九章目あらすじ

『正しき偽善よ鐘を鳴らせ』


 一度目の世界でメニーが家から出ていった日、そしてベックス家にて悲劇が起きた日、17歳となったテリーはクレアと誕生日旅行に来ていた。一時の間だけ過去を忘れ、愛しい人と大切な思い出を作って帰ってきたテリー。これにて罪滅ぼし活動が終了するとして、ドロシーから卒業の言葉を伝えられる。


 メニーはリオンと結婚せず、アメリアヌやテリーもそれぞれ自分たちの道を歩いている二度目の世界。これで平和が訪れると思った矢先、リトルルビィが殺害した馬係のデヴィッド・マルカーンの弟、ピーター・マルカーンから地元で行われる【星祭】の招待状を受け、ベックス家がアトリの村へと向かうこととなった。


 しかしその途中、土砂崩れの被害に巻き込まれ、馬車と共にテリーとメニーが崖から落ちてしまう。途中で崖の窪みに馬車がひっかかり、先に落ちそうになったメニーの手を掴んだテリーだったが、急に現れた白い狼の出現に驚き、二人とも馬車から落下。直後、テリーの精神世界の中にオズが侵入。魔法をかけられ、テリーはそのまま意識を失う。


 無事に目を覚ました時、テリーは今までの記憶を失い、一度目の世界の記憶しか残ってない状態だった。そのことに気づいたメニーは二人を保護した神父ピーターと共に様子を見ることにする。


 その中、アーメンガードの連絡により救出に来たリトルルビィ、ソフィア、リオン、キッド、強制連行されたドロシーがアトリの村に到着。しかし、アトリの村の入り口が何かの原因で巨大な岩に塞がられてしまう。岩が退けられるまで一行はアトリの村に身を置くことになった。


 アトリの村では夜になると狼が山から下りてくるため、外には出ないよう言われている。その夜はメニーとテリーが記憶の確認をしあったが、そこでテリーは異世界の自分に転生してしまい、本来の自分とは全く違う悪役令嬢になってしまったことに気づいた。(ただの馬鹿)

 悪役令嬢には必ず死刑が待っている。小説によくあるテンプレートを崩すため、テリーは貴族のルールに囚われず、良い子として生きていく覚悟を決めた。(ただの馬鹿)


 翌日からアトリの村人にもきちんと挨拶をするようになったテリー。何か困ったことがあればアトリの鐘を鳴らせば、ピーターがやってきて、正しい道へと導いてくれる。この村では皆、アトリの鐘を鳴らし、困ったことや悩み事を解決していた。


 しかし「狼が出たぞ!」と叫びながらアトリの鐘を鳴らす村長の娘、ジャンヌの虚言に、村の人々は困り果てていた。だがそれは虚言ではなく、ジャンヌは本当のことを言っていた。アトリの村に、狼人間が潜んでいるというのだ。そして謎に現れる白い狼。『星祭の前夜祭』ではジャンヌが踊り子として参加し、夜に多くの村人が外に出る為、何とかしてもらえるようキッドに頼み込む。


 その晩、ジャンヌの恋人、エンサンの家が放火された。家の中にはエンサンの祖母であり、100年前の星祭の踊り子だったババ様がいた。村人たちが急いで火を消そうとしている騒ぎに気付いたテリーが様子を見に外へと出てしまう。その際に、白い狼と黒い狼に襲われ、足を負傷。やってきたソフィアによって狼を撃退した。キッドの愛人だと思い、強気な態度を取っていたテリーだったが、逆に君が好きであるとソフィアに告白され、頭を真っ白にさせてしまう。


 アトリの村に潜む狼人間の素性を暴くべく、かつて古き友人が治めていた国であった村を、ドロシーが眺めるのだった。


(ここから後編です)


