第681話 心残り!
シャレーゼ国から戻った俺は、王都にある冒険者ギルド本部に顔を出す。
グランドマスターのジラールとの話し合いだ。
話し合いと言っても、俺への指名クエストの内容を伝えるだけだ。
しかも、俺は既にその内容を知っている。
シロとクロにも人型で同席して貰っている。
「悪いな」
グラマスの部屋で待っていると、サブマスのヘレンを連れてジラールが現れた。
「早速だが、国王様からの指名クエストになる」
そう言って、クエスト内容が見えないように文字を下にして机の上に置いた。
「オーフェン帝国で開催される武闘会。そこで行われる優勝者との親善試合だよな」
俺の言葉に、ジラールとヘレンは驚く。
「国王様に聞いたのか?」
「いいや。俺の情報網から仕入れた情報だ」
「そうか……そういう事なら、話は早いな」
ジラールは文字が書かれている方が見えるように、机の上の紙を反対にする。
「お前の言う通り、親善試合の参加が二つ目の依頼だ」
「二つ目?」
「あぁ、もう一つは第一王女ユキノ様の護衛になる」
「……どうして、王女様がオーフェン帝国へ?」
俺はオーフェン帝国の王子であるスタリオンが、ユキノに求婚をしているのではないかと、頭を過ぎった。
「それが良く分からないんだが、どうしても同行させて欲しいと国王様に頼み込んだらしい」
俺がプロポーズをした場所だからか?
しかし、俺との記憶は消されているはずだ……。
「それは分かったが、どうして俺が護衛なんだ? 試合に出ている間は護衛が出来ないぞ」
「試合中は護衛衆と一緒に居るから問題ない。それ以外の時に別行動をする可能性があるので、補助的な意味も含めた護衛だと聞いている」
「人は多い方がいいと言う訳か……」
「それも腕が立つなら尚更な!」
「分かった。二つ共受けよう」
「そうか。俺としても面目が立つので安心した」
ジラールは肩の荷が下りたのか、安堵の表情を浮かべていた。
「この事は伝えに行くのか?」
「そうだな。早い方が良いので、すぐに連絡をするが、お前も一緒に来るか?」
「あぁ、同行させてくれ」
とりあえず、スタリオンがユキノに求婚していないかの確認はしておきたい。
それと城には別の用事もあるので、好都合だ。
「今日は難しいそうだ。明日の朝一であれば都合が付くそうだが、大丈夫か?」
「あぁ、問題無い」
明日の朝、ジラールと城の前で待ち合わせする事にして、ギルド本部を去る。
ギルド会館を出て王都を散歩する。
「御主人様。フェンに確認致しましょうか?」
「そうだな。スタリオンがユキノに好意を持っているかは気になるが、シロはフェン苦手だろう?」
「そうですが……ユキノ様との事で、御主人様が悩まれるのは、もっと嫌ですから」
「……ありがとうな」
「いえ、これくらいは従者として当たり前です。ちょっと、行って参ります」
「気をつけてな」
シロはスタリオンの事をフェンから聞き出す為、オーフェン帝国へと移動した。
「では、私は例の件を」
「例の件?」
「はい。明日、主が城で確認しようとしている別件について調べて参ります」
「……気が効くな。情報は共有出来ているから問題無いよな?」
「はい、勿論です」
「クロも気をつけてな」
「有難う御座います」
クロも通行人に気付かれないように移動して、影の中へと姿を消した。
本当に俺が指示をしなくても、自主的に行動してくれるので有り難い。
しかも、俺の気持ちまで汲み取ってくれている。
シロとクロが居なければ、寂しいボッチの冒険者だったかも知れない。
改めて、シロとクロに感謝する。
街をブラブラしていると、向こうから知った顔が歩いて来た。
治療院を営んでいるエンヤと、弟子入りした元孤児院のプレセアとティオの三人だ。
俺は声を掛けようと右手を上げようとする。
途中で俺の事を忘れている事に気付く。
途中まで上げた手をそのままにして、俺は立ち止まっていた。
俺を見る事無く三人は、俺の横を素通りして行った。
分かってはいた事だ。
しかも、覚悟も決めた筈だった。
知り合いに無視される気分に慣れる事は無いのだと、痛感する。
楽しそうに買い物をする人々を見ながら、「そういえば通貨の問題も保留だったな」と思い出す。
金貨の持ち運びが苦労している問題があるので、通貨の見直しをすると言う話をした事があった。
商人ギルド等の反対もあり、新しい通貨を作る事が難航していた。
今は、どうなっているのだろう。
俺は関わっていない事になっているので、何も出来ない。
途中で投げ出すみたいで嫌だが、仕方の無い事だ……。
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