第117話 フランの初仕事!

 ニーナに連絡を取り、準備が出来たかを確認する。

 どこから来るか分からないので、迎えに行くと言うとムラサキと一緒に居るらしい。


 ……なんでだ?


 とりあえず、ギルド会館前まで来てもらう。

 フランに一緒に来る様に伝え、ギルド会館前で立っていると、


「おぅ、タクト!」


 ムラサキが陽気にやって来た。


「早速、浮気か?」

「バカ言うな! 街を歩いていたら、男共に囲まれて困っていたので連れてきたんだろうが!」


 そうか、ニーナは魔力が殆ど使えないから、自分の足で歩くしかないのか。

 しかもこれだけの美人だから、ナンパされていたって事か。

 俺達の当たり前の行動ですら、ニーナにとっては慣れない事なんだな。


「シキブには、内緒にしておいてやるよ」

「おい俺は、護衛しただけだよ。 町の奴等は皆、知らないけど大事な方だからな」


 ムラサキを揶揄ってから疲労しているニーナに、


「疲れたか?」

「いえ、慣れないといけませんからね。 そちらの方は?」


 ニーナの口調が変わっている。

 少しでもリロイの迷惑にならないように努力しているのだろう。


「フランといいます」

「私は、ニーナと申します」

「……」


 この間までとのギャップが激しすぎて笑いが止まらないが、必死で堪える。


「タクト、なにか言いたそうですね」

「ニーナ、俺には敬称無しか? それとも、もうボロが出始めたか?」

「うるさいわね! これでも頑張っているんだから……」

「悪かったって、これからもタクトでいいから」


 ニーナに自然な顔が戻った。

 俺は、あまり無理せずに自然体が一番いい事を伝える。


「じゃあ、行こうか。 ムラサキ、引き続き警備頼むぞ」


 ムラサキは、文句を言いながらも同行してくれた。


「……ここって」


 フランが屋敷を見上げている。


「あぁ、領主の屋敷だ」

「えぇ~!」

「因みに……」


 フランの耳元で、ニーナが領主夫人だと伝える。


「えぇ~~~!」

「フランには、これからふたりの写真を取って貰うから」

「えぇ~~~~~~!」


 門番に『通行許可書』を見せて、マイクを呼んで貰いリロイの部屋まで案内される。

 ムラサキは、正装でないし苦手だからというので、ここで別れた



「おかえり、ニーナ」


 笑顔でニーナを迎えるリロイ。


「ただいま戻りました」


 それに笑顔で答えるニーナ。

 この状況が信じられないフランは、ガチガチに緊張している。


「タクト殿、今日の御用件は『結婚式』についてですか?」

「あぁ、その前に彼女を紹介しておく。 フランと言って『四葉商会』の従業員だ」


「そうなのですね。 フラン殿、宜しく御願い致します」

「は、はい、こちらこそ宜しく御願い致します」


 大まかな予定をふたりに伝える。

 式は最小限の人数で行い、その後は噴水の広場とバルコニーで、ニーナをお披露目する。

 新聞社にはこちらから連絡をする。


「色々と有難う御座います」

「あぁ、受けた仕事だから気にするな」


 ふたりには窓辺に立ってもらい、フランに撮影をさせる。


「それは、写真機ですか? 私が知っている物と随分形が異なりますが?」

「これは、『四葉商会』が写真機を独自に改良した『カメラ』という物です」


 フランが自慢気に説明する。


「タクト殿は、道具の開発までなさっているのですか!」

「まぁ、少しだけどな」

「本当に、タクト殿は何でも出来てしまわれるのですね」

「いや、そんな事はない」


 フロイ達には少し待って貰い、マイクに使用していない部屋を案内して貰う。

 フランに上質紙を渡して【転写】を行い再び、リロイ達の部屋に戻る。

 リロイ達に、上半身の写真と全身写真の二枚を渡す。

 ふたりも笑顔だ。


「タクト殿、ありがとうございます。これは大事にさせて頂きます」

「うちの従業員は、いい仕事をするだろう!」

「はい、フラン殿も素晴らしい写真をありがとうございます」

「そんな、素晴らしいなんて……ありがとうございます」


 フランは恥ずかしそうに、深々とお辞儀をする。


 リロイ達には、この写真を新聞社に載せて貰うように交渉をする事を伝える。


 フランの撮った写真を「いい宣伝になるな」と見ていて、大事な事に気が付いた。

 ニーナの指輪だ!

 この指輪が『魔力封じの指輪』だと気づく者が出てくる可能性がある。

 当然、カンナも鑑定してもらったので分かる。


 ……これは、後々面倒なことになるな。

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