第527話 聖誕祭の招待状!

「お待たせ!」


 フランが手を振りながら俺達の所まで走ってきた。

 マリーはゆっくりと自分のペースで歩いてくる。

 先程、会話をした時には気が付かなかったが、元気なフランとは対照的にマリーは疲れた表情をしていた。


「お疲れのようだな」

「えぇ、とても疲れたわよ」


 俺はマリーに労いの言葉を掛けると、マリーは目を瞑って顔を左右に振って溜息を付く。

 詳しい報告は後で聞くとして、王都に用事は無いかを再度確認するが、一刻も早く帰って休みたい感じを出していた。


「一旦、家に戻るか」

「やっと、ゆっくり寝れる」


 フランが大きく背伸びをする。

 グランド通信社の用意した宿では、ゆっくり寝れなかったのだろうか?


「ちょっと待って。タクト今、一旦って言ったわよね?」


 流石はマリーだ。

 俺の言葉を良く聞いている。


「フランには一度、ゴンド村に帰郷して貰う」

「えっ?」

「ジークに来てから一度も、ゴンド村に帰っていないだろう」

「まぁ、色々と忙しかったしね……」

「手紙も書いていないだろう。フランの両親が心配していたぞ」

「えっ!」


 フランは驚いていたが、両親と聞いて俺がフランの両親から、帰郷を促されたと思ったのだろう。

 勘違いをされる前に、フランの誤解を解いておく。

 フランの帰郷については俺の判断で、フランの両親から何か言われたわけでもない。

 俺は言葉を選びながら、親が生きているのが当たり前だと思わずに、出来るだけ安心させるようにした方が良いと、フランに言ってみる。

 マリーも、両親が健在なら顔を見せるくらいはした方が良いと俺の意見に賛成してくれた。

 マリーは立場を自分に置き換えた上で、フランに意見したのだろう。


「そうね。二人の言う事も分かるし、親を安心させるのも子供の務めだものね」

「ありがとうな。まぁ、疲れているだろうから、休んでからで良いからな」

「大丈夫よ。休むと今度は動くのが億劫になるから、直ぐで良いわよ」

「分かった」


 フランの話を終えると、人目が付かない場所まで歩く。

 歩きながらマリーには、イリアとエイジンの事を話す。

 マリーは一応賛成してくれたが、実際問題として目が届かない事を心配していた。

 代表としての意見だ。

 俺もそこまでマリーに負担を掛ける事は考えていないので後日、正式にエイジン達と事業形態について話し合うつもりでいる事を伝える。


「そういえば、トグルたちの事は聞いているのか?」

「えぇ、一応ね」

「一気に四人も居なくなると寂しくなるな」

「そうね。それぞれの人生だから、私がどうこう言う事でもないしね」


 マリーなりに、トグルとリベラの事を思って言っているのだろう。


「そういえば!」


 マリーは何かを思い出したようで、俺に今回の報告の一部をする。

 国王であるルーカスの聖誕祭の夜に城でパーティーを行うらしいが、それに四葉商会も出席するようにと、グランド通信社から依頼があったそうだ。


「なんで、国王からでなくグランド通信社なんだ?」

「招待客へ連絡する仕事をグランド通信社が請け負ったらしいのよ。はい、これ」


 マリーは鞄から招待状を俺に手渡す。


「ユキノは知っていたのか?」

「いいえ。しかし、四葉商会様の国への貢献度は素晴らしい物です。招待するのは当たり前の事だと思います」


 ルーカス達とは、先程まで一緒に居たのに、何も教えてくれなかったのに疑問は残る。


「正式に四葉商会を紹介する場になると思うので、私とタクトは必ず出席するようにと言われたわよ」

「仕方ないな。二人だけでよいのか?」

「護衛を付けても良いらしいわよ。まぁ、タクトが居れば不要でしょうがね」

「フランは行かなくて良いのか?」

「絶対に行きません」


 接待には向いていないので、写真や報道関係以外の仕事は断るようだ。


「誰か他に連れて行きたいのは、居るか?」

「そうね……。エイジンさんかイリアさんね」


 確かにあの二人であれば、インパクトは大きいだろう。

 四葉商会とグランド通信社の蜜月関係もアピール出来る。

 しかし……。


「あの二人は、今回見送って二人だけにしておくか」

「何か別のことを考えているの?」

「いや。二人を連れて行って、事業の事を聞かれたりしても、事業が軌道に乗っていないのでかえって悪いと思ってな」

「確かにそうね。嫌だけどタクトと二人って事ね」

「嫌って……」

「タクトと一緒だと、絶対に問題に巻き込まれるからよ」

「確かにそうよね」


 怪訝な顔をするマリーの横で、フランが笑いながら同意する。


「そうだ! シロとクロを護衛として一緒に行くとしよう」

「それは良い考えね!」


 シロとクロが居れば、俺がマリーと離れてもマリーの身の安全は確保出来る。


「そうと決まれば、豪華な衣装を作れよ」

「……聖誕祭用のドレスを作れって事?」

「そういう事だ。四葉商会の名に恥じぬようにな」

「分かったわよ。それでタクトも作るんでしょうね?」

「いや、俺はこれだ」


 マリーは呆れた顔をしていた。

 自分衣装を作らせて、本人の俺は冒険者の服では行っている事に矛盾があるそうだ。

 確かに、その通りなので俺も衣装を新調する事にする。

 ついでにシロとクロにも、服を新調する事にする。

 シロやクロ達の【変化】は服込みでも可能だが、今回は服を着てもらう事にした。

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