 ババ様の死に方が異常であったことに違和感を覚えたエンサンが自宅の倉庫にある歴史の資料を漁ると、そこには『白い狼が現れる時は村に災いが訪れる』ことを流布する内容の資料が残されていた。実際過去に作物が育たなくなり、体調不良者が増えたことがあり、その時も白い狼が出現していた。身に覚えのあるジャンヌとエンサンはメニーと共にこのことをキッドに報告しようとするが、それらは全て不安から来ている妄想であると思ったテリーは、呆れて教会に戻り、一休みすることにした。


 目を覚ますと、目の前のテーブルにメモが残されていた。――テリー・ベックス。人狼がどこにいるか、メイドのサリアにきいてごらん。電話で話をきいてくれるはずだよ。


 メモに目を通すがいまいちよくわからないテリー。お腹が空いたので近くに住んでる親子からおかゆをご馳走してもらう。その後、想い人のリオンに会いに行こうと歩き出したが、ドロシーの暴走によりジャンヌの家の受話器の前まで走らされ、ついでに岩のことを報告しておこうとメモに書かれた宿屋に連絡。アーメンガードとアメリアヌはいなかったものの、サリアと連絡を取ることに成功した。亡くなったババ様にはこれから起きることを言い当てる力があり、資料に記載のあった『以前この村で流行りだした病気で亡くなった人』について何かを発言していた。そのことについて調べるようサリアから指示を受け、テリーは暇つぶしの散歩がてら、探偵ごっこをすることとなる。サリアも外から調べられることは調べてくれると言い、通話は終わる。


 サリアに言われた通り、アトリの村を歩き回るテリー。その後、ピーターの前にアトリの鐘が鳴ったら正しき道へ導いていた裁判官の家に辿り着く。彼は奇病で亡くなったため、ピーターから廃墟となった家には近づかないよう言われていた。しかし、好奇心から過去、自分で覚えたピッキングを使い、テリーが南京錠を解除してしまう。ドロシーが中に入ってしまったため、追いかけてテリーも一緒に廃墟の家へ入ることに。


 裁判官は隣村の役所や医者へ手紙を送ろうとしていたが、その前に亡くなったようだった。地下に行くと『呪われた』と血で壁に書かれていたため、気絶するテリー。ドロシーが魔法使いのルールを破る覚悟で魔法を使用。これによりテリーの目が暗闇でも明るく見えるようになった。無事に地下から脱出するテリーとドロシー。しかし、その先で白い狼が待っていた。悲鳴をあげて逃げるテリーだったが、白い狼も追いかけてくる。そこへソフィアとリオンが救出に来る。白い狼が窓から逃げ出し、テリーも廃墟からようやく出られる。リオンがテリーの恋心を利用し、ジャンヌの兄、リチョウの部屋に入り、『飴』がないか確認してほしいことを伝える。喜んで向かったテリーだったが、その日、ドアに静電気が起きており、どうしてもリチョウの部屋に入ることはできなかった。


 無事に教会に戻ってきたテリー。しかし、聖堂から大きな音が聞こえ、テリーが様子を見に行くことに。そこには赤い目の少年がいて、テリーを見るや否や笑顔で近づいて声をかけてきた。何がなんだか状況がわからないテリー。次の瞬間、後ろから大きな声を叫ばれ、驚いた拍子にテリーが気絶をしてしまう。目を覚ますと赤い目の少年はいなくなっていた。


 その晩、メニーからリチョウについての詳しい話を聞く。作物が育たなくなった時や、体調不良者が増えた時、なんとリチョウが詩を読んで全て解決させたというのだ。その後リチョウは行方不明となった。サリアが調べてほしいと言っていたババ様の言葉もメニーから聞くこととなった。


 ――リチョウは最近、ずいぶんとやる気になってるね。まるで人が変わったようだ。だがね、人間、根っこは変わらないよ。虎のような自尊心はどこかに潜んでるはずさ。それが大きくならなければいいけどね。


 ――ピノキオ、あの子は悪い子だ。悪戯好きで自分勝手。そのくせ嘘をつく。ゼペットが甘やかしているから善と悪の見分けがつかない。正しさの鐘を鳴らしたってだめさ。あの子には同情するよ。バチが当たったのさ。


