私は清楚です。
七戸寧子 / 栗饅頭
本編
あなたは唐突に感じるかも知れませんが。
私は清楚です。
さっぱりとした質素な立ち振る舞いを心がけ。
真面目、勤勉、その類の言葉に当てはまる行動をする。
御学友からも一目置かれている存在です。自分で言うのもなんですが。
いつも思うのです。
私は清楚です。
それは運命づけられたもので、生まれながらにこのような人間になることが定められておりそれ以上にもそれ以下にもならない、絶対に曲げれることのない「清楚」なのではないかと。
私はそれで良いと思っています。
私は清楚です。ただそれだけです。それが正しい在り方なのです。
「辺釿さんって、おしとやかだよね〜」
「ほんと、THE 清楚ってカンジ!」
そんな言葉を聞いて、私はため息をつきます。教室の隅でコソコソと・・・あの方々は暇なのでしょうか。私のことを話す前に、自分の立ち振る舞いを考えた方が良いのでは、と思います。
まぁ、彼女らのような方にも清楚だと言われる程。
私、
「雨ヨちゃーん!」
放課後の教室で、私はそう呼ばれました。
呼び止めたのは御学友の一人です。悪い方では無いのですが、どうもそのテンションに着いていくのは難しいです。
「なんですか」
「この後一緒にカラオケいかなーい?」
「私はこの後家に帰って復習です、お気持ちはありがたいですがお断りします」
「へー、真面目だね〜。雨ヨちゃん、もう少し肩の力抜いていいんじゃない?」
雪ヨちゃんって呼ぶのはこの方くらいです。特別親しい訳でも無いのですが・・・正直、雪ヨなんて珍しい名前で呼ばれるのはやめていただきたい感じがあります。
「私はこれが自然体です、お気になさらず」
「ふーん、無理に変えろとは言わないけどさぁ?恋とかしてみたら変わるんじゃん、ははは!」
そう言って、彼女は教室から出ていきました。
私は女です。当たり前です。清楚であることよりも曲げられないものです。
思うのです、「恋」というのはどういうものでしょうか。
両親から、穢れないように純心なままでいられるようにと綺麗にシーツをかけられて育てられました。もちろん比喩ですが。
「恋」とはいいものでしょうか。わるいものでしょうか。
私は、後者で認識しています。
理由としては・・・街で見かける男女の組。
かっぷる、と呼ばれるものでしょうか、私には分かりませんが・・・。格好は整っておらず、きゃあきゃあと騒ぎながら身を寄せ合う姿はなんと穢らわしいことでしょう。
「はぁ・・・」
同じ人間であることを疑いたくなります。もはや、彼らは別の生物なのではないでしょうか。「りあじゅう」とは劣った生物である、私の中ではそう認識されました。
私のような清楚な人間には、「恋」なんて似合わない。
私の聡明な頭脳で、そう学びました。
ある日、また例の彼女に誘われました。
雨ヨちゃん呼びの彼女です。
「N校の文化祭行こ!」
文化祭、ですか。
悪くはありません、文化的な発表なんかは面白いものです。そんな真面目な文化祭かはわかりませんが。
まぁ、彼女の誘いも断ってばかりです。その日は空いていました。
「わかりました、行きましょう」
「うぇるかむとぅーN校文化祭!」
はぁ。なんだか、ここに来たことを後悔している気がします。
なんですかこの始まり方。
「雨ヨちゃん、始まったね!」
「ええ、そうですね」
冷めた気持ちのまま、彼女に連れられて校内を回ります。
早く一日が終わらないかなぁ、なんて思いながら。
回る途中、とある男の人に会いました。
「お、ルーちゃんおひさ!隣の子は?」
「ひさしぶり!この子、雨ヨちゃん!私のクラスメイト!」
あらあらあらあら。会話についていけません。大体、ルーちゃんってなんですか、誰ですか。彼女はそんな名前ではないはずです。あだ名でしょうか。
「アメヨちゃん・・・?へぇ」
あら?
気のせいでしょうか、なんだかドキッとしたような。男の人に雨ヨなんて呼ばれたことはありません、そのせいでしょう。
「じゃ!いくね!」
「はーい、楽しんでな!ルーちゃん、アメヨちゃん!」
・・・また?
ただいま帰りました。家に帰ってきました。
ルーちゃんこと、雨ヨちゃん呼びの彼女には悪いですが・・・私は退屈でした。
まともに記憶に残ってるものがありません、それこそルーちゃん呼びの男の人しか・・・
あれ?何故あんな人が記憶に残ってるんでしょう?
心拍数が上がった気がします。体調でも悪いのでしょうか。今日は早めに寝ましょう。
あれからというものの。
なんだか彼のことが頭の中で回っています。
なんででしょう、よくわかりません。ただ、彼のことを思い出すと私の心臓が活動的になることは確かです。
「雨ヨちゃーん?おーい?」
「あら、すみません。考え事していました」
このように、思考することに集中してその他がおろそかになります。
全く、私はどうしたのでしょう。
「辺釿さんって、最近変わったよね〜」
「ほんと、THE 女の子ってカンジ!」
また彼女らですか。どれだけ暇なのでしょう。
というか、変わった?私のどこが?
なんだか癪ですが、聞いてみることにしました。
「だってさ、最近ぼーっとしては顔赤くしてるし!」
「辺釿さん、好きな人とか出来たんじゃない〜?」
はぁ。
いや、何を言っているのでしょう。
これっぽっちも心当たりがありません。
家に帰ってから、気が付きました。
鏡の前で髪を乾かしていた時のことです、また私は彼のことを考えていました。
顔が赤い。
気がついたのです。
その夜は眠れませんでした。
私は清楚です。
その清楚を捨てるべきかどうかという、究極の問いについて考えています。
私にとって、それを望むということは清楚を捨てると同義です。私は清楚を貫いて生きてきました、これは悩みます。
怖いです。
それがなくなったら、どう生きればいいのでしょう。
それをなくして、確実に望み通りの未来が手に入るという訳ではありません。たった、顔を一度合わせただけですから。会話すらしてません。
でも、この心臓は鳴っているのです。いつもより、少し強く。
私は決心しました。
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