1-48 零課

二対一だったが、新島と板見には明らかな焦燥が見えた。

 銃が効かない事を全く想定してなかったからだ。

 だが、全く効かないという訳ではない。銃弾を斬る一瞬の動作が渡利の隙となった。

 言葉を交わさずに新島と板見は渡利攻略を行動で共有していく。

 渡利の武器で見えているのは日本刀だけ。

 密着して組み伏せる事が現実的でない今、優先すべきは武器の奪取だ。

 まず、板見が四発渡利を撃った。一発は外れ、一発は避けられ、残り二発は切り落とされた。

 だが、時間は稼いだ。その隙に距離を取った新島が腕を守るガントレットを取り出し、両手に付ける。そして再び銃を手にし、渡利へと発砲した。

 渡利はそれを躱しながら踏み込み、新島へ切りつける。

 新島はすぐに銃を持ち替え、右手の甲で日本刀をいなした。

 そうやっている間にも板見はマガジンを交換し、新しくジャミング弾を装填する。

 クローンマリオネット対策でやはり一番効果的なのは通信を切って無効化する事だ。当然ジャミング弾は用意してあった。

 新島は距離を取ろうと渡利を押すように蹴る。

 それを渡利は体をずらして回避した。

 少しだが隙ができる。そこへ板見がジャミング弾を撃ち込んだ。

 しかしそれも、渡利は蝿を払う様に手ではたき落とした。手に傷は出来たが、出血も痛みも感じない。ただ人工の皮膚が破れただけだ。

 渡利はダメージを問題にしない。すぐに新島目がけて刀を凪いだ。

 前蹴りで上がった右足が地面に着くと同時に切りつけられた為、新島は防御が遅れる。

 新島は肩胛骨の辺りを切られた。

 だがその攻撃は渡利も新島もすぐに浅いと思う程度だった。

 腕を振り切り、顔面ががら空きになった渡利に、新島は裏拳を打ち込む。拳は渡利の顔面を捉え、不自然な金属音がガキンっと鳴った。思わず新島が声を出す。

「堅ってえ・・・・・・」

 渡利はダメージを問題にしない。

 通常の人間なら怯む場面でも、渡利は冷静に振り切った刀の柄に手を添え、手首を返し、先ほどの薙いだ軌道の逆になぞった。

 刀が通る場所には新島の胴体がはっきりと見える。

 渡利は躊躇なくそこを斬る。

 だが、それが成される僅かばかり前、意思に反してAIはセンサーに従い、回避を選んだ。

 その結果、板見が新島の陰から隙間を縫うように撃った二発のジャミング弾は、一発は外れ、もう一発は振り上げられて斬られた。

「これも当たらないか・・・・・・」板見は苦笑した。

 それでも振り上げた事で渡利の右腕が上がった。

 クローンマリオネットの関節可動域はその習性から人間とほとんど同じ設計にしてある。操縦者になるべく違和感を与えない為だ。

 武器を持っている人間に対してのセーフゾーン。それは腕の稼働域内だ。逆手で持たない限り人は腕の中の相手を人は絶対に切れない。

 それを知っていた新島は銃から手を離し、渡利の肩を内側から掴んだ。こうすれば人は手を自分の内側に入れられなくなる。

 新島は反対の手で渡利の手首を掴み、柔道の大外刈りを放つ。

 だが、それが決まる前に渡利は肘打ちし、それが新島のこめかみにヒットした。

 新島の額が切れ、血が流れる。しかし、それも新島と板見に取っては想定内だった。

 新島の目的は自分の体で渡利の視界から渡利の右手を隠す事。

 板見は新島の陰に隠れて、固定された渡利の右手にジャミング弾を撃ち込む事に成功した。

 すぐに強力な無線の妨害電波が渡利の体に流れる。刀は手から滑り落ちた。

 瞬時の判断で渡利は右肩から自分の腕をパージする事で最悪の状況から逃れた。

 片腕を失った渡利は後ろに下がり、距離を取る。

 新島は追い打ちをかけたかったが、肘打ちを頭に受け、足下がふらついていた。

 新島と板見は目的である武器の奪取に成功した。

 それでもまだ渡利は立っている。

 新島は大きく息を吐き、そして小さく早く吸った。

「まったく・・・・・・。骨が折れる・・・・・・」

 汗と血が流れる中、新島はうっすらと笑った。アドレナリンが出るのを感じた。同時に痛みが鈍っていく。

 それを見て板見は呆れていた。これから何が起るか知っているからだ。

 新島は構えた。左拳を前、右拳を腰辺りに置く。

 自衛隊格闘術である日本拳法の構えだった。

 右腕のない渡利も構えた。ジョイントが見えた右肩を前にし、左拳を顎の辺りに置いた。

 どれだけ技術が進化しても、男と男が敵対した時に取る行動は原始的だった。

 二つの拳が混じり合った。

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