第898話 聖地ゴンド!
俺はアルの報酬を確認するため、【神との対話】でエリーヌと対面していた。
モクレンからは、エクシズに影響のない程度であれば、ある程度のことは構わないと言われていたので、エリーヌの判断でアルの報酬を叶えたようだった。
アルはエリーヌに対して、俺への口止めはしていない。
俺はエリーヌにアルの報酬を聞くと、思ってもみない答えが返ってきた。
アルの報酬とは、「ユキノの痛みを出来る限り感じないように和らげて欲しい」とのことだった。
「いい弟子を持ったよね」
「あぁ……、俺には出来過ぎた弟子だよ」
アルの心遣いに、俺は感謝して目頭が熱くなる。
「あれ? タクト、もしかして泣いているの?」
泣きそうな俺に気付いたエリーヌが、俺を揶揄う。
「うるせぇ、泣くわけないだろう‼」
俺は精一杯の虚勢を張る。
「でも、私だって残念なんだよ」
「残念?」
「そうだよ。だって、苦労して転異させた使徒が、数年でいなくなっちゃうんだよ」
「苦労したって……なにか、苦労したのか?」
「それは……」
エリーヌは思い出そうとしているが、俺を転異させた時に苦労をした記憶がないのか、途中で諦める。
「まぁ、俺の我儘で早く死ぬのには変わりないからな。それに関しては、本当に悪いとは思っている」
「えっ‼ タクトが私に謝った……」
俺が素直に謝ったことに驚くエリーヌを睨む。
「あ~、でもタクトは優秀だったよ」
エリーヌは誤魔化すように笑顔で、話を逸らす。
「本来の目的である布教活動で言えば、数年でこの成果は凄いよ。私の予想では十年以上経っても、難しいと思っていたからね」
「……それって、俺が一生かけても無理だったってことか?」
「う~ん。布教活動って、そもそもが難しいからね。だって、知らない神を崇めるんだよ。怪しすぎるじゃない‼」
「……いや、神のお前が、そんなこと言うなよ」
「私は事実を言っただけだよ!」
「そうだとしてもだな……」
モクレンにでも聞かれたら、叱られるに違いない。
「本心で言えば、私としては満足しているんだ。エクシズで私の名が、かなり広まっているのも確認しているし、それもタクトが考えてくれた素晴らしい二つ名でね!」
嬉しそうに話すエリーヌは、『慈愛の神:エリーヌ様』という響きが気に入っているのだろう。
「俺が死んだら、新しい使徒をすぐに転異か、転生させるのか?」
「あっ、それは無いから安心していいよ」
「安心も何も、俺は死んでいるから関係ないだろう」
「そっか‼ タクトが死んでも私の信仰は簡単には無くならないと思うのね」
「そうか?」
「うん。世界各地で、私の信仰者は増えているからね。天変地異などが起きたりすれば、私の信仰も弱まるとは思うけど、それでも随分先だと思うよ」
「自信満々だな……」
「当り前じゃない。私は神なんだから‼」
根拠のない自信は、相変わらずだな――と、俺は笑みを浮かべる。
「あのゴンドって所が私の聖地だからね。そこに、アルシオーネやネロの魔王二人がいるだけでも、いかに私が凄いかってことにもなるしね」
「そうか?」
神と魔王。どちらかと言えば、対極にいる存在だと思うのは俺だけだろうか?
「それよりも、従者の二人はどうするの?」
「どうするって?」
「タクトの主従関係が無くなるわけじゃない」
「あぁ、そうだ。二人とも自由に、自分の好きなように暮らしてもらうつもりだ」
「それって、私が眷属にしても、いいってことよね」
「眷属なら、既にピンクーがいるだろう」
「そうだけど、眷属は多い方がいいじゃない。それに、あの子たちは優秀だから、私も楽できそうだし‼」
「そりゃ、シロもクロも、元眷属だからな。ピンクーよりは仕事は出来るだろう」
「でしょう。ねぇ、いいでしょう‼」
「俺が死んだら、シロとクロに直接聞いてくれ」
「うん、そうさせてもらうね。あとで、文句言うのは無しだからね」
「文句もなにも、俺が死んでいるんだから、文句を言うことも出来ないだろう」
「たしかに、そうだね」
シロとクロであれば、エリーヌの口車に乗ることは無いと思うが、まがりなりにもエリーヌは神だから逆らえない可能性もある。
一応、俺からシロとクロに話しだけして、無理に引き受ける必要が無いことだけでも伝えようと思う。
個人的には、シロとクロには自由に生きて欲しいと思っているからだ。
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