第818話 問題解決会議-2!

 大臣同士が意見を述べて、ルーカスたちが意見する。

 その繰り返しだ。

 白熱していたが、意見が無くなるにつれて、飛び交う言葉も少なくなっていった。


 俺は、蚊帳の外なので客観的に意見を聞いていたが、国王であるルーカスを守る事前提で話を進めているため、ルーカスが納得出来る案で無いと駄目なようだ。


 突然、部屋の扉を叩く音が聞こえる。

 視線が扉の方に向く。


「今は大事な会議中だ‼」


 メントラが扉に向かって叫んだ。


「承知しております。し、しかし、緊急を要する件が御座います」


 メントラはルーカスの顔色を伺う。

 ルーカスは、静かに頷いた。


「入るがよい‼」

「はっ!」


 部屋の外から言葉が返って来る。

 静かに扉が開くと、騎士団副団長のクトリーもネラルトの二人が姿を現す。

 二人の姿に一番驚いたのは、騎士団団長のソディックだった。

 しかし、俺は会議を中断してまでの報告があることが気になった。


「申し上げます。民が城の周りに集まっております」

「何だと‼」


 大臣たちが叫び声を上げる。


「そ、それで――どうして、集まっているのだ」

「それなんですが、国王様から報告があるという噂を聞いたらしいのです」

「何だと! そのようなことは何も伝えてはいない‼」


 大臣たちは騒ぎ始めた。

 反国王派か、貴族社会を排除しようとする者たちなのか……。

 どちらにしろ、動きが早すぎる。


「一体、だれが……」


 大臣たちは憶測で犯人捜しを始める。

 しかし、今は犯人捜しよりも、この状況を解決する方が先決だろう。

 俺が、そのことを言おうとすると――。


「よい。全ての責任は国王である余にある」


 ルーカスが、威圧のある言葉で喋っていた大臣たちを黙らせた。


「アルシオーネ様にネロ様」

「なんじゃ?」

「なんなの~?」

「もう一度、確認させて頂きたい。御二方はタクトの弟子で宜しかったでしょうか?」

「うむ。妾はタクトの一番弟子じゃ!」

「私は二番弟子なの~」

「ありがとうございます。――タクトよ」

「なんだ?」

「お主は、エルドラード王国いや、人族と敵対関係では無いのだな」

「勿論だ‼ 俺や仲間に危害を加える奴は例外だがな」


 俺は正直に答える。


「アルシオーネ様にネロ様も、同様と考えても宜しいですかな?」

「勿論じゃ。師匠のタクトの従う」

「私もなの~」

「ありがとうございます」


 ルーカスは椅子から立ち上がり、俺たちに頭を下げた。

 その姿に大臣たちは驚くが、反論を口にすることは無い。

 一国の王が簡単に頭を下げるべきではないと、思っているのだろう。


「民には正直に話すことにする。タクトは人族を守るために、魔物を討伐し続けたことで、魔族から恐怖の対象となり魔王になったと――」

「し、しかし‼」


 メントラがルーカスの言葉を遮る。


「まぁ、最後まで聞いてくれ」

「はっ、はい。失礼いたしました」

「そのタクトが、第一柱魔王のアルシオーネ様と第二柱魔王のネロ様を倒して、弟子にした――ということで宜しいですかな?」


 ルーカスはアルとネロの方に様子を伺う。


「うむ。事実じゃ」

「間違いないの~」


 俺的には語弊のある説明だが、今更のことなので反論する事も無く聞いていた。


「よって、アルシオーネ様とネロ様は、タクトの管轄下ということで、魔族との共存を試みることを発表する」

「国王様‼ それは、時期尚早では――」

「メントラよ。お主の心配も良く分かる。しかし、アルシオーネ様とネロ様に、この王都は救われた。この事実は覆すことは出来ない。王都を救って貰った方たちを無下にするなど、国王として許されることではない‼」


 ルーカスの迫力に、メントラたち大臣は押されたのか委縮していた。

 それは、隣にいた第一王子のアスランも同じだった。

 ルーカスの国王としての覚悟なのだろう。

 先程の会議では、ここまでの覚悟が出来ていなかった為、結論が出なかったのか?

 それとも、民が押し寄せてきたことで覚悟が決まったのかは、俺には分からない。

 もしかしたら、ルーカスは今後、歴代最低の国王、愚王ルーカスと語り継がれるのかも知れない――。


 どちらにしろ、俺はルーカスに愚王なる称号を背負わせるつもりは無いし、最悪の場合は俺が悪者になれば――とも考えていた。


「タクトよ。ユキノを生き返らせてくれたことも、正直に話すが良いか?」

「あぁ、構わない。必要であれば、俺からも話すぞ」

「その時は、頼むとしよう」

「分かった」


 覚悟を決めたルーカスは、一人で問題解決の案を決めていく。

 完全にトップダウンだ。

 本当に先程まで、白熱していた議論は何だったのかと考えてしまう。

 前世でも同じようなことがあったことを俺は思い出して、少し微笑む。


「なんじゃ? 面白いことでもあったか?」

「いや、思い出し笑いだ」


 不意に笑った俺に気になったのか、アルが声を掛けてきたが、期待した答えと違ったのか、すぐに興味を失ったようだ。


「ターセルは利用されていただけで、被害者だと国民に説明をする‼」

「国王様‼ それで、民は理解するでしょうか?」

「それは分からぬが、ターセルが国に貢献してくれたことも考えると、ターセルの無実を伝える必要がある」


 ルーカスの言葉からも、ターセルのことを信頼していたことが伝わって来た。


「以上だ。もし、民が暴動するようなことがあれば、全て余の責任として、国王の座を退き、アスランに譲ろうとも思う」

「父上‼」


 アスランが叫ぶ。

 しかも、『国王様』でなく、『父上』と言ったことからも動揺したようだ。


「アスラン。本当であれば、伴侶を得てからの方が理想だろうが、今は不測の事態だ。事態を収束させるための最終手段だと思っておる。勿論、そうならないように願ってはいる」

「そっ、それは私もです」


 アスランの言葉に、ルーカスは父親の顔を一瞬見せる。

 振り返り、護衛衆に顔を向ける。


「もし、余が国王を退いたとしても、アスランに仕えてくれるか?」

「勿論でございます!」


 護衛衆のロキサーニにセルテート、ステラは声を揃えて答えた。


「お主たちにも頼めるか?」

「もっ、勿論です」

「その通りです、国王様!」


 メントラたち大臣も、ルーカスの意を汲み取ったようだった。


「時間も無かろう。すぐに、民への説明を行う。準備をしてくれ」

「承知致しました‼」


 ルーカスの言葉で、部屋にいた者たちは国民たちへの説明する用意へと取り掛かった。

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