 ――ダンテには近づくんじゃないよ。もう手遅れさ。どんな凄腕の医者に見せたって無駄だよ。あいつは善人が故に呪われた。いいかい。絶対近づくんじゃないよ。今のあいつは羊の皮を被ったオオカミだよ。


 ババ様がこの言葉を言った数日後、三人は死亡している。あまりの不気味さ、奇妙さにテリーがメニーへこれ以上の詮索は不要であり、後はキッドや村人達に任せようと伝え、その日を終える。


 前夜祭当日、朝から踊り子であるジャンヌの支度に追われる使用人達。メニーとテリーがゆったり待っている間、テリーが薬指につけている指輪にクレアと彫られているのを発見。今度こそ婚約解消! と乗り切って廊下へ出たが、リチョウの部屋が開いていたため、好奇心から中へ入ってしまう。(ただの馬鹿)リチョウの棚から『飴が入った瓶』を見つけるテリー。一つ舐めてみたが、それはとても食べられるものではなかった。思わず吐いてしまうテリー。なかったことにして部屋から出ようとするとドアが閉じられ、出られなくなってしまう。大泣きしながら部屋に仕組まれたトリックを解き、引き出しから詩が書かれた大量の紙を放り投げていると鍵を入手する。しかし、内側から挿せる鍵ではないため、大泣きしながらドアノブをひねると、途端にリチョウの幻覚が頭に入り、テリーは気絶をしてしまう。部屋に戻ってきたメニーに起こされるテリー。リチョウの部屋でのことはすっかり忘れているが、調査について切り上げることをサリアに報告することを思い出し、サリアに電話をする。


 調べたことを全てサリアに伝えるテリー。サリアがツギハギだらけのヒントから答えを導き出すが、誰が聞いてるかわからない状態で答えを言えばテリー達の身に危険が及ぶとして、確実な言葉だけ伝える。


『今すぐにその村から出てください』

『……テリー、いいですか? キッド様から離れないでください。キッド様でしたら大丈夫です。もしくは、リトルルビィ、ソフィアさん、リオン様、……それと、メニーお嬢様と離れると”余計に厄介なことになる”と思います。なるべくお側に連れて行動してください』


 しかし会話中に電話が壊れ、一切の通話が出来なくなる。テリーは屋敷の使用人に電話のことを報告した。


 そして夕方。星祭の前夜祭が始まろうとしている。配られた衣装に着替えるテリーだったが、いくらメイクしてもメニーのように綺麗になれないことをコンプレックスに思い、祭に行かないと言い出す。


「お姉ちゃんは綺麗だよ。お姉ちゃんを綺麗じゃないって思う人は、目が腐ってるんだよ」

「うふふ。……面白いこと言うのね」


 メニーの励ましから、前夜祭へ向かう二人。アトリの鐘を囲んで踊る村人。盛り上がる村を歩くテリーの前に、キッドが現れる。今度こそ婚約破棄をと迫るテリーだったが、キッドの名前の中にクレアがあり、その名前の方が記憶を失くす以前のテリーの方が喜んだと説明。しかし、一国の王子が自分などに夢中になるわけがなく、メニーに近付く為に自分に近づいたのではと疑うテリーの言葉に、キッドが笑顔で言葉を投げる。


「変わらないな。そうやっていつまでも自分とメニーを比較するところ」

「メニーだけじゃない。お前は生きる女全てと比べたがる。そして、相手の悪いところを探して、自分はそんなことしない。それよりはマシだから自分はまともであの子は駄目だと正当化する。じゃない?」


 図星を突かれ、その解消方法として王妃という爵位を利用したらどうかという提案にテリーが全力で嫌悪を抱く。

 テリーは爵位ではなく、真実の愛こそ全てだと考えているからこそ、キッドの言葉や思想が理解出来ない。だからこそクレアは夢見る馬鹿な少女に伝える。


「現実は残酷だ。真実の愛なんて存在しない。貴様はこの現実を受け入れて生きていくしかないと、なぜ理解できない? バカが」

「……だからねー、簡単に言うと、俺がお馬鹿なテリーをずぅーーーっと愛してあげるから、他と比べなくたっていい。お前はお前でお前は他人なんかには絶対なれっこない。だから自信をもって。ハニー」


