第145話 アイスⅧソード
そもそも、強い弱いと善悪は関係無いのだ。人間世界ではね。
動物界では、弱いはイコール悪なのかもしれないけど、我々は知性の有る人間なのだ。
イフリートは精霊だけど、私から知性を受け継いだ。知性が有り人の間で暮らすのなら、相応の心を持っていなければならない。
「イブリスはこれからどうしたい? 火竜の元へ帰るか、私と暮らすか、選びなさい。」
「僕は、お母様と一緒に暮らしたいです。」
「では、イブリスは人の心を学ばなければなりません。出来なければ火竜の元へ帰します。いいですね。」
「はい……」
シュンとしちゃってる。何が駄目で何が良いのか分からないのだろう。実は私も分からない。心って何だろう?
一緒に生活して、少しずつ修正していってあげれば良いのかな。
例えば、愛情って何だろう? 所有欲との違いは? 実は私も良く分かって無いんだよね……
「ねえ、イブリスは私の事が好き?」
「はい、大好きです。」
「その気持をね、少しずつ身の回りの人にも広げて行くの。」
多分、理系的考察で愛情を分析すると、こういう事なんじゃないかな。
一番頂点に自分自身への自己愛が有り、その次に身近な人間への家族愛や恋愛、そして、集合範囲が広がって友愛、更に集合の輪が広がって同じ学校、地域愛、同じ国、もしも宇宙人が来たなら同じ地球人……という具合。人によって優先順位は多少前後するのだろうけど、大体この様な同心円状に範囲が拡大して行く。電磁場や重力場と同じ様なエネルギーフィールドと同じに、中心ほど強く、外周へ行く程距離の自乗に反比例して弱くは成って行くけど、その到達範囲は無限遠なのだ。つまり、愛はエネルギー
「んー、僕の場合は、一番がお母様でその次が僕、そして、その他、かなあ……」
「これから私と一緒に学んでいきましょう。」
「はい、お母様。」
うーん、自分と親、そして、それ以外の他者の2極なわけね。これは、赤ん坊とか幼児の思考かもしれない。というか、イブリスは本当に生まれてまだ数日しか経っていないのだから、言葉の話せる赤ん坊と同じな訳か。そのつもりで接するべきか。これから学んで行く事は多そうだ。
「さて、今日はこのサンゴ礁の無人島で1泊するとして、お食事をどうしようかな。」
「お母様、見て、お魚がいっぱい居ます。」
「よし、今日はお魚を焼くか。」
私は、魔導リアクターを出し、魚の群れの上の空中から海中に電撃を放った。
何匹もの魚がプカプカ浮いて来るのを魔力で拾い上げる。全部で28匹の魚が手に入った。
この魚何だろう? 体長が1アルム(約32センチ)弱ある。鯵か秋刀魚あたりかな? 料理研究家の知識では違うと言っている。イワシかサバの近縁種……なのかな? 日本で流通している以外の魚は詳しく無いんだ。次は海洋生物学者とかの知識が降りて来ないかな。
まあ、警戒色も無い、普通の銀色の魚だし、毒は無いだろう。念の為、腹を割いて、内蔵は全部捨てる。
波打ち際で作業をしていたら、イブリスも手伝いたいみたいで、そわそわしている。
「僕もお魚取って来るー。」
「今日はこれで十分な量だから、明日ね。魚を捌くのを手伝って欲しいな。」
「ちぇー。僕もビリビリドカーンってお魚をやっつけたかったな。」
「勉強その1、イブリス、面白半分に生き物の命を奪ってはいけません。私達は、食べなければ生きて行けません。これは、私達が食べる目的で、止むを得ず必要な分だけを頂いています。私達は、他者の命を頂いて生かされています。」
「うーん、はい、わかりました。お母様。それ、お手伝いします。」
とはいえ、解体用のナイフは一本しか無かったや。どうしよう。
私は、自分の使っていたナイフをイブリスへ渡してやって貰うことにした。私の手元をじっと見ていたので、要領は分かるみたいだ。器用に捌いている。
私は、どうしようか考えた。来る時に貰ったレプリカ剣は、いかに切れ味が良いと言っても長すぎるしなあ……、あ、そうだ。氷でナイフ作れないかな?
目の前には海水がいっぱいあるけど、海水では凍り難いので、一旦加熱して水蒸気にしてから冷やして水に戻す。塩がちょっと出来たので、それは別に取っておく。
海水を蒸留して出来た純水を今度は氷にする。分子の熱運動を魔力で抑え、ナイフの形の氷にして行く。
「どうだ! これで捌けるかな?」
氷のナイフを魚にぶすりとさして見る。
お? 行けるかな? と思ったのだけど、途中でパキンと折れてしまった。うーん、強度……
あ、そうだ、確か、氷側にも相転移が有るんだよな。
そんで、うろ覚えなんだけど、
ダイヤモンド結晶の氷って、強そうじゃん?
