第39話 ケイティーの災難

 朝起きたら、ヴィヴィさんとお師匠が朝食を食べていた。



 「おはよう。あれー? 私、寝坊しちゃったかなー?」



 確か昨日は、夜更けまでお師匠と実験をしていたのだけど、眠くて先に寝ちゃったんだ。

 その時はヴィヴィさんは未だ帰って来てなかったなー。



 「昨夜遅くヴィヴィのやつが飛び込んで来て、爆轟教えろ教えろとせっつくから、一晩中座学と実験をやっておったのじゃ。」


 「結構派手な音がしていたけど、ソピアちゃんは全然起きてこなかったわねー。」


 「そうなんだー、熟睡してたよー。」


 「おこちゃまねー。それはそうと、あの変な儀式は何なのかしら?」



 あ、お師匠、律儀にそこからやってくれたんだ。

 ていうか、二人共貫徹なのか? 眠くならないのかな、この人達。



 「じゃあ、火薬の製法は門外不出という事は確約してくれたんだね。」


 「もちろんよー。じゃないと絶対に教えないと言われたからー。」



 大丈夫か? でもこの人、王宮の人間なんだよなー。

 戦争が起こったら約束破ったりしないかな。



 「大丈夫よー。心配なら、誓約の呪印を付けてくれても良いわよー?」


 「んー、信用するよ。」



 ……っていうか、なんか慣れて来ちゃってるけど、ますます私のサトラレ疑惑が高まったぞ。



 「今日は何する? 私は王都をもっと観光したいな。」


 「わたくしは今日も王宮で仕事よー。」


 「わしは今から寝る事にするわい。ふぁ~。」



 お師匠はちゃんと寝なさい。脳細胞が死ぬよ。

 ヴィヴィさんはタフだなー。ヤバイなこの人。



 「じゃあ、私達は今から王都ね。競争、負けないわよー。」


 「受けて立ちますとも。負けたらランチの奢りね。」



 何時もの様に、小石を拾って放り投げる。

 それが地面に落ちるやいなや、二人の姿がふっとブレた様にかき消える。

 そして、上空から響き渡るソニックブーム。



ドオーーーーーン!!!



