普通の冒険者が伝説の剣を抜いたら

ホムラショウイチ

前編

●登場人物紹介●

・クリス・タニア

普通の冒険者。まだ新米。職業は剣士。


・ラピス・ラズリ

クリスの冒険者仲間。同じく新米。職業は魔法使い。


●01●


 ボルド大陸。

 人族と魔族、そしてモンスターが暮らす剣と魔法のファンタジー世界。

 人々はそこで生まれて、生きて、そして死んでいくのでした。

 

●02●


「"クリス……スラーッシュッ"!!」


 薄暗い下水道に、少年の明るい声が響く。

 金髪に茶色の革鎧の少年が、思い切り振りかぶったロングソードを巨大鼠ジャイアントラットの頭へと叩き込む。

 ロングソードは巨大鼠の頭蓋を砕き、頭を潰す。モンスターはじたばたと手足を痙攣させ――やがてその動きを止めた。

 

「――ふぅ」

「やったねクリス!」


 剣についた血潮を振り払い、一息ついて鞘に納める少年。彼に、紫の長衣ローブ姿の少年が声を掛けながら近づいてきた。

 深い蒼の髪をショートにまとめた少年だ。顔立ちは幼いが整っており、育ちの良さが伺える。

 対してクリスと呼ばれた少年は、乱暴に刈り揃えたトゲトゲ金髪頭に活発そうな顔立ちをしていた。元気な悪ガキ、といった容貌である。

 

「これで――三匹目だったっけか? ラピス」

「うん。午前中に後一匹ぐらいいけるかな」


 頭蓋を砕いた巨大鼠の耳をナイフで切り取り、革袋へと入れるクリス。モンスターを狩った証拠だ。袋の中には、今入れたモノを含めて三つの巨大鼠の耳が入っている。

 彼らは冒険者だ。冒険者ギルドに登録し、依頼を受け、それを達成する。

 今日の彼らが受けた依頼は「下水道に住みつくモンスターの駆除」である。

 彼らが住む街、ドラゴンシティはロイヤル王国の中でも発達した都市である。上下水道も完備しているのだが――生活排水が流れ込む下水道に、巨大鼠や大ゴキブリジャイアントローチが住み着いてしまっているのだ。

 比較的弱いモンスターだが、数が多く――その上生息域も定まっていない。軍を動かすほどでも無いが、ある程度数を減らしておかなければいずれ地上の街に溢れてくるかもしれない。それは避けるべき事態だ。

 故に、国は冒険者に下水道掃除を依頼する。地味で大変な上、報酬も安いが――新人冒険者にはちょうどいい難易度の依頼クエストだった。

 そう、この二人――剣士クリスと、魔法使いラピスのような、新米冒険者パーティには。

 

「一匹金貨一枚、だから三匹で三枚……一人一日分の生活費って所か。後三匹は倒さないと割に合わないなコレ」

「まぁ新人に回される仕事だからねー。ロウリスク・ロウリターンってことさ!」

「ま、そうなんだけどな!」


 言って、クリスがふと遠くを見る。

 

「"冒険者"になったからには、こー……"冒険"。"冒険"をしたくならねーか?」

「"冒険"?」

「火吹き山でドラゴンを退治したり! 古の戦場跡でアンデッドの騎士軍団相手に大立ち回りしたり! それこそ魔王相手に世界の命運を懸けて戦うとか!」

「あー、うん。そうだね」


 熱く語るクリスを、冷めた目で見るラピス。

 

「"冒険者"なんだ、命を懸けて冒険して――吟遊詩人に歌われるような"英雄"になりたいじゃないか!」

「その夢は否定しないけどね」


 ランタンを掲げ、周囲を見渡しながらラピスが続ける。

 

「僕達はまだまだ弱小冒険者だ。ドラゴンなんて相手に出来ないし、魔王なんてもっての外だよ。今はこーして地道に依頼をこなして、お金を貯めて経験を積んでいこう?」

「ま、それしかないよなー。

 ――うし、次の巨大鼠探そうぜ。今日は稼がないとな」

 

