第426話 理解不能!

 昼から、魔人化の件で会談が始まった。

 俺も参考人と言う事で、会談に参加した。

 現状証拠と、罪人である魔人化した獣人全員を大広間に連れてきて、尋問をする。

 俺が【真偽制裁】を使った尋問をすると、尋問される罪人達や、トレディア達オーフェン帝国の者は驚く。

 全ての尋問が終わると罪人達の【真偽制裁】を解き、【神の癒し】で傷を治す。

 そのまま、罪人達を牢獄に戻してもらう。

 全員の尋問が終わると、【真偽制裁】の際に血で汚れた床を【浄化】で綺麗にした。


 俺の一連の流れに、誰も口を出す事が無く、固唾を呑んで見ているだけだった。


「終わったから、部屋を移動するか」


 オーフェン帝国の者達は、何か質問したい様子だった。

 鑑定士のコルサは、俺のステータスを覗こうとして、何度も失敗しているとターセルから聞いている。

 俺のステータスや今、使用したユニークスキル等を聞きたいのは、なんとなくだが分かっていた。

 今迄の経緯も含めて、俺が恐怖の対象になっていることは実感している。

 敢えて、馴れ合うつもりも無いので、俺自身オーフェン帝国との関係は、今のままでも良いと思っている。


 部屋を移動して、先程罪人達から聞きだした事を整理した。

 黒い玉は、帝都の酒場で手に入れた。

 最初は小さい玉で、力が溢れるのが実感出来たようで、何かあれば黒い玉を飲めば今以上の力を得る事が出来ると言われたらしい。

 黒い玉をくれた者の名前も聞いておらず、なにより少量の金貨で譲って貰えた事で、より信憑性が増したようだ。

 確かに、無料であれば逆に怪しむだろう。

 闘技場で、俺にデコピンで倒された後の記憶は無く、気が付いたら闘技場で倒れて居たと言う。

 事情が分からないまま、牢獄に入っていたので罪人達も困惑していた。

 罪の意識が無かったのだろう。


 オーフェン帝国では、自分の力以外のものに頼る事は禁じている。

 それを知った上で、魔素を取り込んだのだとしたら、明らかにオーフェン帝国の法に違反した事になる。

 ガルプツーから「これくらいなら問題無いだろう」と言われて購入したので、軽い気持ちで手を出したのだろうと思う。

 問題は、他にも黒い玉を持っている者が居ると言うことだ。

 俺は【魔力探知地図】で、帝都内に黒い玉の反応を幾つか確認している。

 範囲が広がれば、もっと反応があるかも知れない。

 俺はその事を、トレディア達に告げるが俺以外では見つける事は困難だ。

 仕方が無いので、少し時間を貰い帝都の街を回り、街全体での反応を確認すると全部で六箇所反応があったので、黒い玉を所持している者達を全て捕まえて、トレディア達の居る城に連行した。


「これが、その黒い玉だ」


 俺は回収した黒い玉を机の上に並べる。

 一応、触るなとだけ忠告はする。


「我が国に、こんな危険な者が出回っていたとは……」


 思っていた以上の事態に、トレディアは驚くのと同時に、残念そうな顔をする。

 国民がこのような物に手を出した事が、信じられないのだろう。


 俺は、黒い玉の一つを【神の癒し】で魔素を取り除いた。

 魔人化した獣人達から、魔素を取り除いた方法と同じだと説明をする。


「これは、職業スキルか? それとも、ユニークスキルなのか?」

「ユニークスキルになります。タクト殿は無職ですが、あらゆる職業スキルを習得出来ます」


 ターセルが俺の代わりに、トレディアに回答してくれた。

 いざと言う時に、ターセルに発言の許可を与えているルーカスは優秀だと感じる。

 部下が優秀であれば、上司は座っているだけで株が上がるのを知っているのだろう。


「……無職だと」

「はい、無職です。ただし、タクト殿の場合、普通の無職ではありません。そうですね……無職無双ですかね」


 無職無双。

 あまり、嬉しくない表現だ。

 そもそも、この世界に『無双』という言葉が存在する事に驚く。

 本当は違う言葉だろうが【言語解読】で変換したのだと思うが……。


「その、不躾な頼みだと承知した上で、敢えて頼みたいのだが、ステータスを閲覧させて貰えないだろうか?」


 トレディアが、俺のステータスを見たいと言う。

 俺はターセルに【念話】を使い、問題ないかの確認を取る。

 『魔王』の称号は【隠蔽】で見えない事は間違いない。

 他のステータスも、特に問題になるものは無いと教えてくれた。

 一応、ユニークスキルは全て【隠蔽】しておく。

 聖女関係の情報や、厄介事に巻き込まれる事を防ぐ為だ。


「国王が良いと言うなら、俺は問題無いぞ」


 ルーカスに確認をする。

 皇帝から頼まれて、拒否する事は俺には出来ない。

 ただし、俺はエルドラード王国を生活の基盤にしているので、所属と言う表現は違うがルーカスの承諾は必要だと思っている。


「トレディア殿達に、見せてやってくれ」

「分かった」


 俺はステータスを開示する。

 表記レベルは最高値の百だが、実際は百三十六になる。

 先のスタリオンやフェンとの戦いでもレベルは上がっている。


「レベルが最高値……」


 トレディアは絶句していた。

 正確には、俺のステータスを見たターセル以外全員だ。

 エルドラード王国の者達は、俺がユニークスキルを隠している事に気が付いていた。


「確かに、これであればクラーケンも、単独で討伐が可能かも知れんな」


 トレディアが呟く横で、スタリオンが改めて、自分が勝負を仕掛けた相手が化け物だという事を実感したようだ。

 ただし、フェンは俺のユニークスキルが一つも無い事に疑問を持っているかのようだった。

 何か言ったところで、俺がユニークスキルを開示するとは考えていないので、何も言わないのだろう。


「もういいか?」

「あぁ、感謝する」


 トレディアから礼を言われる。


「ルーカス殿。このような逸材を何故、いち冒険者にされていたのですか?」

「それは、タクト本人が嫌がっているからですぞ」

「しかし、今後は王族として、それなりの地位を受取るので心強いですな。本当に羨ましい」

「その事ですが、ユキノは王位継承権を辞退して、平民になる事を選んでおります」

「なんですと! ルーカス殿はそれで、良いのですか?」

「まぁ、前例はありませんが、本人の選んだ事を尊重しようと思っております」


 トレディアや、オーフェン帝国の者達には信じられない出来事なのだろう。

 王族という地位を捨て、冒険者である平民の俺の嫁ぐ事は、それほど異常な出来事だ。


「まぁ、タクトは冒険者だけでなく、我が国で商人もしておりますし、研究施設にも協力して貰っているので、平民ですが貴族以上の力を持っている事は間違い無いのですぞ」

「はぁ、そうなのですか……」


 トレディアや、オーフェン帝国の者達にすれば、簡単に地位を捨てたユキノと、王族になりたがらない俺が、最後まで理解出来ないようだった。

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