第279話 姉妹愛!
王都魔法研究所では、緊急招集が掛かり『転移扉』の御披露目と、ローラの退所と四葉商会の技術提携が発表された。
転移扉は、かなり凄い技術のようで所員達は言葉を失っていた。
ローラの退所も、所員達にとっては大きな衝撃のようだった。
開発業務のメインはローラが行っていた為、幾つかあるローラのチームは所員達は四葉商会の技術提携でローラが変わりなく仕事を続ける説明をされるまで、落ち込んでいた。
魔法研究所に入って来た時も所員達から挨拶されていたので慕われているとは思っていたが、ここまでとは正直驚いた。
所員達が居なくなるのと転移扉を【アイテムボックス】に仕舞い、シーバとローラと共に国王の城に【転移】する。
前もって、ユキノには新技術の報告と連絡してある。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……これは、凄いの」
転移扉を見せると、ルーカスは驚いていた。
ルーカスだけでなく、王家とダウザー達家族に、シキブ達も同様だ。
シーバが詳しい説明を省いて、この世で俺しか製作する事が出来ない物だと話す。
「タクトよ、これは幾つでも製作可能なのか?」
「可能だが、無料で製作する気は無いぞ」
「いや、金貨の問題では無い。この技術があれば、各領主等の移動の際に時間も短縮出来るし、護衛も最低限で済む」
「確かにそうだな」
「扉の大きさに制限はあるのか?」
「試したこと無いので分らん」
そう答えると同時に嫌な憶測が浮かぶ。
「門をこれにして戦争に使おうとするなら、絶対に断るぞ」
「そんな事はせん。仮にしたとしてもお主に破壊されるし、国を滅ぼされるかも知れんのに、そんな事する訳ないだろう」
「その言葉信じるからな」
城門を転移扉にしたとすれば、一瞬で軍隊を送る事が可能になる為、戦争を優位に進める事が出来る。
しかし、ルーカスはこれを否定したので信じる事にする。
「お主には、アスランを助けてくれた褒美やらロード討伐の報酬やらと色々あるのに、このような便利な物まで製作してしまうとは、余の財産が無くなってしまいそうだ」
「だから、褒美やら報酬はいらんといっているだろう。俺に支払って、街の人達の生活が苦しくなるんじゃないだろうな!」
「……タクトよ、余がそんな国王に見えるのか?」
「分からん」
「正直だな。国民を苦しめてまで贅沢をする気も無いし、国は人が居て成り立つものじゃ。国民あっての国であり国王なのは余が一番知っておる」
ルーカスの国王としての信念を聞いたが、立派だと思ったし俺も同じ考えだ。
「それなりの報酬は用意するので、とりあえず二組程作って欲しいが駄目か?」
「二組の行き先は何処なんだ?」
ルーカスは、ルンデンブルクとゴンド村と答えた。
ルンデンブルクは、ダウザー達が居るから分かるが、何故ゴンド村なんだ?
「行き先がゴンド村の理由はなんだ?」
「理由は一つ、楽しい村だからだ。個人的に何度も行ってみたいと思っただけだ」
……一国の王がそんな理由で、片田舎の村まで行くのに新技術を利用すると言うのか?