 グルグルと腕を回しながら、薄暗い下水道を歩き始める二人。前衛に剣士クリス、後衛に魔法使いラピスのオーソドックスな隊列だ。


「明日は年に一度の剣闘大会だからね。国中の凄腕の戦士達の戦いが見れるんだ」


 明日はお祭り。年に一度の剣闘大会。ロイヤル王国中の腕自慢が集まり、最強を決めるのだ。その戦いは非常に見ごたえがあり、クリスもラピスもその見物を楽しみにしている。冒険もお休みにして、出店なんか楽しむ予定だ。そのためのお小遣いも貯めている。

 

「"バルムンクチャレンジ"もあるしな!」

「本当に挑戦するの? 今まで誰も成功したことないんだよ?」

「だから面白いんじゃねーか! もし出来たら有名人だぜ?」


 クリスが口にした"バルムンクチャレンジ"とは、明日の剣闘大会に合わせて開催されるイベントの一つである。

 剣闘大会が開かれる闘技場コロシアム、その近くのある石に、一本の剣が突き立っている。

 名はバルムンク。かつて伝説の勇者が振るったとも伝えられる、伝説級の剣である。

 この剣、石に突き刺さっているのだが――多くの力自慢が引き抜こうとしても、びくともせず、抜けない。

 とある占い師は「この剣は、資格ある者にしか抜けないでしょう」等と言ったらしい。

 以来、この伝説の剣を求め、多くの人が集まったため――街の役人は年に一度、剣闘大会に合わせて剣を引き抜くイベントにしたのだ。

 それが"バルムンクチャレンジ"。

 クリスは、それにエントリーしていたのだ。

 

「伝説の剣! 勇者が使っていた剣! アガるじゃねーか!」

「まぁ分かるけどね。――っと、お客さんだ」


 ラピスがランタンを掲げると、そこには丸まると太った巨大鼠が排水溝から流れ込んできた生ごみを漁っていた。


「うし。仕事と行くか!」

「うん! 頼んだよ、クリス!」


 言って、二人は巨大鼠に戦いを挑むのだった。

 

●03●


「ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!」

「三十二番、ドワーフのスミノフさんの挑戦だ~! 果たしてドワーフの剛腕は伝説の剣を引き抜けるのか~!?」


 良く晴れたお昼前。雲一つない青空の下、ある広場に多くの人が集まっている。

 広場の中心には一抱えほどの大きさの石があり、そこに一本の剣が突き刺さっている。

 黄金の鍔、鍔元に埋め込まれた蒼い宝珠、柄紐は金と銀。白銀の刃は、陽光を反射してきらめいていた。

 勇者が使ったという伝説の剣、バルムンクである。

 人々はバルムンクを取り囲み、一人ずつその剣を引き抜こうとする。バルムンクチャレンジだ。

 

「ぬぅぅぅぅぅぅっっっ!?!?」

「ビクともしない~~!! バルムンク、一ミリも動きません! ドワーフの強力でもダメなのか~!?」


 黒い髭を豊かに蓄えた、寸胴のドワーフがバルムンクを抜こうと試みているが……剣は微動だにしない。まるで台座となっている石と共に、地面に一体化したかのようだった。

 その様子を、イベントの司会兼実況のエルフの女性が盛り上げる。周りの観衆ギャラリーもそれに合わせて囃し立てる。

 

「どうしたスミノフ! ドワーフの意地を見せてやれ!」

「あんなぶっとい腕のドワーフでも無理なのか……」

「抜け―ッ! 抜いたらヒーローだぞスミノフ―!!」

「ぬおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!!」


 観衆の声に応えるように叫び、両腕に力を籠めるスミノフ。筋肉と血管が盛り上がった腕は、はち切れそうなほどに"力"に満ちている。

 しかし――

 

「――――っっだぁ、めだぁッッ!!」


 ガクリ、と膝をつくドワーフ。滝のように汗をかき、呼吸も荒い。それほどに力を込めても――バルムンクは抜けなかった。

 

「スミノフさん脱落! 残念でした~! こちら、参加賞のバルムンクの置物です」


 額の汗を拭うスミノフは、手のひらサイズの台座に刺さったバルムンク《十分の一サイズ》の置物を司会から手渡され、そそくさと退場していく。

 