 現実と理想。捨てて受け入れるには時間がかかる。テリーは一人になりたいと広場から離れていく。


 心から愛しているとキッドは言っていたが、それは自分ではなく記憶を失う前の自分に伝えているのだと思ったテリーはカッとなって指輪を捨てようとしてしまう。だが、誰かから心を込めて貰ったものを捨てるのが惜しくて捨てられない。それが例え自分への想いでなくとも。


 それを颯爽と現れた白い狼が口に咥え奪い、走り去ってしまう。指輪を取られ、泣きながら座り込むテリー。戻ってくる白い狼。指輪を取られた怒りや、記憶を失う(転生前のこの世界の自分)への想いを泣きながら白い狼に伝える。しばらくして落ち着いてから、白い狼が西の森の魔女の城へとテリーを誘う。


 城の奥へ進むと、鍵穴のあるドアが待っていた。リチョウの部屋で入手した鍵で開けると、そこには白い狼が――呪われたリチョウが待っていた。今まで彼がテリーに近づいたのは襲うためではなく、アトリの村に近づけさせないように起こした土砂崩れに巻き込んでしまったことへの謝罪を伝えたかったからであった。アトリの村は自分が配った飴によりジャンヌ以外呪われており、今宵村人全員が踊り子であるジャンヌも同じように呪おうとしていることを明かす。リチョウに頼まれ、テリーが急いで村のやぐらへ走る。


 既に前夜祭オープニングセレモニーが始まっていた。呪いの飴を溶かした水をジャンヌが飲もうとした時、テリーがその手を払い、グラスを割ってしまう。いかれた行動だとして、村人全員から人狼扱いされるテリー。銃弾が撃たれたその時、キッドがテリーを押し倒すことによって回避する。日が暮れ、夜が訪れるとジャンヌ以外の村人全員が狼と成り果てた。


 広場から逃げ出すジャンヌとテリー。しかし途中でエンサンと再会。エンサンも人狼であり、ババ様を食い殺したのは孫のエンサン本人であった。恋人のジャンヌをも食い殺そうとした時、白い狼がエンサンに食らいついた。なんとか抵抗したエンサン。しかし、白い狼の声を聞き、エンサンが思わず訊いてしまった。


「その声は、もしやお前、我が友、リチョウではないか」

「そうだ。エンサン。いかにも俺はリチョウだ。貴様、よくも俺の妹を食おうとしてくれたな! 親友だと思っていたのに! よくも!!」


 リチョウに噛まれ、エンサンがその場で気絶をする。壊れかけたダムを壊し、村を沈まそうとするリチョウに、メニーが教会にいるから迎えに行くと伝えるテリー。テリーを教会に送り届け、エンサンとジャンヌはダムを破壊しに向かう。教会に戻ってきたテリーだったが、そこにいたのはメニーではなくいつものピーターの姿であった。しかし、ピーターも既に人狼であった。テリーを噛もうとした直前、ピーターが自らの手を噛むことにより意識を取り戻し、テリーに教会の鍵を取り、閉じ込めているメニーと逃げるよう指示する。言われた通り二階へ上り、メニーと再会する。二人で屋根に上ったタイミングで波が押し寄せてきた。

 一気に教会の屋根ほどの高さまでやってくる津波。テリーとメニーは身を寄せ合っていたが、様子を見るためテリーが離れた瞬間、おかゆ親子の母親に足を掴まれ、テリーは波の中へと引っ張られてしまう。運良く木の枝に襟が引っかかり、やってきたリオンに救出されるが今度はメニーに危機が訪れていた。


 本来であれば魔力を持つメニーならば対抗出来るはずが、メニーはテリーが見ていることを確認した後、笑いながら波の中へと自ら飛び込んだ。メニーを救出するため、テリーも止めるリオンに逆らい、自ら波の中へと身を投げた。