 青く光る双発のエンジン。

 二人共音速超えの超スピードだ。

 通過地点の真下に有る、マヴァーラの町はさぞ迷惑な事だろう。



 「ヴィヴィさん、着いて来れてるね。」


 「もちろんですわ! ソピアちゃんの全てを完コピさせて頂きます!」


 「もう王都に着きますわ。噴射停止!」



 徐々に速度を落とそうとするヴィヴィさんを置いて、私はさらに王宮上空間近まで速度を緩めない。

 王宮門上空まで来た所で、体をくるっとバク転の様に回し、前方に足先を向けて急制動をかける。

 物凄いGが体にかかる。それを魔力で体の内部から支える。地表近くで速度をゼロにして、ふわりと地面に着地する。

 時間にして凡そ30秒程度の遅れで、ヴィヴィさんが到着した。



 「あーん、あれはずるいですわー。」


 「勝てばよかろうなのだ。」



 今回も私の勝ち。

 まあ、着地時の制動の掛け方で僅かに勝っただけで、飛行術自体はもう互角だと思うけどね。

 ドライビングテクニックの差だよね。



 「市街地で音速を超えるのは止めようか。」


 「そうね、早朝から迷惑よねー。うふふ。」



 腰を抜かしている門衛さんををちらっと見ながら、競争も程々にと決めて、ハイタッチして別れた。






 前回は王宮の正門前の貴族区から時計回りに観光したので、今度は反対周りに歩いてみる事にする。

 王城回りの道を歩いて行くと、反対側と同じに、一般区、商区となっている。

 こちらは、東区、東商区と言うそうだ。建物の作りは大体同じ感じだ。反対側のは西区、西商区と言うらしい。

 東商区も、端の方に市場があった。近くには安いご飯屋が沢山あり、スイーツ屋もある。

 そのうちの一つのパンケーキ屋に入ってみる。

 メープルシロップたっぷりの、バターパンケーキを注文して、窓際の席で外を眺めていたら、急に背後から声を掛けられた。



 「ソピアちゃんじゃなーい!」



 振り向くと、ハンターのパーティーらしい4人の男女が立っていた。



 「あれ、ケイティーじゃない。どうしたのこんな所で。ハンターズギルドとは反対側でしょ、ここ。」


 「私達は、これからクエストに出かける所なの。東門から出るから、その前に腹ごしらえしてた所なのよ。」


 「ふーん。頑張ってるね。」



 そんな他愛も無い会話をしていたら、パーティーメンバーのリーダーらしき男が割り込んできた。



 「知り合いか? ご歓談中悪いが、俺達先を急ぐんでな、失礼するよ。」



 何こいつ、感じ悪いな。



 「ちょっとまって、この子強いのよ。一緒に付いて来てもらったら駄目かな……」


 「はあ? 報酬が減るだろうがよ。それにこんなガキを連れて行って役に立つのかよ!」



 私のハンターズライセンスは服の下にしまってあるので、私のランクは分からない様だ。

 ケイティーは私の服を掴んで、目で懇願するように見つめてくる。何か事情でもあるのかな?



 「この子もね、魔導倉庫持ちなのよ。」


 「なに? それを早く言え! よし、連れて行ってやる。しっかり荷物を運べよ。」


 「私の食事がまだなんだけど。注文したものが来るまでもうちょっと待ってくれない?」


 「ちっ! しかたねーな!」



 私が食事をしている間、ケイティーは私の対面に座り、他の三人は少し離れた席に座って待っていた。



 「ちょっと、何で私を巻き込むのよ。」


 「ごめんなさい! 本当にごめんなさい! 他に頼れる人が居なかったの。あなたを見つけた時は、女神様が降臨したのかと思ったわ。」


 「なんだそれ? それはそうと、あなた、らしくない人間と組んだのね。」


 「その事なんだけど……」



 ケイティーの話によると、魔導倉庫の鍵が関係していたみたい。

 組んだパーティーの荷物持ちをしてあげたり、ハンターズで大きな獲物を取り出して見せたりしていたら、あっという間に評判に成って、鍵を見せろだの、酷いのはよこせだの言ってくる乱暴な奴が現れたらしい。

 まあ、そうなるよね。想定の範囲内だ。ヴィヴィさん、何か考えがあったのだろうか。


 鍵をひったくられて、その時、助けてくれたのがあいつららしい。

 その時、あいつらのパーティーメンバーの一人が怪我をしてしまって、その代りにしばらくの間、お手伝いをする事にしたのだという。



 「最初はお礼のつもりで荷物持ちとかしてあげていたのだけど、段々その便利さに慣れてくるに従って横柄に成って来るし、怪我をしたメンバーの傷もなかなか治らないし、全然狩りに出かけられる状態じゃないと言われて、私のせいもあるし、せめて完治するまではって……」



 なんだそれ? なんか怪しいなー。

 物凄くベタなトラップな気がするぞ。

 最初は紳士的に接していたけど、段々と本性を表して来たって所もなんだかなー。



 「そういうトラブルは、ヴィヴィさんにすぐに相談すれば良かったんだよ。」


 「え? だって、王宮の、しかも女性に相談なんて、何かあったら私……」



 は? ケイティーにはヴィヴィさんがどう見えているのかな?

 あ、そうか、ケイティーはドレスアップしてお淑やかで優しそうな貴婦人モードのヴィヴィさんしか見ていないんだった。



 「あのね、ケイティー、ヴィヴィさんはそういうトラブルはお手の物の暗……」


 「あーら! ソピアちゃん、こんな所でお食事ー!?」



 うげ、今私の言葉を遮るように現れたのは偶然じゃないよね。さっき別れたばっかりなのに。



 「あれー? ヴィヴィさんじゃありませんか! こんな所でお会いするなんて!」


 「ちょっとお茶菓子の買い出しにねー、出てきたのよー。」



 嘘だ、絶対に嘘だ。

 ケイティー、騙されてるぞ。



 「じゃあ、わたくし、お仕事が有るから、まったねー!」


 「あ、ヴィヴィさん、私今日はこの人達とクエストに出かけるから、お昼の約束はまた今度にお願いねー。」



 分かってますよ、と言う感じで手をひらひら振って何処かへ行ってしまった。


 そして、助けてはくれないんだ。

 まあいいや、私がなんとかしてみよう。



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