第12話 妹好きがバレない様に
恋人同士で映画鑑賞と言えば、やはり恋愛物と相場が決まっている。
決まっているのか? て言うか、今時ベタな恋愛物なんてそうそうないぞ。映画館の入口に貼ってあるポスターで今上映している映画をざっと見たところ、アニメにSFにコメディに感動物にアクションというラインナップ……うーーん微妙。
「えっと、どうする?」
映画のポスターを眺めながら何を見ようか妹に聞いてみる。
っていうか……映画館に来て改めて思った。俺……本当に妹とデートしてるんだなぁ……うーーんいくら妹の頼みとはいえ、初デートが妹って……黒歴史だよなぁ……
妹とデートなんて……おそらく、瑞希先生の漫画を……エロ漫画を読んでいなかったら断っていただろう……あ! いや、妹物漫画家を読んで妹に興味を持ったとかじゃないから、違うから、瑞希先生の描く妹には興奮するし興味もあるけど、実の妹に興味なんて、それも性的な事なんて、考えるわけないからな!
妹は俺に漫画家を目指したいって言った。俺は瑞希先生の漫画に出会えて感謝している。でも勿論瑞希先生には感謝を伝える事はしてない。俺はファンとして連載している雑誌を買うだけだ。勿論本が出たら保存用も含めて2冊以上買うつもりだ! ただ瑞希先生は高校生が18禁本を買うなんて迷惑と思うかもしれない……ましてや手紙を送られたり直接会いに行ったりしたらもっと迷惑だろう。
だから恩返しってわけじゃないけど、同じ職業を瑞希先生と同じ漫画家を目指そうとしている妹を応援したいと思ったんだ。
でも……瑞希先生みたいなエロ漫画家になりたいって言われたら少し引かも……いや、駄目だそんな差別をしたら、エロ漫画家にだって物凄く良い作品だってあるんだ! そしてそれは敬愛する瑞希先生を否定する事になる!
それにしても……ああ、あの妹可愛かったなぁ、エロかったなぁ、あんな妹とイチャイチャしたいなぁ、早く続きが読みたい……おっとまずいまずい、実の妹の前で妹可愛いとかイチャイチャしたいとか、本当にまずい。
俺は瑞希先生のキャラの! あくまでも瑞希先生のキャラの妹好きがバレない様に、人畜無害な自分を見せつける様に実の妹環に対して屈託のない笑顔で何を見るか尋ねた。
「お兄ちゃん……なんか笑顔がキモい~~」
「ひ、酷い!」
俺は一瞬妹好きがバレたかと思い、わざとらしく大きなリアクションを取るが、そんな俺に構わず妹は再び映画のポスター眺めながら観る映画を吟味していた。 妹っよ構ってくれ、兄は寂しいぞ……
「うーーーーん、泣くと化粧崩れちゃうし……アニメっていっても子供が見る奴だし、この中だとコメディかなぁ?」
妹は某県ディスりコメディ映画を指差して言った。
「まあ、無難だな」
「じゃあそれで~~」
そういうと妹は一人でチケット売り場にスタスタと歩いていく。
「え? ちょっと待て、環」
「ん?」
「いや、お金」
「ああ、良いよ私が出すから」
「いいよって、駄目だよ結構するだろ、学生証出さないと駄目だし」
「大丈夫大丈夫、丁度原稿……」
「げんこう?」
「げんこう、えんこう、援交なんてしてないよ!」
「当たり前だ! え? ま、まさか!」
突然えんこうなんて言う妹、うちの妹に限ってそんな事するわけないとは思うが、突然そんな事を言われびっくりした俺は冗談めかして妹にそう言うと、妹は鬼の形相で俺に詰め寄り首を絞めてくる。
「してない! してるわけない!!」
「わかった、わかったから、絞めるな、く、苦しい……」
小柄で非力の妹なのだが、おもいっきりしめられれば、死なない程度に苦しい……
「もう!」
「人前で首を絞めるな、で、げんこうって?」
「げんこ……つって言ったの」
「なぜ殴る?」
「お兄ちゃんが色々うるさいから」
「でも、兄として妹に奢って貰うって言うのもな」
「もう、無理しなくて良いのに……あ、じゃあさ、お兄ちゃんここは出してよ」
「え?!」
「やっぱり嫌なんじゃない」
「いや、せめて割り勘かなと」
「夕食にちょっと高いお店予約してるの、だからそれは私が出すから、ね?」
「高い店?」
「そう、えっと、そこは取材を兼ねてるから、お兄ちゃんもこっちで出しておけば気兼ねなく食事できるでしょ?」
「まあ……」
「じゃあよろしく~~お兄ちゃんゴチになります!」
空手の試合で相手に向かって礼をするようなポーズを取る妹……その仕草に思わず笑みがこぼれる。
まあ、黒歴史は黒歴史だけど……以外に楽しい、妹とデートも悪くない……かも……俺はそんな事を思い始めていた。
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