護衛三人衆に問題無いのかと聞いても、国王の言葉に従うと言うのみだった。
家族であるイースや、アスランも同じ考えのようだ。
「私は、タクト様の部屋に行ける扉が欲しいです」
ユキノは相変わらず変な事を口走っていたが無視をする。
「利用されるみたいで嫌だが、王都とルンデンブルクには城内に往来出来る部屋を用意してくれ。ゴンド村にも建物を用意する」
扉の前には衛兵を配置して防衛する事も付け加える。
「タクト様、私の部屋とタクト様の部屋への扉は……」
ユキノがなにやら言っているが、先程同様に無視をする。
「分かった。部屋は用意するし、扉も余の方で用意しよう」
「分かっていると思うが、人に言うなよ。暗殺者が襲ってくるかも知れないからな」
「それなら、私が【結界】を張ります。通行証が無い者は通れなくすれば良いのですよね」
カルアが衛兵とは別の方法での防衛策を提案してきた。
確かに良案なので、採用する。
ついでに魔法研究所の扉も二組と、俺個人的というか四葉商会用の扉を二組作って貰うように頼む。
シーバが「一組多い」と言うが、よくよく考えると扉一つだと時間によっては混雑する恐れがあるので、二組にしたと説明するとシーバは感激していた。
四葉商会用は、ドワーフ族とアラクネ族用だ。こちらから行くことがあっても向こうから来ることは無いだろう。
「タクト様、私の……」
ユキノが涙目で俺に訴えかけてくる。流石にこれ以上、無視するのは可哀そうだと思い「却下」と答える。
俺の言葉で倒れそうになるユキノを、隣にいたヤヨイとアスランが支えた。
「第一王女であるユキノが、冒険者である俺の部屋に出入りしていたらおかしいだろう。そもそもどこか行くなら、俺を呼べば良いだけの事だ!」
最後の言葉は失言だと思ったが、時既に遅くユキノは嬉しそうに微笑んで「いつでもタクト様を呼んでいい」と呟いていた。
「タクト、俺達もブライダル・リーフ用の扉を用意してくれ」
「……必要か?」
ダウザーがここぞとばかりに、便乗してきた。
「あぁ、暇な時そっちに遊びに行けるからな。それにミラも四葉商会の友人に会えるし丁度いい」
なにが丁度いいんだ?
そもそも、国で二番目に大きい都市の領主が暇な訳ないだろう。サボるのに丁度いいという事なのか?
「それなら、私もブライダル・リーフへの扉が欲しいです」
イースも便乗してきた。王妃が勝手に出歩いたら、ダウザー以上に駄目だろう。
このままだと収拾がつかなくなる。
「ブライダル・リーフへの扉の設置は、店主である者達の許可が必要だから駄目だ!」
断る意思を見せる。
「マリーさんの許可があれば良いのですか?」
「……そうだ」
この展開は、ミラがマリーに連絡を取って、断れないマリーが承諾したという展開になるのは予想出来た。
「扉を付けても良いそうですよ」
嬉しそうにミラは話すが、同時にマリーから連絡が入る。
「タクト、扉って何のこと? ミラ様の頼み事なんて断ることなんて出来ないけど、何のことか全くわからないわ」
「……説明が難しい。今、店は暇か?」
「予約の御客は居ないから、午後の用意と明日の確認くらいだけど、ミラ様の件で急用なの?」
「マリー、あとでひたすら謝る。とりあえず、今から迎えに行くから!」
「えっ、ちょっと!」
マリーと【交信】を切り、少し席を外すと言いマリーを連れて来るためにジークに【転移】して、直ぐに王都の城に戻って来た。
いきなり連れてこられたマリー、しかも目の前には王族とダウザー達が居る。
状況が呑み込めないマリーに、転移扉の説明をしてこれを俺達の店に設置したいとミラが言っている事を伝える。
段々とミラの言葉の意味を理解してきたマリーは、落ち着いた口調で話し始めた。
「ミラ様の御厚意は大変有り難いのですが、弊社ではミラ様に不慮の事があった場合、お守りする術が御座いません」
「……たしかにそうだな」
マリーの言葉にダウザーも頷く。
「マリー殿、大丈夫ですよ。訪れる際は私も同行致します。その際は、ここにいるカルアを連れて行きます」
「御姉様!」
イースが同行する事で問題無いと提案してくる。美しき姉妹愛か?
マリーなら上手く回避してくれると思っていたが、向こうの方が一枚上手だったようだ。
「カルアが居なくなると、護衛が手薄にならないのか?」
一応、聞いてみるがルーカスに「問題無い」と一蹴された。
「これで、問題解決ですわね」
ミラとイースは嬉しそうに微笑んでいた。
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