第147話 鳥を売ろう

 南方向へ向けて飛んで行くと、1つ刻(2時間)位かな、割と大きな島が見え始めた。

 というか、島なのかな? 大陸? ……とにかく、陸地が見えて来た。


 島と大陸って、地質学的に此処が違うっていうのは無いんだよね。ただ、大きさで区分けしているだけなんだ。

 地球で言うと、グリーンランドが基準で、それより大きいか小さいかで分けているに過ぎない。だから、地球で最大の島はグリーンランドだ。そこに何故は存在しない。そう決めたからそうだというだけなのだ。

 定義的には島って、グリーンランドより小さい、回りを水に囲まれた陸地の事を指すのだけど、アメリカのマンハッタン島みたいに、半島の先端だろうと思うのに、よーく見ると、細っそい運河で分かれているから島って呼ばれてたり、ウクライナのクリミア半島みたいに一見島に見えるけど、ほんのちょっとだけ繋がっているから半島だとか、マジで面倒臭い。大陸だとか島だとか半島だとか、定義分ける必要ってある? って何時も思ってしまう。全部『陸』で良いんじゃないのかな。


 まあ、そんな雑談は置いといて、その見えてきた陸地の湾の中に、建物が見える。村があるかも。

 地球でも、大体、湾の中に集落がある事が多い。波風が多少和らぐので、漁師とかが船を係留しておく基地として都合が良いのだろうね。グーグルアースとか見て、この湾とかラグーンの中に町がありそうだなーと思って拡大すると、案の定町があるよね。日本だって、東京、名古屋、大阪、と皆湾に面している。地形から、この凹んだ所に街があるだろうと思って拡大してみるのが楽しいのって私だけだろうか。……なんか、私だけの様な気がしてきたぞ。変人呼ばわりされるのは嫌なので、掘り下げるのはよそうっと。


 ああ、横道に逸れまくる……

 京介とかアリスとかその他の何人もの意識が頭の中で好き勝手に雑談しているみたいな感じになる。

 これって、多重人格っぽくない? やばくない? でも、出てきているのはソピアだけだからセーフなのか?


 まあいいや、その建物が沢山建っている、メインストリートの辺りに着陸してみる。

 通行人がビックリしている。あ、まずかったかな。

 近くに居た人を捕まえて、話しかけてみるが、案の定話が通じない。言語が違うみたいだ。

 まあ、そうだよね、この星の半周位は飛んだと思うから。



 「お母様、僕が話してみます。」



 え、やだ何この子凄い。外国語ペラペラじゃん。どうなってるの?



 「お母様、言葉と一緒にテレパシーを飛ばすと、勝手に翻訳されますよ。」



 マジですか。

 やってみた所、本当にそうだった。

 勝手に翻訳されると言うか、テレパシーって、言語ではなくて、意味の有る意思の波みたいなものを知覚して頭の中で勝手に理解する感じなので、思考を直接やり取りしているみたいな感じなんだよね。

 言語の場合、思考を声帯で音に変え、その音の波を鼓膜でキャッチして意味を理解するという、間に空気の振動という変換プロセスが有るのだけど、テレパシーは、直接頭から頭へ思考を飛ばしているっていう感じなので、言語の違いは関係無いみたいなんだ。

 だから、竜とも意思の疎通が出来ている。もしかしたら、知性の有る生物となら全て会話出来るのかも。

 なにそれ、すごい!



 『--なにそれ、すごい!--』


 『--なんと!--』


 『--あらまあ!--』



 あっちでもお師匠やヴィヴィさん達がビックリしている模様。

 まあねー、テレパシー通信が出来たのは、つい最近だから、色々と盲点はあるよねー。



 『--あーん、わたくしも一緒に旅をしたかったですわー! ソピアちゃんって、次々と面白そうな事を見つけるんですもの。ずるいわ!--』



 また機会があったらね。


 これのポイントは、口で言葉を話しながらテレパシーも乗せるという所がキモだった。

 どういう事かと言うと、相手にテレパシーで勝手に思考を読み取っているというのを悟らせない点。言葉をやり取りしているので、相手にちょっと癖の強い方言を喋っている程度と思わせられるという点。つまり、警戒心を緩める事が出来る。

 それと、言葉を介しているので、余計な雑念の混じらない、こちらの聞きたい事をストレートに相手に思考させる事が出来るという点も大きい。


 実は、人間の思考って、頭の中で単一の事だけを考えているという事は極稀で、同時に色々な事を考えている場合が多い。お腹空いたなー、トイレに行きたいなー、宿題面倒臭いなー、等という様に、同時に幾つも考えている。更に、テレビを観ながらあのアイドル可愛いなーとか、同時に音楽が流れてくればその意味も理解し、部屋の温度がちょっと寒いな、台所からのカレーの匂いを嗅いで夕食を想像していたりと、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚から入る情報も全て処理している。実に大量の情報を幾つも並列処理しているのだ。

 もし、外部から頭の中を覗けたとしても、様々な情報が合わさったホワイトノイズの様に、ザーっという雑音にしか聞こえないだろう。

 その中から特定の思考だけを抽出して聞き取るというのは、実は結構難しくて、同時に10人に喋らせて、その中の1人の言葉を聞き取るという事以上に難しい。聖徳太子なら出来るかも知れないけどね、普通は無理でしょ。