 津波に巻き込まれる中、テリーは意識を遠くさせ、過去の記憶を辿っていく。


 女神様に妹が欲しいと願っていたテリー。そこへメニーがやってきた。願いが叶い、楽しい日々が訪れると思いきや、メニーの父親が亡くなってから、ベックス家でのメニーへの扱いは酷くなり、テリーが止められないところまで来てしまっていた。大人に助けを求めようとも、助けを求めた大人は皆亡くなり、親友であったニクスが行方不明となり、頼れるのはリオンだけであった。更に、船の沈没事故により多額の借金を抱えていたベックス家はもはや王家の者と結婚しなければどうにもならない状況まで追い込まれていた。そんな自分達を助けてくれるのは王子様であり、その王子様がリオンであると信じていたテリーは、舞踏会の日、メニーへ一言伝えた。


「あんたも舞踏会に来ていいんだからね」


 馬車を用意できなかったため、徒歩でも来られるように自分の部屋は掃除するなと伝え、舞踏会へ出かけたテリー。8歳の時に会って以来疎遠だったリオンと再会したテリー。しかし、リオンが見ているのは唯一正気に戻れる魔力を持っていたメニーだけだった。予想外の現実を受け入れられないテリー。自分の夢を叶えたメニーに対し、怒りと恨みが生まれた。家に帰り、皆が寝静まった真夜中、包丁を持ってメニーの部屋へ行き、殺害を目論んだテリーだったが、最愛の妹の寝顔を見て、手を下すことは不可能であった。そこへ寝たふりをしていたメニーが目を開け、殺さないのかテリーへ訊いた。メニーがテリーの腕を掴み、自分へ躊躇いなく包丁を刺そうとしたメニーの手を払い、テリーはその場でうずくまって泣きじゃくる。ベックス家の破産は確定しており、もう戻れないところまで来ていることは二人ともわかっていた。これからは家族を捨て、メニーと生きていくことを決めたテリー。メニーが落としたガラスの靴をリオンが追えなかった場合、二人で家を出ていくことを約束した。


 翌日、リオンがやってきてしまった為、その約束が叶うことはなかった。そして、ガラスの靴を履くために、アメリアヌはアーメンガードから足の指を切られ、テリーは無理矢理履かせられ、足の爪を剥がされることになった。痛みで動けないでいると、閉じ込めれられていた屋根裏からメニーが現れ、簡単に靴を履くことに成功。我に戻ったリオンは、メニーを迎えに来た王子として振る舞った。そしてメニーは、テリーも一緒にお城に行こうと誘った。


 この時既にテリーは家族の様子がおかしいことに気付いてきた。しかし、ここでメニーについていけば自分は一生メニーにしがみついて生きていかなくてはならなくなる。

 自己肯定感の低いテリーにとって、メニーは格下であってほしかった。それが格上の救世主となってしまった。


 そんな思いを抱えて生きていくくらいならば、いっそのこと。


 テリーは、自分達の指や爪を切ったナタでメニーの腹部を刺した。城へ運ばれていくメニー。こうしてベックス邸にて、アーメンガードとアメリアヌ、テリーが破産確定のその時まで生活していた。


 屋敷から追い出された後もなんとか生活していたテリーだったが、いつも王子様が迎えに来て幸せになるおとぎ話のような未来が訪れることを夢見ていた。


 しかし、現実に待っていたのは、ギロチン台だった。


 理想と夢が叶わず悲しむテリーの元へ紫色の優しき魔法使いが現れる。メニーであれば幸せだったと願うテリーに、願いが叶う飴を渡すが、テリーはそれを拒んだ。


 結局メニーになっても、それはメニーの幸せであり、テリーの幸せではないとテリー自身わかっていた。自分のまま幸せになりたい彼女は、せっかくの魔法を断った。それに違和感を覚えたオズ。テリーからは自分が作った土人形のトゥエリーの魔力が見えるが、それでもテリーは魔力を持っていないし、使えない。オズが小さな可能性を思いついた直後、メニーの魔力がオズを襲った。赤と緑が混じった血がメニーの肌についていく。メニーはテリーのしたことを赦している。赦すどころか、怒ってもいないし、恨んでもいない。何とも思っていない。むしろ感謝していた。テリーはいつも自分を助けてくれていた。自分の幸せを願っていたからこそ腹部を刺したのだと思っていた。だからこそ、メニーはテリーの笑顔を見たその時から、世界で誰よりも彼女だけを愛していた。


