第900話 命名!

 ちびっ子エリーヌと話をするが、俺の思っていた通り完全に旅行気分だった。


「ヒイラギや、モクレンから話を聞いていたんだろう?」

「も、もちろんよ……」


 明らかに目が泳いでいる。

 絶対に詳しい話を聞いていたとは思えない。


「と、とにかく、タクトと一緒に行動していれば……いいのよね?」


 ……どうして、疑問形なんだ?

 そんなこと、俺が知るわけがない。

 

「まぁ、一人にするとお前は周りに迷惑を掛けそうだから、俺たちと行動するのには賛成だな」

「だよね~」


 ちびっ子エリーヌは、ホッとしたのか安堵の表情を浮かべた――と、いうよりも楽観的な考えなのが、ちびっ子エリーヌの表情から読み取れた。


「とりあえず、慈愛の神であるエリーヌと同じ名前なのは後々、面倒になるから今からお前の名前は”ポンコツ”だ‼」

「ぜぇーーーーったいに嫌ーーーーー!」

「だって、お前……ポンコツじゃん」

「ポンコツじゃないもん‼ ねぇ~」


 ちびっ子エリーヌは、シロたちを見るが誰も賛同していなかった。


「私……ポンコツじゃないもん」


 涙目で俺に訴えかけてくる。


「タクトよ。あまり神を虐めるものではないぞ」

「師匠、意地悪なの~」


 アルとネロが何故か、俺を責める。


「タクト様。エリーヌ様は、その”ポンコツ”というお名前が気に入らないようですので、他の名前をご提案されては如何でしょうか?」


 ユキノまでも、ちびっ子エリーヌの肩を持つ。

 これが、女同士の結束というやつなのだろうか?

 だが、ユキノに言われたのであれば、考えを改めるつもりだ。


「なら、ちびっ子エリーヌなんで……チビーヌってのは、どうだ?」

「いや、それはないじゃろう」

「師匠~、それは変なの~」

「相変わらず、タクトはセンスがないわね」

「ちょ、ちょっと――」


 分かってはいたが、皆から攻められると、少しへこむ。

 ちびっ子エリーヌも否定的のようだ。


「それなら、お前達なら、なんて名付けるんだ?」


 俺の問い掛けに、アル達は口を噤んだ。

 数行後、最初に口を開いたのはネロだった。


「チビリーヌは、どうなの~⁈」


 俺のチビーヌと大差ないよにも思えるのだが……。


「妾は……チビじゃな」

「アル~、それはないの~!」

「あの~……」


 ネロがアルに意見する。

 俺もネロと同じことを思っていた。

 ちびっ子エリーヌは、なにか言いたそうだった。


「それでしたら、全く関係のない名前などは如何でしょうか?」

「全く関係のない名前か……それは、いいかもな」


 エリーヌという名前に縛られていた……つまり、固定概念に縛られていた俺たちには、新鮮な発想だった。


「それなら、お主とタクトの間に子供が出来たと考えて、名付ければ良かろう」


 アルの突拍子も無い言葉に、俺は恥ずかしくて下を向く。

 ユキノを見ると、ユキノも赤くなって下を向いていた。


「二人とも、初々しいの」


 見た目が小学生のアルに、そんな言葉を言われるとは夢にも思わなかった。

 ユキノとの子供の名前なんて、考えたことがなかったので、俺は思考をフル回転させて考える。


「それでしたら……」


 ユキノが恥ずかしそうに喋り始めた。

 俺はユキノの発言で初めて、ユキノが俺との夫婦生活を、そこまで考えていたのだと知る。

 結婚して子供を授かることが、この世界の一般的な常識だ。

 前世では、結婚も子供を授かることも、この世界ほど強制力もない。

 考え方次第では、前世の方が暮らしやすかったとも考えられるのかも知れない。


「その……タキノというのは、如何でしょうか」


 ユキノは言い終わると、余程恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして、顔を手で覆い隠した。

 タクトとユキノの名前を合わして、タキノ。

 ……とても分かりやすい。

 当然だが、俺以外のアルやネロも気付いている。


「よい名じゃな。妾も、その名前でよいと思うぞ」

「私も、その名前がいいと思うの~」

「私の話を聞いて欲しいんだけど……」


 アルとネロは、面白がっている。

 ユキノは、自分の意見に賛成してくれているアルとネロに向かって、笑顔を向けていた。

 ちびっ子エリーヌが、なにか言っているが無視して話を進める。


「じゃぁ、ちびっ子エリーヌは今後、タキノという名ということで!」

「了解じゃ」

「分かったの~」


 当事者の、ちびっ子エリーヌが答える前に、多数決で名前が決まる。


「あの~……」


 ちびっ子エリーヌが、申し訳なさそうに頭を軽く下げて、右手を上げる。


「ん、なんだ? ……もしかして、ユキノの言った名前が気に入らないのか?」

「いや、あのね……名前は変更しないで、この世界で生活することになっているの……」

「はぁ~‼ なんで、それを早く言わないんだよ!」

「何度も言おうとしたけど、タクトたちが聞いてくれなかったんじゃない」

「……」


 たしかに、ちびっ子エリーヌは、なにか言おうとしていた。

 こんな重要なことなら、早く聞けば良かった。

 この不毛な時間は、俺とユキノが恥ずかしい思いをしただけだった。


 とりあえず、ちびっ子エリーヌはエリーヌになったが、問題が起きるに違いない。

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