第137話 営業初日の問題点!

「ありがとうございました!」


 最後のお客を、マリーが送り出して開店初日の営業が終了した。


「あ~、疲れた!」


 マリーは受付の机に顔を埋めた。


「お疲れさん」

「あぁ、タクト。 御疲れ様、この状態はいつまで続くの!」

「さぁ、明日と明後日は同じ状態じゃないか?」

「もう、無理よ!」

「人員の補強は、追々考えるから暫くは頑張ってくれよ!」

「そうね、まだ正式に雇用されていないしね」

「今朝からマリーは、この店の店主だぞ!」

「はぁ? タクトの代わりに挨拶しただけでしょう!」

「いやいや、もうこの店はマリーが店主として、この街の人達に認識されているから!」


 マリーは騙したな! という顔をしている。

 別に騙したわけではないが、開店前の準備段階からマリーなら、この店を切り盛りしていく事は可能だと感じていた。

 実際、今日もトラブルの連絡は俺にひとつしかなかった。

 他にも、予想していない状況はあっただろうが俺への相談無でも対応はしていた。


 受付の机下には、びっしりと書かれたメモがある事にも、気が付いている。


「というわけで、マリーは正式雇用だから、これからも頼むぞ」

「ありがとう」


 騙されたとはいえ正式雇用になった嬉しさはあるのだろう、少し照れていた。


「マリー店主、頑張ってくれよ!」


 マリーは疲れた表情ながら、殺気の篭る目で俺を見つめていた……



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 二階のリビングに皆を集めて、ミーティングを行う。

 実際営業してみて、問題点を最初に言ってもらう。


 マリーからは、御客に対してもう少し時間を取って説明をしたい事。

 出来る限り、待たせる時間の少ないシステムの構築だった。


 フランからも同様に時間制限がある為、納得いく写真が撮れているか不安だと言う。

 出来れば、受付後に予定を聞いてから、写真は別の日時にしてはどうかと提案があった。

 それに、ライラが手伝っているとはいえ、現状だと人手不足は事実だ。


 たしかにそうだ。


 親身になって説明出来る事が大事だが、時間に追われて流れ作業になってしまっては、来店してもらった御客に対して申し訳ない。

 フランからの提案もその方が良いだろう。

 予約制を導入しても良いが、日時の間違い等が起きた際に連絡を取る方法が無い。

 日時の間違いや、キャンセル等の問題に対する対策が思い付かない。


 とりあえず、明日は写真撮影は無しとして別日に予約制とした。

 予約は、二日後から先着順とする。

 予約の際には、金額の半分と領収書、それに予約証明書を本人達と一緒に写真を撮る事で、予約手続きの問題は当面回避出来る。

 一応、説明で来店しての時間変更以外は、キャンセルとする事を伝えて貰う。


 あとは最大の問題である、人員の補強だ。

 基本的にライラや、シロとクロは今回のサポートなので正社員ではない。


「仕事見つけるときは、どうやって見つけるんだ?」


 マリーとフランに聞いてみる。


「店先の求人募集が一般的ね」

「そうね、それか飛び込みで聞いてみるかのどちらかじゃない?」


 やはり、職業斡旋所の様な所は無いのか……


 続けて気まずそうにマリーが、


「求人募集であれば、怒るかもしれないけど『奴隷』か、高額だけど『ホムンクルス』もあるわよ」


 ……奴隷か、たしかにその手があるな。

 そもそも、奴隷を雇うのも有りだな。

 俺の【鑑定眼】であれば、ステータス確認も可能だ。

 しかし、奴隷として買われた側の気持ちは、どうなる……


「ゴメン、タクト怒った?」


 俺が険しい顔をして考え込んでいたから、怒っているのかと思いマリーが申し訳なさそうに謝ってきた。


「いや、謝らなくてもいい。 少し考えていただけだ、それよりホムンクルスってなんだ?」


 前世の記憶のホムンクルスと、この世界のホムンクルスでは意味が異なる可能性もある。

 説明が難しいのか、フランやマリーは考えていたので、クロが代わりに説明してくれた。


 ホムンクルスというのは、人工的に作られた人間族の姿をした物で、単純作業などによく使われるらしい。

 考える能力が無い為、使用人や軍事力として用いられることが多い。


 ロボットに似た存在か。 だから『人』という言い回しでなく『物』扱いなのか……


 しかも、生産数が決まっているので、庶民には手が出ないらしい。

 噂では簡単に壊れないので、貴族の遊び道具とかになっているとも言われている。


 ホムンクルスは、実際見てみないと何とも言えないな……

 それに、人型で見わけが付かないのに物扱いするのも、俺的には嫌だ。


「ちょっと、『奴隷市場』まで行ってくる」


 フランとマリーは驚いている。


「早い方がいいだろ? 一緒に来るか?」

「いや、そんな急に!」

「そうよ! そんなつもりで提案したわけじゃないし……」

「そうなのか?」


 ふたり共が、即決した俺に対して、何故か慌てて弁解している。

 何故だ?


「フランさんと、マリーさんは心の準備が出来ていなかったのですね」


 シロが俺の傍まで来て、笑いながら言う。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 二日目は、多少は改善した効果があったようで、営業自体はスムーズだった。

 予想外だったのは、領収書と予約証明書入りの写真を撮ると、皆大喜びだった事だ。

 写真自体が貴重な物なので、こんな使い方をすること自体が規格外なのだろう。


 初日よりも三時間早く終えた。

 写真撮影もないので、こんなところだろう。

 時間も空いたので、後片付けなどはマリー達に任せて、フランと買い出しに行く。


「結婚の写真撮影では、夢見ていた仕事とは違うから戸惑いは無いか?」


 情報士を目指していたフランにとっては、写真は撮れるが異業種になる。


「そうね、思っていたのとは違うけど今は出来る事をやって、いずれは! って感じかな?」

「そうなのか?」

「えぇ、実力もないし、カメラの扱いや仕事する上での段取りが分かるまでは、そんなこと言ってられないわ」

「無理してないか?」

「何言ってるの! こんな生活出来るなんて、タクトに感謝しかないわよ!」


 怒り気味に話してくる。


「いずれは、専属で誰かを雇って、フランは自由に写真を撮れるように努力するな!」

「私も、クビにならないように頑張らなくちゃね!」


 話していると、目的地の道具屋に着いた。

 買い忘れが無いかを確認して支払いを終える。

 フランは、別の所にも行きたいというので、ここで別れる。


 俺は以前から、気になっていたスラムに行くことにした。

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