「ドワーフでも無理なんだね。これで三十二人、全敗だよクリス」

「去年以前も比べれば百人二百人って数の人間が失敗してるんだろうな。バルムンク――強敵だ」


 その様子を観衆の混じって見物する二人の少年。クリスとラピスである。

 金髪と紫髪の二人の少年は、果実水の入った陶製の杯を手に、バルムンクチャレンジを見物していたのだった。

 

「抜けると思う? クリス」

「抜いて見せるさ! 抜いたらかっこいいだろう?」

「その自信はどこから来るんだか……」


 キラキラと目を輝かせるクリスを、ジト目で見るラピス。

 

「では次の挑戦者です! 三十三番、クリスさん! 十五歳の冒険者の少年です!!」

「うし、じゃあ行ってくるぜ!」


 名前を呼ばれ、広場の中央へと向かうクリス。彼の分の果実水を預かり、ラピスは困ったように笑いながら、


「ま、悔いの無いように頑張りなよー」


●04●


「こいつがバルムンクか……」


 台座の前に立つクリス。彼の前には、伝説の剣――バルムンクが突き刺さっている。

 

「はい! ドラゴンシティに伝わる伝説の剣です! まぁ細かい説明は置いといて~……どうですか! 実際に目の前で見た感想は!」


 司会のエルフのお姉さんに問われ、じっと剣を見つめるクリス。黄金の鍔に青い宝珠、金と銀の柄紐、陽光にきらめく白銀の刃。その全てが、彼の目には輝いて見えた。


「――カッコいい剣だぜ! 絶対に抜いてやる!!」

「挑戦者、やる気満々だ~~~~!!」

「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!! やれー坊主! 頑張れよー!!」」

 

 クリスの宣言に司会が応え、観衆もそれにノる。上がっていく会場のテンションに乗るように、クリスはバルムンクの柄を握りしめた。

 

 ――こいつを抜けば、変わるかもしれないんだ!

 

 バルムンク。伝説の剣。勇者が使っていたという、輝かしい栄光の剣。

 これを手に入れることが出来れば、今みたいな地味な新米冒険者から――もっと派手な、カッコイイ冒険者になれるかもしれない。

 そう思うと、バルムンクを握る彼の手に力が入る。

 

 ――こいつを抜いて、俺は変わるんだ!!

 

「――行きます! ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!」


 叫び、バルムンクを抜くべく力を込めるクリス。

 

「んぎ、ぎぎぎぎぃぃぃぃぃぃっっっ!!!」


 歯を食いしばり、汗を垂れ流しながら、精一杯の力を込めて剣を引く。しかし――

 

「バルムンク、微動だにしません! やはり少年にはまだ早かったかー!?」

「あー、やっぱダメかー」

「まぁ前のドワーフでもダメだったんだ、ただのヒューマンのガキには無理な話さ」


 バルムンクは微動だにしない。台座の石と一体化したかのように、まるで動かなかった。

 その様子はさっきのドワーフの再演だ。観衆も「やっぱりダメか」と諦めムードになる。

 

「ぎ、ぎぎぎ、ぐぐぐ、ぐぁあああああああっっっ!!!」


 白けた空気を感じながらも、クリスは抜くのを止めなかった。叫び、柄を握る手に出来る限りの力を込め、バルムンクを引き抜こうとする。

 手のひらが、指が、柄紐でこすれて血がにじむ。それでも、彼は止めない。

 

 ――変わるんだ!!

 

 その決意を胸に、バルムンクを引き抜こうとする。

 

「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」


 ――カチリ。

 

「!?」


 不意に、クリスの耳に小さな、しかし確かな音が響いた。何かが噛み合うような、そんな音が――

 

「う、うおおおおおおっっっ!?!?」


 ――スッ。

 

 小さな違和感を追及する間もなく、クリスはしりもちをついた。手に、バルムンクを握ったまま。

 伝説の剣が、音も無く――あっさりと。抜けてしまった。

 

「な、な、な、なんと~~~~!?!?!? 三十三番、クリスさんがバルムンクを抜いてしまった~~~~!?!?!?」

「お、うおおおおおおっっっ!?!?」

「なんだと!?」

「どういうことだ!?」

「すげぇ! 抜けたんだ!」

「やるじゃねぇか坊主!!」


 少し遅れて、司会のお姉さんが信じられない、と言う様子で叫びをあげる。観客も困惑交じりの歓声だ。

 

