第746話 呼称!
「しかし、なんでかな~」
「なにがでしょうか?」
俺は思っていたことを、無意識に口に出していた。
「クロはオットーに、なんて呼ばれていた?」
「確か、カッコいい兄ちゃんと、呼ばれておりました」
「だろう。シロは、可愛い嬢ちゃんと呼ばれていたよな」
「はい」
「俺は、兄ちゃんだけ呼ばれていた……」
俺のシロとクロは、励まそうと「カッコいいです!」や「素敵です!」など言ってくれる。
「別に僻んでいるとかじゃなくて、特徴が無いのかな~と思っただけだ。忘れてくれ」
確かにクロはカッコいいし、シロも可愛い。
だからこそ、俺が普通に呼ばれるのだろう。
別にそれが悪い訳では無いが……。
ヤステイの街でも、シロとクロを見て振り返る人たちが居る。
獣人族の割合が多いオーフェン帝国で、人間族の俺たちが珍しい訳では無い。
流石に【呪詛:服装感性の負評価】が無くなったので、普通だとは思うが並ぶと不釣り合いに見えるのかも知れない。
俺の心が狭くなったのだろうか?
「主。この後の予定はどういたしますか?」
「そうだな……ヤステイの街を一通り見てから考える」
「承知致しました」
ヤステイは商店が多く、活気に満ち溢れていた。
珍しい料理が無いかや、気になる道具などを見て回る。
露天に並んでいる物なので【鑑定眼】で確認をしていた。
並べられていた防具の中に【呪効果:俊敏性低減】という物もある。
店主は知っていて売っているのか気になった。
もしかしたら、【鑑定眼】のレベルが低い為、鑑定できていないのかも知れない。
そう思うと購入した者が気の毒に思えてくる。
歩いていると、冒険者ギルドの建物を発見する。
同じ建物に商業ギルドの印もある。
俺たちは建物に入ると、見かけない奴が来た! と注目を浴びる。
特に用事も無いので、建物内を見渡す。
冒険者ギルドと、商業ギルドのカウンターが別々になっているだけだ。
クエストボードは一つしかなく、冒険者ギルドのカウンターがある方に設置されていた。
どんなクエストがあるのかと見てみると、魔物の討伐が多い。
これは国に関係なく同じなのだろう。と感じながら眺める。
気になったのは、クエストの紙に『冒険者ギルド』や『商業ギルド』と書かれている事だった。
商業ギルドのクエストは、魔物の解体が多い。
どうやら、オーフェン帝国では魔物討伐までが冒険者ギルドの仕事で、解体などは商業ギルドと別れているようだ。
要するに冒険者ギルドは、危険な魔物討伐の依頼を受けてから冒険者に発注する。
その際に、魔物の死体を持ち帰って来れば、商業ギルドに買い取ってもらえる仕組みなのだろう。
建物内にあれば、余計な手間が掛からない。
この背景には冒険者ギルドと商業ギルドが共存しているという事が大きい。
エルドラード王国では一応、共存はしているがより仲良くなろうという感じではない。
魔物討伐の証明は
「なにか、お探しですか?」
クエストボードを見ていた俺に背後から話し掛けてくる。
振り返ると、兎人族の女性だった。見た感じ冒険者のようだ。
「あぁ、オーフェン帝国のクエストは、どのようなものがあるのか気になって見ていただけだ」
「というと、エルドラード王国かシャレーゼ国から来られたのですか?」
「あぁ、そうだ」
俺はエルドラード王国から来たと言おうとしたが、ヤステイに入る際にオットーが「シャレーゼ国から来た」と門番に話した事を思い出して、詳しい事を話すのを止めた。
「そうなんですか。最近は魔物の出現が高いから気を付けて下さいね」
「ありがとう」
「ここよりも中央広場が、この街一番の観光スポットになりますよ」
どうやら、俺たちを観光客だと勘違いしているようだ。
「……そうか、お勧めであれば行ってみようかな」
「是非!」
兎人族の女性は笑顔で去って行った。
俺たちは建物を出ると、勧められた中央広場へと歩く。
数分で中央広場に着く。
円形の花壇。中央には発光石が埋められた猫のモニュメントが飾られていた。
「シロ、あれって……」
「はい。フェンです」
オーフェン帝国の象徴でもあるケット・シーのフェンの像だが、かなり美化されている。
一般人には、そうそうお目に掛からないので問題無いという事なのだろうか?
しかし、これがこの街一番の観光スポットとは……。
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