第335話 動揺!
新しい孤児院の場所に行くと、既にサジやサーシャ、それに護衛に囲まれたリロイとニーナと担当大臣が居た。
「遅くなって悪かったな」
遅れた事を詫びるが、案の状ユキノの存在に気が付き、リロイ達は緊張していた。
特に護衛の者達は可哀そうな位に緊張していた。
「何故、ユキノ様が御一緒に?」
リロイが質問すると、サジとサーシャが不思議そうな顔をしていた。
「あぁ、どうしても見たいと言ったので連れてきた」
「宜しく御願い致します」
ユキノは、にこやかに挨拶をする。
「ユキノ殿は、領主様とお知り合いなのですか?」
サジが恐る恐る俺に聞いてきた。
マリーとフランが俺を睨みつけている。
そういえば、前回孤児院を訪問した時は、王女だと名乗っていなかった気がする。
「あぁ、第一王女のユキノだ」
俺の言葉に、サジとサーシャは顔面蒼白になり、その場に跪く。
「先日の無礼な振舞い申し訳御座いませんでした。どうか、御許しを」
震えながら謝罪している。
非常に申し訳ない気分だ。
声を掛けようとすると、ユキノは膝を折りふたりに話し掛けた。
「サジ殿にサーシャ殿、謝るのは私の方ですので、御顔を御上げ下さい。身分を偽り、御二方を傷付けてしまった事、誠に申し訳御座いません」
サジとサーシャに頭を下げて謝る。
リロイ達は呆然として、その光景を見ていた。
当然だろう。一国の王女が、自分の非を認めて平民に頭を下げているのだ。
「そ、そんなユキノ様こそ、頭をお上げ下さい」
サジとサーシャが必死で、頭を下げたユキノに動揺しながらどうしていいか分らないでいた。
「ユキノはお忍びで来ているので、敢えて言わなかっただけだ。その点は俺にも落ち度がある。すまなかった」
俺も頭を下げて謝罪する。
サジとサーシャは、オロオロするだけだった。
「ユキノ様もタクトも、頭を上げて下さい。 サジ殿とサーシャ殿がお困りですよ」
見かねたリロイが話しかけてきた。
ユキノと俺は頭を上げると、サジとサーシャは安堵の表情を浮かべた。
「一応、ユキノはお忍びだから、特別扱い無しだから頼むぞ」
「は、はい」
ユキノはリロイの護衛達にも「御内密に宜しく御願い致します」と頭を下げて御願いをしていた。
俺も傍まで行き、護衛達に「国王命令だぞ」と王家の紋章を見せると、畏まって「承知致しました」と敬礼をした。
「タクトは、王家の紋章まで頂いているのですね」
リロイが驚きながら話し掛けてきた。
「あぁ、成り行きでな。本当は捨ててしまいたいんだけどな」
「タクトらしいですね」
ふたりで笑う。
サジとサーシャの方を見ると、マリーとフランがフォローしてくれていた。
俺よりも、あのふたりの方が適任だろう。
大臣の案内で、孤児院を外から見学する。
新しい孤児院は、前の三倍程ある。
思っていたよりも随分広い。
サジが外でも安全に遊べるようにと、庭を広くして野菜等を育てられる場所等を新たに作ったそうだ。
警備用の柵も建てられているので、不意な飛び出しとかにも対応は出来そうだ。
入口から中に入るが、部屋割りが分かるくらいで、内装は殆ど手つかずだ。
「図面を見せてもらえるか?」
大臣から図面を受け取り、部屋の見取り図を見る。
基本的には、今の孤児院をベースに作っているので大きくは変わらない。
「サジと、サーシャの部屋が無いがどうしてだ?」
「私達は子供達と一緒に過ごすので、自分達の部屋は必要ありませんよ」
模範的な回答だ。
しかし、四六時中子供達と一緒に居るのだから、自分の時間等も欲しくは無いのか?
それに、今後の運用を考えれば誰かが引き継ぐ訳になる。
その際に、自分達の部屋が無いのは好ましくないのではないか?
サジとサーシャに、その事を聞いてみると、そこまでは考えていなかったと反省していた。
「込み入った事を聞くが、この孤児院はサーシャが継ぐのか?」
「はい、そのつもりです」
「サーシャひとりでか?」
「えっ! その……」
顔を赤らめているので、意中の相手が居るのが分かった。
「そういう事なら尚更、自分の部屋が必要じゃないのか?」
サーシャは、更に顔を赤くしてしまう。
後ろから、マリーが突いて「それくらいに!」と小声で言う。
俺としてもこれ以上は聞くつもりは無い。
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