第73話 結婚式-2!

「皆、注目!」


 俺の声に反応して静かになった。


「今から、ムラサキとシキブの結婚式を始める」


 大きな歓声が沸く。

 ムラサキは、何のことか分からずに周りを見つめている。


「では、新婦の入場だ。 拍手で迎えてくれ!」


 ギルドメンバー達が、一斉に拍手を始める。

 イリアに手を取られて、受付の奥から恥ずかしそうにする花嫁姿のシキブが現れた。


 ギルドメンバー達から歓声が上がり、


「ギルマス綺麗!」

「最高だよ、ギルマス」


 祝いの言葉が飛ぶ。


 純白のウエディングドレスに頭にはガラスのティアラ。

 手には花束を持ち、イリアが気を利かしたのか薄く化粧もしている。


 シロの言った通り綺麗だ。



 イリアは、ムラサキの隣まで誘導して、脇の方へ移動した。

 ムラサキはシキブを見つめたまま固まっている。


「ムラサキ、シキブに言う事があるだろうが!」


 俺は野次を入れる。

 それにつられてギルドメンバーたちも「そうだ、そうだ!」と同調の野次を投げかける。


「……シキブ、綺麗だ」


 やっと、ムラサキが口を開いた。

 その言葉に照れるシキブ。

 いつもの攻撃は無く大人しい。

 この雰囲気がそうさせるのだろう。


「新郎新婦は、ゆっくりこちらに」


 赤い絨毯の先に、牧師か神父か分からない役のクロが、新郎新婦に声を掛ける。


 硬い動きで手足の動きがバラバラなムラサキ。

 恥ずかしそうに、顔を赤らめて下を見ているシキブ。


 皆、ムラサキを見て笑いが起きている。

 受付嬢や女性のギルドメンバーは、シキブを羨ましそうに見ている。


 クロの前まで来ると、クロは止まる様に手をそっと前に出した。

 この合図で皆静かにする様に伝えてあったので、一気に静かになった。


「新郎ムラサキ」

「はい」

「汝『ムラサキ』は、ここにいるシキブを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み死が二人を分かつまで愛を誓い、妻を想い妻のみに添うことを、女神:エリーヌの名のもとに 誓いますか?」

「誓います」


「新婦シキブ」

「はい」

「汝『シキブ』は、ここにいるムラサキを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み死が二人を分かつまで愛を誓い、夫を想い夫のみに添うことを、女神:エリーヌの名のもとに 誓いますか?」

「はい、誓います」



 誓いの言葉は、前世での記憶を頼りに作ったがこんな感じだろう。

 とりあえず神はエリーヌに変更しておいた。


「この指輪を、新婦の左手の薬指に」


 クロがケースを開き指輪を見せた。

 指輪を見ると、ムラサキは俺の方を見たので笑い返した。

 ムラサキが指輪を手に取り、シキブの指に嵌める。


 本来なら指輪交換だが、結婚式が普及した際に経済的負担を減らす意味も含めて、新郎から新婦に贈るだけにした。

 前世で言う婚約指輪な位置づけだな。


 手を叩く音がひとつ、ふたつと続きすぐに拍手の渦に包まれた。

「おめでとう!」「幸せに!」と各々に再度祝いの言葉がかけられる。


 拍手の中、クロが小声で、


「この宝石は、ムラサキ様が自分の手で掘り出したものなんですよ!」


 シキブにそっと伝える。

 ムラサキを見るシキブに対して、照れるムラサキ。

 シキブの目から涙がこぼれる。


 クロもなかなか上手い演出だな! ……そうだ!


「クロ聞こえるか」

「はい、主よ。 私の進行になにか問題でもありましたでしょうか?」

「いや、完璧だ。 ついでに、今から言う事を二人の前で言って欲しい」

「承知致しました」


「皆さま、静粛に!」


 クロの言葉で静かになった。


「最後にここで、誓いの証となる口づけをして貰います」


 ギルドメンバー達のテンションは上がり、イリア達女性は顔を赤らめている。


 ムラサキはテンパり、シキブも恥ずかしそうに下を向いている。

 ギルドメンバー達も「はやく!」と思春期の子供のように盛り上がっている。


 あ~、ムラサキ完全に固まってるな!

 仕方ないな……


「ムラサキ! お前のシキブへの愛はそんなものか! 口づけも出来ない様な愛なのか!」


 ムラサキは俺の方を少し向き、覚悟を決めたかのように、両手でシキブの肩に手を置き口づけをした。

 湧き上がる歓声と拍手。


 とりあえずは、成功か!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る