第771話 特訓-2!

「師匠、急に動きが良くなったの~」


 アルのアドバイスで【神眼】を使い、ネロの魔力の流れを見ていた。

 動かそうとする部位に魔力が流れるので、より早く回避行動を取ることが出来た。

 ネロお得意の【操血】もバリエーションが幾つもあるが、魔力の流れで少しずつ分かるようになってきた。

 しかし、分かるだけで全ての攻撃が躱せるわけではない。

 こちらから攻撃を仕掛けようにも、仕掛ける隙が無い。

 完全に防戦一方だ。


「これで終わりなの~」


 ネロは指先に血で作った鋭く長い爪を俺の首に突き刺す。

 ……呼吸は出来ない。

 苦しさと痛みが俺を襲う。

 本当であれば死んでいるほどの攻撃なので、痛覚が何倍にもなっている感じがした。


「師匠も、まだまだなの~」


 呼吸を整えようとする俺に対して、ネロの呼吸は一切乱れていない。


「どれくらいの力で戦っていた?」

「ん~、半分の半分くらいなの~」


 四分の一くらい、つまり二十五パーセント程度ということだ。

 ネロにしてみれば、新しく覚えたスキルを試した程度なのだろう。


「次は妾の番じゃな」

「すぐかよ‼」

「なんじゃ、休憩が欲しかったのか?」

「いや、別に……いらないが」

「では、始めるぞ」


 いつにもまして、好戦的な印象を受ける。


「先手は譲ってやるぞ」


 構える訳でも無く、余裕の表情で「いつでも、どうぞ」とばかりに、俺の攻撃を待っていた。


「それじゃ、遠慮なく」


 俺は【神眼】でアルの魔力の流れを確認するが、特に変化が無い。

 つまり無防備に近い状態ということになる。

 とは言え、相手は第一柱魔王だ。油断は出来ない。


 俺は【神速】でアルに向かって距離を詰める。

 数メートル先で【分身】を使い、四方からアルを攻撃する。

 勿論、【神眼】で魔力の流れを確認しているので、変化があれば即、対応するつもりだ。

 しかし、俺たち四人が拳を繰り出してもアルの魔力に変化は無かった。

 いや、当たる瞬間に少しだけ流れの変化があっただけだった。

 俺たちが同時に繰り出した攻撃は、アルに当たることは無かった。

 同時だと言っても、コンマ何秒の誤差あり、最初の攻撃を手で受け止めると、そのまま俺の手を握ったまま、振り回して三方向からの攻撃を回避した。

 最初の攻撃が俺自身だったので、振り回された勢いでアルに握られていた方の腕の肘から下が千切れて、飛ばされた。

 アルとネロの二人と戦う時くらいしか、痛みを感じない。

 しかし、感じる痛みは死ぬほどに痛い。

 忘れていた感覚なので、腕や足が千切れるたびに精神が病んでいく感じがした。


「なんじゃ、タクトも貧弱じゃの」


 不満そうなアルは、千切れた腕を俺に投げつけた。

 多分、返却した気分なのだろう。


「いやいや、アルにしてもネロにしても強すぎるんだよ」


 負け惜しみのような台詞を吐くが、次の手が見つからない。


「来ぬのなら、妾からいくかの」


 笑みを浮かべると同時に、あらゆる方向からの打撃が俺の体に打ち込まれた。

 目で追える速さではない。

 俺が持っているスキル【神速】よりも格段に速く動いている。

 スキルに頼らない身体能力なのだろうか?

 抵抗も出来ずに、サンドバッグと化しながらも反撃の糸口を必死で探していた。

 ・

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 ・


「うわぁ‼」


 顔に掛けられた水で目を覚ます。


「だらしないの~」

「師匠、気絶したの~」


 アルとネロがあきれ顔で、俺を覗き込んでいた。


「……そうか、アルの攻撃を受けて、気を失ったんだな」

「まぁ、よく耐えておったと思うが、無駄に力が入っておる。以前にも話した力の流れを感じれば、お主はもっと強くなるぞ」


 楽しそうにアルは俺にアドバイスをくれる。

 ネロ同様に、アルがどれほどの力で戦っていたのか気になったが、ネロと同等の力を持っているのだから、本気を出していないのだろう。


「ふぅ~……じゃあ、ネロ。二回戦しようか」

「やった~なの~」


 ネロは飛び跳ねて喜ぶ。


「なんじゃ、お主……珍しく、やる気じゃのう」

「あぁ、強くなる必要があるからな」

「……第五柱魔王プルガリスか?」

「あぁ、あいつの強さは分からない。だからこそ、この世界最強のアルとネロに鍛えてもらえれば、俺もそれなりに強くなれる気がする」

「なるほどの……」


 アルは口元に手をやり、考えるように答える。


「以前に聞いたお主の話じゃと、プルガリスはクロと同じように影の中を行き来出来るんじゃったよな」

「あぁ、同じパーガトリークロウだからな」

「それなら、お主も影の世界へ行き来出来るスキルを、クロから手に入れたら良いじゃろうに。何故、そうせんのじゃ?」

「それは俺も考えた事はある。スキル習得の対価の問題もあるし、必要に迫られたらクロに相談する気ではいるつもりだ」

「そんなの先に習得すればいいじゃろうに……煮え切らん奴じゃ」


 欲しいものは、すぐにでも手に入れる。

 ある意味、アルらしい考えだ。


「まぁ、お主のことじゃ。それなりに考えてはおるだろうがな」

「さぁ、どうだろうな……」


 今はアルとネロに鍛えてもらうことだけしか頭になかった。

 少しでも強くなる。そう、それだけだ。


「師匠~、早くするの~」


 戦闘準備に入っているネロに急かされる。


「悪い。今、そっちに行く」

「せいぜい、殺されないように頑張るのじゃぞ」

「既に殺されているがな」

「確かに、そうじゃな。妾も楽しみに待っておるからの」

「出来るだけ長く戦えるように頑張るか……」


 頭で考えても仕方が無いので、考える前に体が動くように戦うつもりでネロの所へと、歩き始める。

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