よし、やってみよう。
水をナイフの形の氷にして、圧力を掛けて行く。圧力の掛け具合で、急に屈折率というか色というかが変わる点がある。だけど、何かよく解らない微妙な点もあって、今のが
とても手に持って居られる温度じゃないので、魔力で操作してお魚切ってみる。
「お、よく切れる! 氷なのに!」
「お母様って、面白い事を考えるよねー。」
『--あああ、それ見たい見たい見たいーうーーん!--』
何か、何処かからテレパシーが飛んで来るけど無視だ。
切れるには切れるんだけど、切った傍から凍ってしまい、ルイベみたいな状態になってしまう。
アニサキスみたいな危ない寄生虫とか居たとしても、これで死滅するから丁度良いかな。南国の気温で暑いから、半解凍状態の刺し身で食べたら冷たくて美味しいかも知れない。
醤油の作成は急務だなー。帰ったらヴェラヴェラに頼んでみようっと。
これで剣を作れば、ちょっと刃こぼれしても瞬時に修復出来るよ。なんていったって、氷だからね。
「お母様、僕もやってみたい。」
イブリスは、海水を剣の形にして凍らせようとしているのだが、何だか上手く行かないみたいだ。グズグズのシャーベット状になってしまう。
「海水は、塩分が含まれているから凍り難いんだよ。一回加熱して水蒸気にしてから水に戻して、不純物を取り除かないと上手く凍らないの。」
「わかったよ、お母様。」
イブリスは、海水をブシューっと蒸発させて、その水蒸気を冷やして凝集させて純水を作った。不純物を完全に取り除くには、真空中でやるべきなんだろうけど、そのあたりは適当だ。後に残った塩は、魚の塩焼き用に私が貰っておく。
その純水を剣の形に凍らせ、超重力で圧縮して行くと、
「よーし、この剣で御飯前に剣術の練習だ!」
イブリスも何とか剣を作れたみたいなので、どの程度使えるものなのか実験だ。私の能力とほぼ同じものを持っている分身がもう一人居るって、何かと捗るな。
「よーし、行くよー! 障壁防御有りで、仮に障壁を抜ける可能性もあるので、寸止めルールで行きます。良いですね!」
「はい! お母様!」
本当に解ったのかな。返事だけは良いんだよね、この子。
キン! キン! カン! コン! キーン!!
おお、想像以上に丈夫だ。私の魔力で思いっきり叩きつけても壊れないぞ。パウダースチールのロイヤルナイツレプリカ剣に匹敵するかも。
「よーし、スピードを上げていくよ!」
「は、はい、お母様!」
カン! カン! ガガン! ガガガガガガガガン!!
「うわっ! は、速すぎます!」
キーンという音と共に、イブリスの剣は弾き飛ばされ、海の中に落ちた。
そこを中心に海が凍って行く。
「はい、今日の剣の練習はこれで終わり。有難う御座いました。」
「有難う御座いました!」
魔力の供給を解除すると、剣は普通の氷に戻り、ポタポタと雫を垂らしながら溶け始めた。
うーん、いざという時には使えるかも知れないけど、めっちゃ燃費悪いわ、これ。
「僕も魔力が底を尽きそうになって、思わず放してしまいました。」
そうなんだ。イブリスの魔力量は今の所この位が限界みたいだね。
まだ生まれたてだから、これから伸びるでしょう。
「はい!」
私は、イブリスの頭を撫でた。イブリスは、目を細めて嬉しそうにしている。
「さあ、ルイベも丁度良い具合に解凍出来たみたいだし、火をおこして焼き魚を作って夕ご飯にしましょう。
調味料が、塩と今作った海水塩と、マヨネーズしか無いけど、我慢しましょう。
醤油が欲しい。
「焼き魚が意外と美味しい!」
こっちの世界に来てお魚料理とは無縁だったというのもあるのかも知れないけど、焚き火の遠火でじっくり焼いた、この焼き魚の美味しさよ。塩だけで全然いける! 海水塩美味い! 美味すぎる!
キャンプで大自然の中で食べるからっていうのもあるけど、この魚が超美味しいんだ。何ていうのかな、地球の鯵と秋刀魚を足して2で割った様な感じなんだ。秋刀魚みたいに小骨が少なく、身が骨からするっと簡単に離れる。とっても食べ安い。
焼き魚は、一人5匹も食べてしまった。
ルイベの方は、塩だけだとちょっと味気無いかな。酢でしめたらどうかな。とか料理を色々考えていたら、イブリスが急に叫んだ。
「お母様、これ、美味しいよ!」
見ると、刺し身にマヨネーズを付けて食べていた。
えーーー、馬鹿舌か? この子。と一瞬思ったのだけど、そう言えば聞いたことが有るぞ。
鰹漁師が、船上で切り身にマヨネーズを付けて食べるとかなんとか。それが魚の臭みを消して美味いんだとか。
でも、これは鰹じゃないしなー……なんて思いながら、半信半疑で試してみると、これが美味い!
「ほんとだ! これはびっくり! 意外といけるね!」
『--あたいも食べてみたいよー。じゅるり。--』
ヴェラヴェラの思念が聞こえる……魚沢山取って、お土産に持って帰ってあげるよ。
『『『『『『--やったー!!!!!!』』』』』』
ほんと、プライバシーゼロだよ。
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