第51話 俺VS冒険者達!

 服の埃を手で払っているとギャラリーから、


「俺と勝負しろ!」


 大声で叫ぶ奴が居る。

 声の方向を見てみると、先程ギルマスの部屋に来た一本角の鬼人だ。

 第一印象最悪の場面に居合わせたひとりだな。


「あいつ、お前にギルドランク抜かれたんで、苛立っているんだろう」


 ムラサキの話によると、名前は『トグル』と言いムラサキと同じ鬼人だが、角の数が違うため種族的には別だそうだ。


 一本角はどうしても二本角より下に見られる傾向があり、鬼人の中でも待遇では良いほうでは無い。

 前回、ランクBに挑んだが、筆記試験で不合格となり必死に勉強や、鍛錬を続けていたみたいだ。


 ……たしかに、こんなチート能力の奴がポッと来て簡単に合格したら面白くないわな。

 喧嘩吹っ掛けられても文句言えないな。


「折角、ムラサキが皆の反感買わない様に試験官を名乗り出たのに!」


 気が付くと横にシキブが居た。

 あれ、今さらっと重要な事言わなかった?


 冷静に考えれば、いきなりランクBまで上がれば、コネやら賄賂だのと悪い噂が立つ。

 あえてオープンにする事により不正が無かった事を証明したのか!


「ムラサキ、シキブ!」


 ふたりに声を掛け、礼を言う


「色々と手間を掛けさせてしまったようだな、すまない」

「気にしなくても良いのよ。 ギルマスとしてギルドの事情もありましたしね」


 受けた恩は忘れず、受けた屈辱は一〇倍にして返す。

 これが俺の信条だ!


 とりあえず、目の前のいきり立っているトグルを処理しなければいけないが、隣のシキブから危険な香りがする。


「シキブ、相手していいか?」


 恐る恐る聞いてみる。


「タクトは気にしなくていいのよ。 私がちょっと言って聞かせるから……」


 これはダメなパターンだ。

 シキブに無理やり抑え込まれても、逆に俺への不満や嫉妬は積もるばかりだ。


「これは、俺が売られた勝負なので、俺が処理する!」


 シキブを怒りモードから一旦平常モードに戻して、ギルドのルールを確認した。


「これからする事の責任は全部、俺が負う。 怪我人も出すつもりもない」


 訓練場横にあったテーブルを持ち、中央まで歩く。

 そこに、ジークに来るまでの道中で魔物を倒して稼いだ『金貨二〇〇〇枚』の入った袋を置き、


「俺に腕相撲買った奴には、これを商品としてくれてやる。 早い者勝ちだ! トグル、俺と勝負したいなら早く並べよ!」


 大声で叫ぶと、我先にと長蛇の列が出来た。


「私もお手伝いしましょう」


 イリアが横に来て進行を手伝ってくれた。

 一人三回として、終わったらイリアが魔法で両掌に傷をつける。

 この傷は明日には消えるそうで、順番作業の際によく使われる魔法だと説明してくれた。



 圧倒的な力でなく、相手の力を見ながら遊ぶように勝ち続けていると、トグルの番になった。


「勝負しろとは言ったが、腕相撲とは卑怯な奴め!」


 完全に怒っている。


「おいおい、何を言っているんだ? 挑戦を受ける側に勝負内容の決定権があるのは当然の事だろう! それとも腕相撲だと勝てないのか?」

「うるさい!」


 コイツ、いつも冷静になれって怒られてパーティーで単独行動するタイプだな……


 イリアの掛声と共にトグルの拳を倒す。

 一瞬の事で、トグル自身も負けた事に気が付いていない。


「……もう一回だ!」


 と叫んでいるが、すぐにイリアが顎に手をやり


「順番の意味わかりますよね」


 怖い顔をしながら手に力を込めると、トグルは何も言わずに最後尾に並んだ。

 ……イリア、怖え~!


 何人か倒すとイリアがそろそろ一巡すると教えてくれた。

 まだ、一巡していないのか。

 ……思ったより長いな。


「やっと、俺の番か!」


 目の前にはムラサキ、その後ろにはシキブが並んでいる。


「ギルマスで、ちょうど一巡です」

「えっ、ちょっと! なんでムラサキとシキブが並んでいるんだ?」


 予想外の展開だ。

 ムラサキはともかく直感的にシキブとはやりたく無い…


「力比べと聞いたら、男として出ない訳にいかないだろう!」


 うん、筋肉バカの発想だ。


「お金はあっても困る物でもないし、これから出費も多くなるからね」


 なるほど、貨幣狙いか。

 ハネムーンを豪華にするつもりなのか!


 手を組合せただけで他の冒険者と違うのがすぐ分かった。

 やはり、ムラサキは強い。

 長引けば不利になると思い、瞬発力で勝負をして勝利する。


 シキブは更に強く、瞬発力でも負けずに踏ん張ったが、危なげなく勝利した。


 こんな感じで延々と腕相撲をして、三巡目のシキブを倒した頃には始めて二時間が経っていた。

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