 世界の一周を実行したのはテリーの為だった。例えテリーに恨まれても、世界が一周することでテリーが幸せになれるなら、メニーは迷わなかった。死刑前日、最後に二人だけの時間を過ごし、死刑の瞬間に魔力によって命を燃やされたメニーは、テリーの幸せを祈りながら一度目の世界での生涯を終えた。


 精神世界で、ドロシーと眠るテリーが会話をする。ここまで自分を愛し尽くしてくれた純粋無垢な妹。そして自分が世界で一番愛していた妹を、プライドを傷つけられたことを理由に恨み、妬み、憎しみ、自らの手で彼女の死を望んだこと。これがテリーの最大の罪であった。


 しかし、しでかしてしまったことは、いつまでも残る。罪滅ぼし活動を行ったところで、罪が滅びるわけでも消えるわけでもない。テリーからすれば、メニーの想いは余計な想いであり、テリーからすれば、自分こそメニーの立場になりたかった偽善者であった。


「うるせええええええ!! 嫌いな奴殺そうとして何が悪いのよおおおおおお!」


 精神世界のメニーを殺しまくるテリー。真実の愛も、理想の世界も存在しない不満も全てをメニーのせいにする。そんな哀れなテリーを笑うクレア。自己防衛の為に振り回していたテリーの包丁を没収できるのは、クレアだけであった。真実の愛は存在しない。けれど、それでも確実に二人の愛は本物である。クレアが現実世界へと戻る一方、テリーもメニーに腕を貸し、共に残酷な現実世界へと戻っていった。


 アトリの村では中毒者となったリチョウ、ジャンヌの父親が暴れていた。中毒者を止める為、キッドによる理不尽極まりない戦闘が開始された。フルボッコにされながらも折れない父親に、精神世界でリチョウが声をかけた。すると父親は正気へと戻り、ささやかな会話を繰り返す。


 どんな詩を読んでも父親の体調だけ良くならなかったのは、寿命だったから。それを呪いの飴を使ったことによって、寿命を伸ばしただけだった。穏やかな父親に、謝罪するリチョウ。そこへ注射器を打つキッド。波の中へ落ちる父親。波の中に呑まれ、死亡した。


 一方屋根の上に残されたジャンヌとテリーも津波に巻き込まれ、気絶。

 目を覚ますと、西の森の魔女の城の前に建てたテントであった。


 記憶を取り戻したテリーがドロシーから状況を聞き、ソフィア、リトルルビィ、リオン、メニーの順番に会っていく。


 裁判にてベックス家の使用人として現れ、虚偽の証言をして罪人に追い込んだアトリの村人達は村を含め壊滅状態であったが、こうして未来は再び変化するのだった。


 今後の進路についてメニーとテリーが話し合う。それぞれの道があり、メニーもそろそろ決めなさいと言うテリーに、メニーが一つ質問した。


「テリー、ギロチン刑にされた気分はどうだった?」


 メニーに馬乗りになり、首を絞め付けるテリー。その頬を叩こうと腕を上げたが、愛しい妹だった時の記憶が忘れられず、叩くことが出来ず、どうしようも出来ず、テリーに出来たのはメニーへの恨みを大声で外に出すことだけだった。走ってきたリオンに押さえられるテリー。のんびりやってきたキッドに気絶させられ、そのままテントに運ばれる。


 クレアになだめられ、ようやく落ち着きを取り戻してから外へ戻るテリー。リオンが収集をかけ、一度目の世界で何が起きたかキッド達に話すことにした。しかしリオンは持病から虚言を言うかもしれないし、偏見だらけのテリーも信用ならない。メニーは正直者だけど、時々とんでもない嘘つきになることから、ドロシーの見てきたことをテリーの口を使うことによって説明することになった。それはいわば、罪人が行う懺悔行為でもあった。