 言葉を喋らせる事によって、その雑多な思考の流れを一本に収束させる効果もあるのだ。

 だから、近くにもしテレパスが居たとしても、草々簡単に思考を読まれている訳では無いよと言って置く。ご安心を。



 「イブリスは凄いねー。良くそこに気が付いたよ。立派だよ。」



 私が褒めると、凄く嬉しそうな顔をするんだよね、この子。

 私は褒めて伸ばすタイプなのだ。


 でも、褒めて伸びるのって、子供の内だけらしいよ。以前にテレビでどっかの学者さんが言っていたのによると、大体5才児位までは褒めた方が良いらしいです。褒めて、興味とかやる気を出させるのが良いそうです。

 だけど、大人では逆に成長が止まるらしいから、要注意ね。なんでも、現状のレベルで満足しちゃって、それ以上の成長にブレーキが掛かってしまうとかなんとか。

 ライバルを蹴落とすには貶すのではなく褒めろって言うしね。だから、無条件に褒めてくる奴は要注意だぞー。


 さて、テレパシー混じりの会話のおかげで、意思の疎通が出来る事が分かったので、この第一村人に早速聞いてみる。



 「この鳥って食べられますか?」



 第一村人は、目を見開いて私と鳥を見た。

 最初は、魔導倉庫に驚いたのかと思ったのだけど、まあ、それも驚いたみたいだけど、その鳥にビックリしたみたいだった。

 というのも、結構捕まえるのが難しい鳥で、高い岩山の切り立った崖に巣穴を作っていて、そこから海へ飛んで行っては崖に戻ってくるという生態なので、めったに捕まらないんだって。それを小さな女の子が何羽も持っているので驚かれたという訳。

 第一村人の言うには、食べられるには食べられるけど、ちょっと硬くて、薬膳的な薬食いが殆どらしい。市場でも売れるし、肉屋に持っていけば買い取ってくれるとの事だった。



 「どうしようか? あまり美味しくないらしいよ。売っちゃおうか?」


 「お母様、食べなくても『無益な殺生』で無くする事は出来るのですか?」


 「売っても他の人が食べるから大丈夫だよ。無益と言うのは、面白半分に殺したりする様に、その生命を奪う事に意味が無い場合の事を言っているの。誰かが食べて、その人の糧になるなら、十分に意味の有る事だと思うよ。」


 「そうなのですかー。」



 なんか、ちょっと納得が出来無い様な出来るような微妙な顔をしている。



 「例えばね、誰か、怪我とかしていて、食料を取りに行けない人の為に捕って来てあげる。これは?」


 「それは良いと思います。」


 「じゃあ、誰かの為に、お金を貰って捕ってきてあげるのは?」


 「そこが僕には引っかかる感じがあります。」



 成る程ね、自分が儲ける為に命を奪う行いに疑問が有る訳か。



 「でもね、ただで獲って来てあげるのは、親切ではないの。その人は、自分の労力や時間を使って居るわけだから、無償というのは変でしょう? 受け取る方も、何の努力も無しに、命を奪うという罪悪感だけを他人に負わせて、美味しいところ所だけを掠め取っている事に成るよね?」


 「はい……」


 「どうしたら良いと思う?」


 「そうですねー……、鳥を捕って来てくれた人に対価を与えたら良いと思います。例えば、その人は自分の畑で作った野菜とかを同じ価値の分、交換したら良いのでは?」


 「そう、それが原初の流通ね。物々交換といいます。でも、この鳥を捕って来てあげた人が今は野菜は要らないと思ったら、野菜の人は鳥を受け取れなくて、お腹が空いてしまうよね。どうしたら良いと思う?」


 「そうですねー、今回は諦める……という選択肢は無しで考えると、何時でも欲しい時に野菜を渡しますという確約を取り付けて、今は鳥を受け取る、とか?」


 「そう、頭が良いわね。その約束を紙に書いて仮に野菜券としましょう。同様に、何時でも釣り道具を渡します道具券、洋服券、お魚券、お肉券、と集まってきました。でも、どの券も鳥1羽の価値と同じなので、5枚の券は全部同じ価値です。」


 「あ、そうか!」


 「そう、全部が同じ価値の交換券ならば、野菜だけ肉だけと決めないで、どれと交換しても良いという風に皆で取り決めてしまえば、皆が共通で使える様になる。野菜の人が洋服と交換してもいいし、道具の人がお肉と交換しても良い。便利な券になりました。」


 「それがお金ですね!」


 「正解。それが町内の商店範囲なら商品券、国が価値を保証してくれるなら、通貨となります。だから、鳥を売って、対価としてお金を受け取るのに罪悪感を感じる必要は、無いの。最も、本来の価値以上に対価を受け取るのはどうかと思うけどね。でも、それでも欲しいという人が居るなら、その人はその高い値段に納得しているのだし、それはそれで取引は成立しているのよ。」


 「なんとなくわかりました。つまり、鳥をお金で売っても無益な殺生には成らないという事ですね。」



 うーん、ちょっと詭弁臭かったかな? イブリスが納得してくれたなら良いのだけど、子育てって難しい。

 でも、子供に『どうしたら良い?』『どう思う?』と、自分で考える様に疑問を投げかけるのは、良い事だと思う。間違った答えを出したとしても、一緒に考えて修正して行ってあげれば良いのだから。


 さて、鳥を売りに行くか。





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