第482話 処分!

 暫くしてゾリアスが、クラツクを連れて戻って来た。

 俺が木像を出したのを、遠くから見ていた様子だった。


「これもタクトさんが彫られたのですか?」


 クラツクは尊敬する眼差しで俺を見つめていた。


「まぁ、そこら辺は色々とあって詳しくは言えない」


 言葉を濁しながら、クラツクに答える。

 クラツクが彫った木像も出来は悪くない。


「実は、これを新しく祀るので今迄、祀ってあったこれらをクラツクに貰って欲しいと思ってな」

「えっ!」


 当たり前だがクラツクは驚いてる。

 今迄、神と崇めていた木像を貰ってくれと言われれば、誰だって戸惑うだろう。


「申し出は有難いのですが……」


 やはり、迷惑のようだ。

 クラツクは、部屋の大きさや神の化身である木像を置く事に抵抗があるようだった。


「そうか。まぁ、仕方が無いな。それよりも、生活は成り立っているのか?」


 個人的に、木像を見る度にクラツクが生活出来ているのかが気になっていた。

 彫るだけでも数日必要になる。

 材料は、森から伐るとしても決して儲かる仕事では無いだろう。

 最近は、評判が良い為、入荷次第売り切れや、予約したい者達まで居るとマリーに聞いている。


「まぁ、それなりに……」

「作業的に困っている事があるのか?」

「いえ、それはありません。僕自身が、納得出来る物が彫れない事もあります」


 以前に言った俺の言葉が、足枷になっているのかも知れない。

 商売として考えれば、多少納得出来ない物でも出荷するべきだろう。


「生活出来ないのであれば、納得出来ない物でも良いぞ」

「それは駄目です。納得出来ない物を世に出しては、僕よりタクトさん達に迷惑が掛かります!」

「クラツクも立派な職人だな」


 若干、怒り気味のクラツクに、ゾリアスが笑う。


「そうだな、クラツクも職人だから納得の出来ない物は出せないよな。悪かった」


 クラツクのプライドを傷つけたと思い、俺はクラツクに謝罪する。


「そんな、僕は当たり前の事を言っただけです」


 俺の謝罪に、クラツクは慌てていた。


「トブレさん達ドワーフ族の仕事ぶりを見ていると、いかに自分が甘い考えなのかを思い知らされましたし……」

「トブレは妥協を許さないからな。あいつこそ、職人の鑑だろう」

「はい。道具もトブレさんに新調して貰いました」

「そうなのか?」

「僕の道具では、良い物が彫れないだろうと作ってくれました」

「トブレと交流があったのか?」

「いえ、お互い作業をしているので顔を合わせる位でしたが突然、話し掛けられて道具を貰いました」

「同じ職人として、放っておけなかったのかもな」

「本当にありがたかったです。材料も家を建てる木材を分けて貰っていますし、助けて貰ってばかりです」

「……木材の調達は、誰がやっているんだ?」


 一瞬、アルとネロが勝手に森から調達しているのではないかと勘繰る。


「タクト、安心しろ。伐採は村の者主導で、アルシオーネ殿やネロ殿に運搬を協力して貰っている」

「そうか」


 まぁ、アルとネロが勝手に伐採していたら、森の管理者であるリラが文句を言ってくるだろう。


「森に入る前の祈りも、きちんとしてくれるし問題無い」


 俺が思っている以上に、アルとネロは村と良好な関係を築けているようだ。


「トブレ達がこの村に移住してくるので、何か困った事があれば相談に乗って貰え」

「本当ですか! それでどの辺りに住まわれるのですか」


 クラツクは嬉しそうに質問をしてくる。

 場所はゾリアスに一存しているので、ゾリアスが「決まっていない」とだけ答える。


「出来れば、僕の家もトブレさん達の近くにして頂く事は可能ですか?」

「それは構わないが、森からは遠い場所になるかも知れないぞ」


 ドワーフ族は火を使ったりするので、出来る限り森から遠い場所にしたい構想が、ゾリアスにはあるのだろう。


「構いません。分野は違えど、トブレさん達の近くで製作したいです」

「分かった。考えておく」

「ありがとうございます」


 お互いに、切磋琢磨して貰えるだろう。

 とりあえず、エリーヌの木像はジークにある店に飾るが、問題はリラの木像だ。


 森に関係する場所で無ければ、需要が無い。

 最悪、森の中にでも置くという選択肢もある。

 その場合、誰かが木像の世話をするとすれば、魔物や野獣に襲われる危険もあるので、世話をする事は考える必要がある。

 罰が当たるかも知れないが、前世の粗大ゴミの処分をする事に似ている。

 仕方が無いので、一時的にエリーヌの木像の横に樹精霊ドライアドのリラやオリヴィアの木像を並べる事にする。

 又、マリーに文句を言われるだろうが、置き場所が無いので仕方が無い。

 マネキンのように服を着せられるようになっていないので、本当に飾りになるだろう。

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