第392話 聖眼!

 トグルを連れて城に戻る。

 アスランは、既に用意が出来ていたのか、待っていてくれた。

 ここに来る途中で、トグルには大まかな話をしたが「アスラン様に戦い方を見せるとは畏れ多い!」と言っていた。

 シロを呼んで、皆にクエストの説明をする。


「おい、聞いていた話と違うのは気のせいか?」

「あぁ、色々とあってこうなった。トグルがランクAになっていないのも原因だから、早く昇級しろよ」

「ん、なぁ!」


 何か言おうとしたが、アスランとユキノが居るのか自粛したようだ。


「じゃあ、最初はレッドキャップ討伐に行くか」

「ちょっと待て、レッドキャプは夜にしか姿を現さないんだぞ」

「あぁ、知っているぞ。姿を隠しているなら、その場所を見つけて倒せばいいんだろう」

「……確かにそうだが」

「まぁ、とりあえず移動するぞ」


 【転移】を使い、レッドキャップの居る研究施設跡地に移動する。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 以前に来た時と大きく変わってはいなかった。

 暫く歩くと、ひとりの男性を発見する。此処の調査をしている者だろう。


「冒険者の方々ですか!」

「あぁ、レッドキャップ討伐に来た」

「思っていたよりも早いですね。本当に助かります……アスラン王子にユキノ王女では、ありませんか!」


 俺達が来た事で、安堵の表情を浮かべていたがアスラン達に気が付くと、緊張して直立不動になる。

 アスランが、御忍びでの討伐だというが全く動けないでいる。

 何事かと他の者も集まって来るが皆、アスランとユキノに気が付くと屈んで頭を下げる。

 どうやら調査していたのは、王国の衛兵らしい。


「頭を上げて下さい。このような地での調査、大変だと思いますが引き続き、宜しく御願い致します」


 アスランが礼を言うと皆、再度頭を下げた。


「御怪我されていますね」


 ユキノが、腕に怪我をしている衛兵に気が付くと、自慢げに【治療】を施す。

 俺の真似なのか、手を翳すだけで怪我が治る。

 その後も次々と、怪我人の治療をしていく。


「……ユキノに、あのような力があったとは」


 アスランも驚いていた。

 既にイースには話していたが、アスランに隠しておく必要も無いので、ユキノが『聖女』の称号を取得した事を伝える。


「ユキノがですか!」

「あぁ、俺のせいだ。すまない」

「いえいえ、感謝こそあれ謝る必要等ありません。伝説の聖女が、私の妹だとは誇らしいです」

「その分、厄介な事件に巻き込まれるかも知れないんだぞ」

「それはタクトが、ユキノを守ってくれるのでしょう」

「それは、当たり前だが……」


 しかし、ユキノが【治療】を施した衛兵達は皆、嬉しそうにしている。

 これも聖女の力の一つなのだろうか?

 只、治療をするだけでなく、癒しの効果で笑顔まで取り戻す事は、俺には出来ない。


 俺は衛兵達にレッドキャップを討伐しに行く事を伝えると、案の定「昼間ですよ?」という答えが返って来た。

 不安そうにしているので「任せておけ!」と隣に居たトグルの胸を叩く。

 『漆黒の魔剣士』は有名になっているのか、歓声が上がる。

 トグルは恥ずかしそうにしているかと思ったが、気にせずに平然としていた。

 昔なら、あたふたしていたトグルだったが、メンタルも大分成長したみたいだ。

 多少なりとも、リベラの影響もあるのだろう。


 トグルとパーティー登録をして俺は【魔力探知地図】を使い、レッドキャップが潜んでいる場所の特定をする。

 衛兵達には「ここからは危険だから進入禁止だ」と施設内の調査を一旦、打ち切って貰う。


「今回はトグルが主体だから、俺はレッドキャップを見つけたら見学しているからな」

「分かった。どうせ、お前の事だから俺が危なくなったら、手を出すんだろう?」

「トグルの実力なら、俺の出番は無いから安心しろ」


 ユキノは初めてこういう場所に来たのか、俺の上着を握って離れようとしない。


「怖いか?」

「……はい」

「怖いのも分かるが、周りの状況を見てくれ。この場所で、いかに酷い事が行われていたかを、知って欲しい」

「はい」


 ユキノには、辛い経験だろうが今後の為にも見ておいて欲しい。


「タクトの言う通り、年月は経っているとはいえ酷い事をしていた形跡が多々ありますね」


 アスランは、冷静に周りを見ていた。

 

