第293話 信仰心!

 まだ時間があるので、ガイルとロイドの様子でも見ようと、ガイルの店に入る。

 時間的には仕込みの時間なのか、閉店の看板が掛けてあった。

 中を覗くと、ガイルが居たので声を掛けると、嬉しそうに俺の所まで歩いてきた。


「討伐御疲れ!」

「まぁ、何もしてないけどな」

「嘘つけ! お前が何もしてない訳ないだろう。俺が気に入った冒険者なんだぞ」


 ガイルに胸を小突かれて、お互い笑う。


「いい若者を紹介してくれて助かった」

「ロイドの事か?」

「あぁ、真面目で働き者だ。それに料理に向かう姿勢が良い」


 嬉しそうにロイドの事を語るガイル。


「まだまだ、引退は先になりそうで安心だな」

「おぉ、俺もロイドに俺の技術を全て教え込んでやりたいから、まだ引退するわけにはいかん!」


 体力の限界だとこの間まで愚痴っていた時とは違い、晴れやかな気力に満ちた表情だ。

 俺としても嬉しい限りだ。

 ガイル越しに見ていたカウンターに目が留まる。


「ガイル、あれなんだ?」


 何処かで見たような木像だ。


「あぁ、あれはロイドの村の神様みたいでな、向かいのお前の店で購入したらしいぞ」

「そうなのか?」

「あぁ、この間働いた分の金貨で買ったと喜んでいたぞ」


 ……言えば、無料タダであげたのに。


「ガイルの店においても問題無いのか?」

「あぁ、以前に触った冒険者が御利益があったとかで、何人かはゲン担ぎで触っていっているぞ」


 よくある触ると御利益がある大樹や、手をかざすと幸せになれるパワースポットのようなものか?

 これは良い事を聞いた。


「ガイル、あれより大きい物をここに置いてもいいか?」

「それは構わんが、あれより大きいってどれ位だ?」

「ちょっと待っててくれ」


 そうガイルに言い一旦店から出て、【隠密】で周りから見えないようにしてから、ガイルが居なくなるのを待ち再び、店に入る。

 『蓬莱の樹海』の管理者であるオリヴィア製エリーヌ像を出す。

 やはり、二メートル弱あるので大きい。

 【隠密】を解き、ガイルに再び声を掛ける。

 ガイルがロイドと厨房から出てくると、木像の大きさに驚いている。


「大きいと言っていたが、ここまでとは……」

「ゴンド村のよりも大きいですね!」


 ガイルとは対照的に、若干感動しているロイド。


「元気みたいだな!」

「あっ、はい。タクトさんもロード討伐御疲れ様でした」

「エリーヌの木像購入したそうだな」

「はい、クラツクが村で彫っていたのが売っていたので、つい買ってしまいました。それに村同様に、こちらでもお祈りしたいと思ってましたので、丁度良かったんです」


 自主的に、エリーヌへの祈りをしてくれるロイドには感謝したい。

 クラツクも嬉しいだろうと思う。

 ロイドだけでなく、ゴンド村の人々が本当に感謝している証なのだろう。

 只、祈る度に俺の【呪詛】が増えているような気もするし、エリーヌが崇められるのも腑に落ちない。

 エリーヌの使徒としては、あるまじき感情が芽生えている気もする……


「タクトさんは、これを店に置くつもりですか?」

「あぁ、ガイルがさっき良いと言ってくれたからな」

「……まぁ、約束は約束だからな。大きさの確認しなかった俺が悪い」

「この像は女神だから、御利益はあるぞ!」

「たしかにそうかもな、カウンターの隣にでも置くから運んでくれるか?」

「分かった」


 ガイルに言われてエリーヌの像を運ぶが、カウンターの隣とはいえ誰でも目に付く場所だ。


「一応、コイツの名前はエリーヌだ。そう、女神エリーヌ」

「……お前、自分が崇める神をコイツ扱いなのか?」


 確かに、そうだな。しかし、丁寧語が話せないので様付も出来ない。

 なによりエリーヌに対して様付けするのは、俺的に嫌だ!

 ガイルには【呪詛】の関係だと嘘をつく。

 ロイドは置かれたエリーヌ像に向かい、祈っていた。

 俺とガイルは、静かに見守る。

 祈り終わったロイドが俺達の方を向くと、待っていたのに気が付いたのか「すいません」と謝る。

 ガイルが少し笑って、続きの仕込み作業に戻るというので、俺も店を出る事にした。

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