第597話 前夜祭-9!

「素晴らしい技術だ」


 四葉商会の贈呈品紹介が終わると、ルーカスから誉め言葉を貰う。

 そして、ルーカスは退室の際に嘘発見器に触って退室する事を命じた。

 タルイで起きた人を人と思わぬ行為を悲しげに話す。

 祝いの席で話す内容では無いが、残虐行為で国民が苦しんでいる事件を知ってもらう必要があると説明する。

 事件の内容は、グランド通信社等の情報を扱う商社から、各領地には伝わっているので、領主達も事件の事は知っている。

 ルーカスがこの場で、事件の事を口にした事は領主達に強い印象を与えた。


 ルーカスの話が終わると、俺達は退場してヘレフォード達がいる所に戻る。

 シーバとローラが、いきなり俺とマリーに凄い勢いで話し始める。

 当然、今紹介した贈呈品についてだ。

 あとで詳しく教えると言う事と、王都研究所には別で面白い物を用意している事を伝えると、すぐに魔法研究所に戻ろうと言う。

 俺とマリーで、この前夜祭が終わってからだと、何とか説得する。

 ヘレフォードとアンガスも俺達が贈呈した品に驚いていた。

 特に合羽については、出版物が濡れる事を嫌うグランド通信社には、とても良い品になる。

 数多くは出来ないが、幾つかの鞄や布があれば高額になるが対応出来るかも知れない事を伝えると、大喜びする。


「あの~宜しいでしょうか?」


 腰の低い初老の狸人族が俺達に声を掛けてきた。

 後には中肉中背で、顔の汗を布で拭っている狸人族も居る。


「これは、ムジナーニャ殿。先程は素晴らしい品でしたな」

「何を仰いますか。御社の方こそ、冒険者だけでなく領主様達にも有効活用出来る書物では御座いませんか」 


 マリーは、このムジナーニャと呼ばれている狸人族が誰か知っているようだった。

 いや、知らないのは俺だけのような気もする。

 ムジナーニャは俺に気が付くと、低姿勢で挨拶をして来た。


「お初にお目に掛かります。私、ジョウセイ社代表をしておりますムジナーニャと申します。隣に居りますのが副代表のウスリータと申します」


 ムジナーニャの言葉で、ウスリータも頭を下げて挨拶をする。


「私は四葉商会副代表を務めさせて頂いておりますマリーと申します。こちらが弊社代表のタクトです」


 俺が言葉を発する前に、マリーが挨拶を返した。


「ジョウセイ社のような大手様が、弊社のような小さな所に何か?」


 ムジナーニャは、ヘレフォードが居る事を承知で合羽の技術提供もしくは、グランド通信社と同じように水を弾く鞄や布を売って欲しいという事だった。

 用途はグランド通信社と同じ出版物を水から守る為だ。

 それと同時に、ジョウセイ社は作物等の運搬もしている為、水に弱い品の運搬に使いたいと正直に話した。


「当然、四葉商会様がグランド通信社様と業務提携している事は存じております」


 実際、業務提携といっても全てでは無い。

 新しい事等は優先的にグランド通信社に話はしているので、グランド通信社とは蜜月な関係だと思われている事は確かだ。


「タクト様。この合羽という品につきましてはジョウセイ社様へ卸して頂いても結構です」


 ヘレフォードが意外な事を口にする。


「出版物等が濡れて商品にならない苦しさは我々もよく分かります。なにより、ジョウセイ社様の出版物を待ち望んでいる人達へ、提供出来ない事は申し訳無いです」


 ヘレフォードは、自分達の利益より人々の為だと言う事を話す。

 俺達の話を聞いていた領主達も、ヘレフォードの考えが素晴らしいと思ったに違いない。

 ヘレフォードの評判が上がれば、グランド通信社の評判も必然的に上がる。

 つまり、業績にも影響するという事だ。

 ヘレフォードが何処まで計算で行動しているのかは分からない

 ユニークスキル【人望】の効果なのだろうか。


 マリーが俺を見ることなく、ヘレフォードとムジナーニャに対して、別の場で話し合う事を提案する。

 二人共が、マリーの提案を受け入れる。

 日時の候補日は、ヘレフォードからマリーと、ムジナーニャに伝えられる。

 マリーの後姿を見ながら、頼もしいと思う。




 メントラ大臣が護衛衆からカルアが抜ける事と、新しい護衛衆に三獣士が就任して、今後は護衛衆と言う名で国王達王族を護衛する事になる事を発表する。

 今迄、護衛衆や護衛三人衆と曖昧な表現だったのを護衛衆に統一する事も伝える。

 そして、三獣士の任を引継ぐ者として名前を呼ぶと、呼ばれた者が登場する。

 リーダーのカーディフにジョイナス。それにナイルとコスカ。

 四人は『華撃隊』と名乗るそうだ。

 俺が言えた事では無いが、もっと良い名前があっただろうと思う。

 それに名前に人数となる数字を入れなかったのは、気になったので後で聞く事にする。


 これでカルアが護衛の任を正式に解かれるので、ゴンド村に住む事になる。

 ……護衛の任を解かれる!

 今迄、王妃であるイースや、ルンデンブルク領主夫人のミラがブライダル・リーフを訪れる際に護衛として着いて来ていたが、護衛の任を解かれるという事は護衛が居なくなるという事だ。

 もしかしたら、ステラに引き継いでいるのかも知れないが、確認する必要がある。

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