 全てを話し終え、大体理解するキッド、リトルルビィ、ソフィア。だが一つだけ理解ができない。メニーがリオンと結婚する上で出した条件、なぜ世界を一周したのか。それはメニーを大切にしてきたテリーの笑顔をもう一度見るためであり、メニーが非常にテリーを愛してるから。

 メニーはクレアに伝えた。


「大変恐れ入りますが、テリーはあなたのものではありません。あなたは、所詮、浮気相手なんです。おわかりですか? 二番目の女、なんです。と、いうのも……テリーは、わたくしと愛し合っているんです。ずっと前から」


 修羅場となるテントの中。腕から離れないメニー。発狂するクレア、涙目のリトルルビィ。笑いながら一夫多妻制度を勧めてくるソフィア。リオンが今後、この状況を理解した上で世界の救済を目指そうという発言することで事なきを得る。


 しかし怒りが収まらないクレアはテリーを自分のテントへ連行。テリーの想いを聞いてるうちに、メニーは自分とテリーの大切な妹として認識するとのことで理解を得る。


 メニーのテントへ、一度目の世界を知るメニーとテリー、そしてドロシーが集まる。アトリの村の状況、ピーターが無事であることを聞くテリー。そしてアトリの村人達は巻き込まれただけであり、ベックス一族と同じように、罪を憎んで人を憎まずの精神でいる、本物の聖女のメニーに、やっぱり嫌悪するテリー。しかし、そんなメニーに伝えたいことがあるため、誰もいないトゥエリーの城へ向かう。


 中庭のベンチに座るテリーとメニー。雑草だらけの庭を駆けるドロシー。


 様々な話をする二人。メニーはテリーが大切であり、愛しているけれど、それでもテリーがクレアの方がいいというのなら、性欲処理係はクレアに譲ると言う。テリーからすれば、メニーは格下の人形であり、それでも聖女のメニーには何をしても勝てないこともわかっており、憎むべき相手であり、それでもやはり大切な妹である。自らが手を下さないうちに家から出ていくよう伝える。だが、それを聞いて、やはり自分を誰よりも大切に、愛してくれるテリーから離れたくないとメニーがテリーに口付けする。突然の行動に慌てふためくテリーに、妹としてキスしてるだけだから何も問題ないと発言。頭の中でクレアに謝罪を繰り返していると、夜空に星空が広がり、星祭が始まるのだった。


 二人の姉妹が和解する間、ジャンヌと呪われたリチョウは兄妹としての最後の会話を行っていた。


 無事にアトリの村から出た一行。アトリの村が沈んだと聞いて捜しに行こうとしていたアメリアヌの前に一行の馬が見え、アメリアヌが駆け寄っていく。その音を聞きつけたアーメンガードが化け物の動きで宿屋から抜け出し、アメリアヌ、テリー、メニーに、よく無事に戻ってきたと、涙ながら抱きしめるのだった。


 城下町に戻ったテリーの元に、ジャンヌとピーターから手紙が届く。アトリの村の生き残りは隣村で面倒を見てもらっており、とても平和な日々を過ごしている。しかし、ジャンヌはソフィアの催眠によって記憶を消されたことにより、リチョウのことを覚えていなかった。けれど森から聞こえる狼の遠吠えを聞くと、リチョウを思い出すらしい。


 ニクスの誕生日パーティーに向けて準備をするため出かけるテリー。リトルルビィやソフィアに招待状を配り、親友のニクスとアリスにはプレゼントを渡す。途中で、メニーに会うが、ついていくと言うメニーを好きにさせ、大切なビリーを抱きしめ、孫の顔を見て喜ぶMr.ジェフにピーターからのカードを渡し、広場へ行けばクレアが待っていた。


 愛しい人の手を握り、悪役令嬢のような縦巻きロールになった偽善者のテリーは、未来に向かって歩いていく。



 しかし呪いは、確実に世界を侵食していた。


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