第352話 社員旅行!

 四葉商会の社員旅行だが、ツアーコンダクターの気分だ。

 ローラは興味が無いと欠席。ライラも、修行があるからと申し訳なさそうに、欠席を伝えてきた。

 クロは引き続き調査をしたいと言うので了承した。

 参加者達はと言うと……フランは、あちこち余所見をしているし、ザックとタイラーは勝手に離れたりしている。

 マリーとユイも勝手に店に入ったりと皆、バラバラだ。

 従業員には、お気に入りの鞄等に【アイテムボックス】の【魔法付与】を掛けておいたので、どれだけでも荷物が入る。

 買い物していて、気に入ったのがあれば取り替えると言っておいたので、鞄選びも兼ねている。

 とりあえず、迷子になったらすぐに連絡する事と、今日の宿屋への集合時間だけ教えて自由行動にした。

 念の為、シロを監視に付けておく。

 あれほど、固まって行動するように言ったのに……。


 俺は、アラクネ族に渡す珍しい品を物色する為、幾つかの店に入る。

 鏡に『光石』を埋め込んだ物や、珍しい民族衣装のような物があったりと見ていて楽しい。

 店主に珍しい物は無いかと聞くと、すぐに店の奥から珍しいというか、怪しい物を出してきてくれる。

 魔法都市と言うだけあって、魔道具の品揃えは豊富だ。


 服はアラクネ族製なので、全くと言っていい程問題が無いが、靴というかブーツは履き替えたいと思っているが、中々良いのが見当たらない。

 王都でも靴屋らしき店に入ってみたが、しっくりとくる物が無い。

 サイズは伸縮魔法で、なんとでもなるが、履き心地等で気に入る物が無い。

 今、履いているブーツらしき物も、エリーヌが転生の際にくれた物なので、それなりに丈夫だが……。


 そんな事も考えながらも買い物を続ける。

 ジーク同様に、露天街もあるので買い食い等もしてみる。

 売っている物自体は大差が無いが、味付けが微妙に異なっていた。

 少し期待しながら米が無いかを確認していたが、無いようだ。

 やはり日本人なのか、米が食べたいと日に日に感じるようになってきた。

 シロから連絡が入り、マリー達を尾行している男達が居ると言う。

 俺は急いで、シロと合流する。


「あの人達です」


 シロの目線の先には、マリー達を監視している。

 暫く様子を見てみるが、マリー達を尾行しているのは確かだ。

 危害を加えられる前に、こちらから動く事にする。

 マリー達に気付かれないように男達を路地裏に引きずり込む。

 誰の仕業か吐かせようとすると「タクト様!」と俺の名を呼ぶ。

 顔見知りでもないが……。

 事情を聞くと、大臣の命令で俺達を警護していたらしい。

 俺は動きが早い為、見失っていたそうだ。


「悪かったな。てっきりマリー達に危害を加えると思っていた」

「いいえ、こちらこそ極秘任務でしたので……警護に気付かれてしまっては仕方ないですが」


 案外、大人数で警護しているそうなので、礼を言い引き続き警護を頼んだ。

 完全に御忍びで来た大物扱いだ……。

 シロが見張る必要も無くなったので、獣型に変化して俺に抱かれて街を見て回る事にする。


 広い街なので、色々な店があるので飽きない。

 店の前に、浴衣のような服が飾ってあるのを見ると、懐かしく感じる。


「シロは、何処か行きたい場所あるか?」

「いえ、御主人様の腕の中であれば、何処でも良いです」


 嬉しい事を言ってくれる。

 シロを抱えたまま、街を歩いていると子供達がシロを「可愛い」と言いながら見ている。

 俺は、その子供達に笑って返すが俺の笑顔が怖いのか、皆走り去っていく。

 正直、落ち込む。

 孤児院の子供達も俺で無く、ユキノのほうに寄っていった事を思い出した。

 確かその時も、動物と子供は見た目で判断しないと思っていた。

 これが【呪詛:服装感性の負評価】のせいなのかは分からないが、そうだと思いたい。


「これ、なんだ?」


 店先に、何に使うか分からない物が置かれていた。

 オブジェか?

 店の中に入り、店主に話をすると椅子だと言う。

 椅子と言うが座る面積が少なく、椅子本来の機能を満たしていないと思う。

 店の中を見るが、同じようにデザインに特化した物が多数置かれている。

 幾つか説明を受けるが、使い勝手が悪そうな物ばかりだった。


「売れているのか?」


 少し心配になり、失礼を承知で尋ねる。


「いや、全く売れない。何が悪いのかが全く分からない」


 本当に分かっていないのか、演技なのか分からない。

 自信作だと言って持ってきた掃除機らしき物だが、掃除機でなく送風機のような物だった。

 【風石】という物が内蔵されているらしい。


「これで暑い日は涼しくなる筈なのに、誰も買っていかないんだよ」


 購入価格を見ると、明らかに高い。

 値段の付け方まで変だ。

 ……しかし、これに氷等を入れて、風を出せば確かに涼しい。

 これが分かっただけでも、この変な店に来た価値はあった。

 店主に、もう少し実用性が高く、価格も安くすれば売れると思うとだけ言うと、何故か納得していた。

 他の店に入って、この店の事を聞くとやはり変な店で有名らしい。

 変な店は嫌いではないので又、寄ろうと思う。


 その後も、靴屋らしき店を幾つか見てみるが、しっくり来るものが無い。

 履き心地は、エリーヌのブーツ以上の物が無いという事なのだろうか?

 仕方が無いので、今履いているブーツを【複製】で増やしておく事にした。


 宿屋へ戻ろうかと考えながら歩いていると、トグルとリベラ、それにザックとタイラーが居た。

 どうやら武器屋で武器を選んでいる様子だ。

 傍から見れば、仲の良い鬼人の親子に見える。


「よっ! 気に入った物でも見つかったか」


 俺が声を掛けると、トグルとリベラは、微妙に離れた。

 知り合いに見られるのが恥ずかしいのだろうか?


「あぁ、ザックとタイラーに新しい剣を選んでいる」


 ザックとタイラーを見てみると、ザックは大剣を持ち、タイラーは少し小さい細身の剣を両手に持っていた。


「ふたりとも戦闘スタイルが違うのか?」


 トグルはザックは力があり、一撃必殺好きの傾向があるが、タイラーは相手の攻撃をかわしながら確実にダメージを蓄積させるのに向いているそうで、ふたり共がその戦闘スタイルに納得しているそうだ。


「ふたり共、お前の戦闘スタイルと違うな」

「……そうだ。悪いか」


 トグルは剣士なので、ふたりの中間の戦闘スタイルになる。


「もう少ししたら、戦闘スタイルに合わせた専門職に教えて貰った方が、良いかもな」


 トグルは寂しそうに話す。

 そんなトグルを心配そうに、リベラは見つめていた。


「実際に戦ってみて、本当に自分にあった戦闘スタイルなのかが分かってからでも遅くないだろう」

「確かにそうだが、あの年頃は自分の力を過信し過ぎるから心配だ」

「それは、トグル自身の経験談か?」

「あぁ、俺は冒険者なりたての頃に、無謀な討伐をして死にそうにあったところをムラサキさん達に救われている」

「その経験があるから、今の強さがあるんだろう。同じ失敗を繰り返さなければ、良いだけだ」

「……簡単に言うな」

「俺だって、簡単だと思っていないぞ」

「お前が言うと、言葉に重みが無い」

「おい!」


 あまり邪魔しても悪いので、先に宿屋に戻ると伝えて、トグル達と一旦別れる。

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