「――ホントに抜いちゃったよ……」


 観客に混じって見ていたラピスも、茫然自失の様子で呟く。

 

「――抜けた」


 クリスはと言うと。地面に大の字で寝転がったまま、右手に引き抜いたバルムンクを掲げる。

 輝く姿はそのままに、伝説の剣は彼の手の中にあった。

 

「やった。やったんだ! 俺は、抜いたぞぉ――ッッッ!!!」


 溢れる歓喜をそのままに、彼は飛び出さん勢いで叫びを上げるのだった。


●05●


 こうして伝説の剣、バルムンクは――新米冒険者クリス・タニアの手に渡った。

 その様子を、会場の観客以外のモノが見ていた。

 ここはロイヤル王国ドラゴンシティから遥かに離れた――ボルド大陸の西、魔族領。

 その中心に、その城はあった。昼だと言うのに暗い空の下、禍々しい造形の尖塔が立ち並ぶ巨大な王城。魔王が住まう城、魔王城である。

 その一室にて、魔王軍の参謀――グナイゼナウは、遠見の水晶ごしにクリスを見ていた。

 正確には、彼の手に輝くバルムンクを、である。

 

「――の剣が抜けましたか」


 魔族特有の赤褐色の肌に、銀髪をのばした美貌。魔王軍参謀である才女、グナイゼナウは眉間にしわを寄せた。

 

「アレは、魔族我々にとって厄介な代物です。――マリスタッグ!」

「お呼びで。参謀殿」


 グナイゼナウの声に、一人のモンスターが姿を現す。彼女よりも一回り大きな、人型のクワガタとでも言うべき風貌のモンスターだった。

 彼の名はマリスタッグ。昆虫モンスター・オオクワガタが魔王の力を分け与えられてパワーアップした"魔人"という存在だった。

 彼はハサミ状の大あごをガチガチと鳴らしながら、グナイゼナウの前に膝をつく。

 

「早急に始末してもらいたい人間がいます。名はクリス・タニア。ドラゴンシティに住む人間の冒険者の子供です」

「そりゃあ何かの冗談ですかい?」


 グナイゼナウの言葉に、マリスタッグは怪訝な様子で返す。

 

「グナイゼナウ様。俺は"魔人"ですぜ。ただのモンスターとは違う。より強く、より無敵で、より最強な存在だ。それが――何が悲しくて人間のガキを殺しに行かなきゃならないんです」

「反論は求めていません。速やかに命令の遂行を」


 マリスタッグの疑問を、グナイゼナウはぴしゃりと遮った。

 

「……ま、命令なら行きますがね。人間のガキ一匹、すぐに殺してきますよ」


 不承不承、という様子を隠すことも無く、マリスタッグは部屋から出る。

 

「――畜生あの女、魔王様に気に入られてるからって俺様をアゴで使いやがって……! いつか絶対ヒィヒィ言わせてやる……!」


 薄暗い廊下を歩きながら、マリスタッグはグナイゼナウへの恨み言を呟く。

 

「俺様は魔人だぞ? 人間・・じゃあ・・・絶対勝・・・てない・・・存在だ。それが何が悲しくてガキ一匹殺しに人間領にまで足を運ばなきゃ行けないんだ……! 畜生、せいぜい楽しませてくれよ? 四肢を落としてまぶた落として――」

 殺害対象でどうか。そんなことを考えながら、マリスタッグは人間領へ足を運ぶのだった。

 

●06●


「――どうしてこうなった!?」


 クリスがバルムンクを手に入れた次の日の夕方。クリスとラピスは今日も下水道で巨大鼠ジャイアントラットを退治してギルドへと足を運んでいた。

 ギルドの受付に切り取った巨大鼠の耳を渡し、それと引き換えに報酬をもらう。そうしたらギルドに併設された酒場で冷たい麦酒エールと適当な夕飯を食べる。

 いつもと変わらない、二人の日常・・だった。

 そう、日常だった。何一つ変わることのない。

 

