろうか、動物の骨で作られたアクセサリーを髪に刺し、牙で作られた首飾りをしている。色の白い、美しい女性だ。



 「ようこそお出で頂きました、大賢者ロルフ様。どうぞこちらへ。お連れの方達もどうぞ。」



 私達は、村の一番奥にある、大きな家へ案内された。



 「申し遅れました、私は、アーニンガの娘のアンナークと申します。母のアーニンガは、去年、他界致しました。」


 「そうじゃったか、もう少し早く訪ねるべきじゃったのう……」


 「とんでも御座いません、生前、母からは大賢者ロルフ様の話は良く伺っておりました。」



 おい、好き好き爺! リーンお婆ちゃんの他に浮気してたんじゃないだろうな!



 『--しとらんわ!--』



 やべ、今では私のモノローグも筒抜けなんだった。自重しないと(するとは言っていない)

 で、五芒星ペンテグランマの件だ!



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