第571話 悪代官と悪徳商人!

 どうやら、エランノットとノゲイラが良好な関係だと思っていたのは、俺の勘違いのようだった。

 領主であるエランノットは、自分よりも影響力が大きいノゲイラの事を良く思っていないようだった。

 普通に考えれば、領地を治めている領主が一番偉い。

 それをいち商人であるノゲイラが同等もしくは、それ以上の力を持っているのであれば領主であるエランノットとしては面白くないのは理解出来る。


 エランノットは護衛と別れて一人になる。

 首元の釦を外すと、大きな溜息をつく。


「ノゲイラもそうだが、父上も早くどうにかしないと……」


 右手の親指の爪を齧りながら、苛立っていた。

 俺の聞いた話だと、前領主であるエランノットの父親から、領主を引継いだと思っていたが、実情は違っているようだ。


「ザボーグを呼べ」


 エランノットは、冒険者ギルドのギルドマスターであるザボーグを呼ぶよう、部下に命令する。

 時折、笑みを浮かべながらエランノットは歩き続けた。


 俺はエランノットの後ろを着きながら、闘技場に居るクロに連絡をする。

 奴隷にされた者達を王都に送り届けてから、別の事をクロには頼んでいた。

 それは、今回の殺戮を写真に収める事だった。

 勿論、歓喜している者達の顔は鮮明に撮影している筈だ。


「主と判別は着かないかと思いますが、殺戮及び歓喜している観客は撮影出来ていると思います」


 現像してみないと分からないが、クロの言葉に疑いは無かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「遅くなりました」


 一人の男がエランノットの控室に入って来た。

 この男がザボーグなのだろう。


「朗報だ。ノゲイラを戦わせる事にした」

「えっ! ノゲイラをですか?」

「あぁ、ノゲイラは奴隷同士の戦いだと思っているが、私がそんな事をさせるわけないだろう」

「と言いますと?」

「魔獣と戦わせるに決まっているだろう。ただでさえ、今回はノゲイラのせいで奴隷が不足しているのに、貴重な奴隷をノゲイラの相手にするような、勿体無い事などはしない」


 会話から案の定、エランノットもクズだと分かった。

 ノゲイラと似た者同士だ。


「しかし、ノゲイラでしか魔獣は扱えませんが?」

「それについては、私に考えがある」


 魔獣を操れるのはノゲイラだけという事は、なにかしらのユニークスキルか、魔道具を所持しているのだろう。

 魔道具であれば、ソニックタイガー戦の時に触っていた手首に着いていた輪だろう。

 エランノットの言葉から、それを奪えば魔獣達は制御出来なくなるという事になる。

 俺はそれを奪う事を決める。

 【全知全能】に質問をすると、その魔道具は『調教の腕輪』という物で、調教の腕輪で触れば、その対象を奴隷する事が出来る。

 ただし、対象は魔族限定になる。

 これがあれば、あらゆる魔獣を従わせる事が出来ると思うのだが……。

 どうやら、調教するのには人族の命を捧げる必要があるそうだ。

 より強力な魔獣を従わせるためには、それなりの命を捧げる必要がある。

 ノゲイラが冒険者から、奴隷商人になったのは、この調教の腕輪を手に入れたからかも知れない。

 こんな物を製作する事が出来る者に心当たりがあるので、製作者とこの世界に現存する数を聞くと、製作者はロッソで、数は一つと答えた。

 魔族であり、第三柱魔王でもあるロッソが何故、この様な魔道具を製作したかは気になったが今度、会った時にでも聞けば教えてくれるだろう。


「それで、私を呼ばれた理由は?」

「あぁ、ノゲイラの代わりに進行役を頼む」

「そういう事でしたか」


 エランノットはザボーグに、先程までノゲイラが行っていた進行役を引継がせるつもりのようだ。


「それと、ノゲイラが暴れない様に、冒険者を数人こちらに寄こしてくれ」

「簡単な事です。力でいえばノゲイラより強い者ばかりですから」


 二人共、悪そうな顔をしていた。

 時代劇の悪代官と悪徳商人を思い出す。

 俺はどの世界、どの時代でもこのような者達は居るのだと呆れていた。

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