「伝説の剣を! バルムンクを手に入れたってのに! 何で俺達は変わらず下水道でドブさらいをやってるんだ!?」

「そりゃあねぇ……」


 酒場の一角、二人掛けのテーブルで不満の声を上げるクリスに、ラピスは苦笑いの表情。

 

「伝説の剣が抜けたからと言って冒険者ギルドの等級ランクが上がるわけじゃないし。キミはただちょっと凄い剣を手に入れた、ってだけなんだよねー」

「何がちょっと凄い剣、だ!」


 クリスは背負っていた片手半剣――バルムンクをガシャンとテーブルの脇に放り出す様に立てかける。

 革製の鞘に納められた黄金の鍔、青い宝珠の宝剣は、クリスが抜いた時から変わらぬ輝きを放っている。

 しかし。クリスがバルムンクを少し引き抜くと、まるで石の様に輝きを無くした刀身が露になった。

 

「抜いてしばらくしたら急にこんなナマクラになっちまうし!」

「なんでだろうねぇ」


 昨日。バルムンクチャレンジにおいてクリスが見事引き抜いたバルムンクは――しばらくすると急にその刀身から輝きが失せ、ただの石剣のようになってしまったのだ。鋭さもまるで失われてしまっていた。

 

「そのくせ滅茶苦茶重くなるし!」


 さらにはその重量も増加した。片手で持つなんてもっての外、両手でようやく持ち上がる、そんなレベルである。

 あまりの重さゆえに剣として振る事さえ満足に出来ない。クリスが試しに振ろうとしても、その重さで身体が泳いでしまったほどである。

 結果として。バルムンクは鍔や柄こそ金やら宝珠やらで飾り立てられた見事な剣だが――実戦ではまるで使えない、ただのナマクラと判明したのだ。

 その上。

 

「部屋に置いていこうにも、この剣俺から離れないし!」

「何かがっちゃってる・・・・・・・んだよね」


 引き抜いたバルムンクとクリスとの間には、何かしら魔術的な繋がりが出来てしまっているらしい。

 その繋がりのせいで、クリスはバルムンクから一定以上離れることが出来なくなってしまっていた。

 ラピスがその繋がりを解こうと解析してみたのだが、古代の上級ハイ・クラスの魔術によるモノ、としか分からず、解くことは出来なかった。

 

「まるで呪いの剣だぜ……」

「古代上級魔術レベルだからね……王都の凄い魔術師でも無いと解けないんじゃないかな……」


 バルムンクはクリスから一定以上離れることは無く。かと言って戦闘に仕えるような代物でも無く。

 結局、彼はこの呪いの剣お荷物を背負って冒険する羽目になったのだ。

 

「あーあ! 何か変わると思ったのになぁ……」

「そう甘くはないってことだね」


 クリスはテーブルの上のパンをシチューにつけ、もしゃもしゃと食べる。その様子があまりにも元気が無いので、ラピスは少し明るめに声を出しながら、話を切り出した。

 

「毎日毎日下水道でドブさらい、ってのも飽きちゃうし。明日は別の依頼を受けてみる?」

「別の依頼? と言っても俺達みたいな新人が受けられる依頼なんて、ドブさらい以外にあるか?」

「定番の奴があるじゃん! ドブさらいと双璧をなす新米冒険者定番の依頼クエスト

 ――ゴブリン退治!」

 

 ゴブリン。子供程度の体格と力を持った醜いモンスターである。普通の一般人でも追い払えるほどの弱さのわりに、妙にしぶとく、こずるいモンスターだった。

 たまに辺境の村などに出没し、家畜や人間の女子供をさらっていく。そのため、その駆除が冒険者ギルドに依頼されるのだった。

 ゴブリンはとにかく弱く、そのくせ報酬もあまり出ないため、その駆除依頼は人気が無い。必然、新米冒険者に回ってくる依頼だった。

 

「報酬的にはあんまりおいしくないけどさ。気分転換も兼ねて、やってみない?」

「――やってみるか。腐っててもしょうがないしな!」


 少し元気が出た様子で、シチューをかき込み始めるクリス。

 その様子に、ラピスは少し安堵するのだった。

 

 「よーし! 明日はゴブリン退治だ!!」

 

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