第390話 レベル!

 ユキノの杖を購入した足で、冒険者ギルド本部に向かう。

 毎度の事だが、ユキノが王女本人だと思わずに、ユキノ王女似の女性が歩いている程度の認識しかない。


 俺達が入口に入ると、ギルド本部サブマスのヘレンが既に待っていた。


「もしかして、待たせたか?」

「いえ。それよりも……」


 目線は明らかにユキノだった。


「あぁ、ユキノに少し魔物討伐させようと思ってな」


 俺の言葉に、ヘレンは目を大きく開き驚くように俺の腕を引っ張り、顔を近づけて小声で話をする。


「ユキノ様を冒険者にするつもりですか?」

「いや、そういう訳では無いが、身を守れるようにレベルを上げようと思っている」

「そうですか。安心しました」

「……そもそも、王族が冒険者になれるのか?」

「一応、規約では身分に関係無く冒険者登録は可能ですが……」

「私もタクト様と同じ、冒険者になりたいですわ」


 後ろから、ユキノが俺達の会話に入って来た。

 ヘレンは、どうして良いか分からないようだったので、とりあえずジラールの部屋へ行く事にする。

 ジラールはクエストの件だと思っていたが、ユキノが一緒に居た事と冒険者志願の件で驚く。


「確かに、誰でも冒険者になる事は可能だが……」


 困惑しているジラールに向かい、ユキノがルーカスに承諾を取るので冒険者になりたいと再度申し出る。

 ジラールは断る理由が無いので、了解をした。

 ユキノがルーカスに冒険者になる話をすると当然、反対をする。

 【交信】の為、ルーカスの声は聞こえないが必死で説得をしているのに対して、ユキノが冷静に反論しているのだろうと推測は出来た。


「はい、それで結構です。ありがとうございます」


 ユキノは礼を言って【交信】を切る。


「国王様は了承されたのですか?」


 ジラールが恐る恐る聞くと、「はい」とユキノは笑顔で答えた。

 対照的に、ジラールとヘレンは大きなため息をついていた。


「ただし、冒険に行く際は必ず、タクト様が同行するという条件付です」

「そうですか!」


 嬉しそうにジラールが話す。

 冒険者ギルドのせいで、第一王女を殺してしまうかも知れない事に対して、一筋の希望の光が差したのだろう。


「因みに職業は何で登録されますか?」


 通常であればメイン職業になるのだが、ユキノの場合『王女』なので『治療士』を選択する。


「分かりました、治療士ですね。ランクGのギルドカードは、すぐにお持ちします」

「ヘレン、ちょっと待て。ユキノ様は、ランクFの昇級試験も受けられますか?」

「珍しいな、ギルドから昇級試験の話をするとは」

「あぁ、治療士は戦闘系職業では無いから、冒険者ギルドに登録した際に、ランクFの昇級試験を受ける者が多いんだ」

「そうなのか、それは知らなかったな」

「……お前は常識が無いからな。それよりもユキノ様、どうされますか?」


 ユキノは俺を見るので、「受かる自信があれば受ければ良い」と言うと「はい」と答えて、ランクFの昇級試験を受ける事を伝えた。


「では、クエストは冒険者の傷を、五人治療願います」

「あれ? スライムとかの討伐じゃないのか?」


 俺の質問にジラールとヘレンは、久しぶりに馬鹿な子を見る目をして俺を見る。


「あのな、低レベルの治療士なんて、スライムに勝てるわけないだろう」


 どうやら、話を聞く限り治療士や、薬師等の攻撃職業で無いのであれば、職業にあった昇級試験が用意されているそうだ。


「……俺、無職だったけどスライム討伐だったぞ」

「そもそも、無職で冒険者になろうとすること自体、おかしいんです」

「そうだぞ、大体そんな奴は門前払いだからな」


 何故か、俺が叱られる。


「それでユキノ様はレベル幾つでしょうか?」

「はい、レベル二です」


 張り切って、自分のレベルを言う。


「二ですか……」


 ジラールは頭を抱えていた。

 王女としての経験でレベル二という事だ。

 通常、無職であってもレベルは上がる。俺がその稀たる例だ。

 それはあくまで職業に就くまでの話だ。

 普通であれば、職業鑑定をして一番自分にあう職業を知ったうえで、職業を選択出来る。

 メイン職業を選んだ段階で、無職のレベルがメイン職業のレベルになる。

 王族などの特殊職業の場合、称号が無くなった際にサブ職業とで入れ替えも可能だが、大体領主等に変わるくらいなので、サブ職業をメイン職業に変更するような事は無いらしい。

 ダウザーも元冒険者だが領主の息子である為、特に称号は無かったので、普通に職業を選択出来た筈だ。

 『貴族』とは称号の為、メイン職業は別になる。

 大体は、商人を選択する。

 その為、奴隷を扱う貴族がいるので『奴隷制度』というものが無くならない要因のひとつだ。


 しかし、ライラでさえレベル七だったと思うが……確か、転移の際にエリーヌが成人男性でレベル五くらいだと聞いた気がする。

 人間族は、レベルが上がりづらい人種なのだろうか?

 確かに人間族の冒険者は、全体の割合からすれば極端に少ないので、そう考えれば納得も出来る。

 冒険者でなく、村などで普通に暮らすだけであれば、エリーヌの言う通りレベル五が平均なのかも知れない。


「因みに、習得したスキルは何になりますか?」

「はい、【回復(レベル一)】と、【治療(レベル一)】です」


 嬉しそうに話すユキノに対して、なんて言葉を返して良いのか分からないジラールとヘレンだった。


「ユキノ、ジラール達が言い辛そうなので俺が言うが、レベルが低すぎてランクFになるのは難しいみたいだ」

「えっ、そうなんですか!」

「……はい、大変申し上げにくいのですが」


 基本魔法は、ステータスの魔法力の値で、威力や効果が大きく異なる。

 俺がよく使う初級魔法の【火球】も、俺の魔法力の値が飛びぬけた値なので、中級魔法よりも威力があるのはその為だ。


 ジラールの言葉を聞いて、落ち込むユキノに、


「ユキノ、落ち込まずに今、自分が何をするか前向きに考えろよ」

「は、はい」


 落ち込む暇があれば、自分が出来る事を小さな事でも行えばよい。

 焦って無理な事をすれば、かえって周りに迷惑を掛ける事もある。


「ジラール、悪かったな。ユキノのレベルを上げて、出直すわ」

「あぁ、そうしてくれると俺としても助かる」

「それで、クエストを詳しく教えてくれ」

「そうだったな。ヘレン! タクトに説明してやってくれ」

「はい」


 ヘレンから、クエストの内容を聞く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る