第782話 王都襲撃-4!

「冒険者タクトの従者シロと申します。グランドマスターのジラール様より、こちらで負傷者の治療を行うように言われております」


 左門に到着したシロは、ネラルトらしき人物に声を掛ける。


「ジラール殿より聞いております。大変、助かります。今、部下に案内させますので宜しくお願いします」

「はい、分かりました」


 ネラルトはシロを見て、思っていた人物像と違っていたので驚くが、それを表情に出すことは無かった。

 ランクSSS冒険者タクト、二つ名は『無職無双』。

 噂の多い以上に、謎が多い冒険者。という認識くらいしかないネラルトだった。

 本当に無職なのか? 魔法も体術も国でもトップクラスだとも聞く。

 それに、聖獣を従えているとも……。

 もしかしたら……とも思ったが、余計な詮索は今、必要が無い。



 シロが負傷者の治療をして、クロが戦闘している冒険者のサポートをしていた。

 二人の情報だと、魔物の数も殆ど倒れてそうだが、残った魔物の中にアンデッドがいることを確認出来たため、退却しているそうだ。

 紅月の効果が無い普通の状態でも、単体でランクB以上の魔物だ。

 多数いる状況なので当然、難易度も上がる。

 つまり、冒険者の危険度も上がるということだ。


「くそっ!」


 退却したくても出来ない冒険者は、魔物たちの戦闘をしていた。

 自分たちが退却すれば王都に魔物が攻め込むと思っている冒険者たちだ。

 騎士団たちには連絡が伝わっているが、一部の冒険者には伝わっていない。

 彼らは必死で、王都を守ろうと戦っていたのだ。


「もう、駄目か……」


 既に諦めて、死を覚悟する冒険者も出始めた。

 圧倒的な戦力差を引っくり返すことが出来ない現実。

 心が折れてしまったとしても仕方がない。


「大丈夫ですか?」


 諦めた瞬間に、目の前には戦場に似つかわしくない、執事のような服装の男性が立っていた。


「あんたは――」

「私はランクSSSの冒険者であるタクト様の従者クロと申します。タクト様が王都全体に結界を張られましたので、王都内に避難してください」

「……」


 助けられた冒険者は驚く。

 王都全体に結界魔法を施したこと。

 そして、ランクSSSの冒険者が、この戦いに参戦していること。

 しかし、希望を感じることは出来なかった。

 ランクSSSの冒険者が一人増えたところで、大きく変わる訳では無いからだ。


「ここは私が引き受けるますので、お仲間と共に退却してください」

「あんたは、どうするんだ! 一人では、どうしようも無いだろう」

「大丈夫です。私はタクト様の従者です。これくらいの数の魔物くらい、どうにかしなります」

「……」


 冒険者は言葉を失う。

 クロと名乗った男性は、強がりや嘘を言っていないと感じてはいた。

 しかし、その言葉の根拠がどこにあるのか、冒険者には分からなかった。


「さぁ、早く」

「あぁ……」


 促されるように仲間たちに声を掛けて、退却をする。

 退却する際に魔物からの攻撃が無い……。

 不思議に思い振り返ると、あの数の魔物相手に互角……いや、それ以上の戦闘を繰り広げていた。


「夢でも見ているのか……」


 装備も付けていない男性が、魔物を次々と倒して行く光景を見て、冒険者は呆気にとられていた。

 冒険者としては、平凡的な人生を歩んできた彼にとって、クロが魔物を倒す姿は、子供の頃に聞いた英雄の姿に重なっていた。

 忘れかけていた心に、なにかの火が灯った気がした。

 同時に、自分の限界を知った。


「おい! あれは何だ‼」


 一緒に退却していた冒険者の一人が正門の方を指差す。


「あれも魔物の仕業なのか――」

「いいえ、あれは我が主タクト様の攻撃です」

「えっ!」


 さっきまで魔物と戦っていたクロが、いつの間にか近くにいた。


「このままでは巻き込まれますね……仕方がありません」


 冒険者はクロの、この言葉を聞いてから記憶が途切れる。

 次に記憶があるのは何故か、王都で休憩している自分と仲間たちの姿だった。


「何が……」


 戸惑う冒険者たち。


「私が強制的に皆様を王都まで運びました。皆様の意思を確認せず、無断で申し訳御座いません」


 クロが謝罪をする。

 なにが起こったのか分からないのに、クロが謝罪をしたことで冒険者たちは戸惑っていた。


「では、私はこれで」


 クロは、そう言い残すと去っていった。


 クロが去ると、その場に残された冒険者たちは、クロと名乗った彼が冒険者だったのか? と疑問に思いながらも助かった喜びと、王都に結界が張られていたことを実感して安心していた。

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