「トグル、止まってくれ。右の部屋にレッドキャップが居る」


 俺の言葉で、トグルは戦闘態勢に入る。

 トグルが扉を開けるが、何も居ない。


「トグル、来るぞ!」

「っ!」


 辛うじて斬撃を持っていたムラマサで弾く。

 レッドキャップは、姿が見えないようにしている。


 アスランとユキノに【結界】を張り、シロを横に付けて安全な状態で、トグルの討伐を観戦出来るようにする。


「……タクト様、トグル様はどうして、避けてばかりなのですか?」

「それは、何処から攻撃が来るか分からないからだろ?」


 俺は【神眼】でレッドキャップの姿が見えているが、他の三人には姿は見えない筈だ。


「……そうなのですか?」


 ユキノは不思議そうに答える。


「あの赤い帽子を被って、斧を振り回している御老体の方では、ないのですか?」

「ユキノ、見えているのですか?」

「はい」


 アスランがユキノに質問をすると、見えていると答えた。

 確かに、レッドキャップはユキノが言った格好と同じだ。

 何故、ユキノに見えるのだ? これも聖女の力なのか?

 ユキノのステータスを見ると【聖眼】とある。

 俺の【神眼】と同じような効果があるのか?

 エリーヌでは心配なので今度、モクレンに確認する事にする。


 レッドキャップの攻撃にトグルに反応が早くなっている。

 気配や音等から攻撃パターンか、攻撃の予備動作が分かったのだろう。

 しかし、本当にムラマサを上手に使いこなしている。

 ムラマサに振られた俺だが、嬉しい限りだ。


「ここだ!」


 身体を反転させて斬り付けると、血を流したレッドキャップが叫び声と共に姿を現した。

 姿が見えるようになってからは、トグルが優勢に戦闘を進める。


「どうだ、アスラン」

「はい。姿が見えない状態でも致命傷を避けながら反撃の機会を狙ってましたし、その後も型にとらわれない戦い方です」

「騎士と違って、冒険者は自分独自の方法で戦うから、アスランには参考にならないだろう」

「いえ、十分に参考になります」


 俺と話しながらも、目はトグルの戦いを追っていた。

 剣士同士通じるものがあるのかも知れない。


 トグルの攻撃で、動きが鈍くなっている。

 ムラマサに『HP』か『MP』を斬られる度に吸われていた影響だろう。

 レッドキャップは斧を振る体力も無くなっていたところを、トグルは止めを刺した。


「タクト、解体を頼めるか?」

「あぁ、いいぞ」


 俺はレッドキャップを【解体】して【アイテムボックス】に仕舞った。


「アスラン王子、参考になりましたでしょうか?」

「はい、十分過ぎる程です。今度、御手合せ願えますか?」

「私で良ければ喜んで」


 アスランの相手をすると、ザックとタイラーも弟子として誇らしいだろう。


「失礼しますね」


 ユキノがトグルの所に行き【治療】を施す。


「そ、そんなユキノ様。俺は大丈夫ですから!」


 慌てふためくトグルに構わず、ユキノは【治療】を終えた。

 自分から進んで【治療】を行うとは余程、治療士に成れた事が嬉しいのだろう。

 【魔力探知地図】で確認するが、他に魔物の気配は無いのでクエスト完了だ。

 上で待っていた衛兵達に、レッドキャップ討伐と施設内調査の再開を伝える。

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