第11話 迷いの森の美女!

 クロとシロのおかげで、生活が随分と楽になった。


 フォーメーションを組む事で、より効率的に戦闘が可能になった。

 木の実も、クロが高い所の物を取ってきてくれるので、食事の幅も広がった。

 夜も交代で見張りが出来る為、熟睡が出来る。

 なにより、話し相手がいると言う事がこんなに良い事だと実感した。

 そろそろ、拠点を変えようと思い、クロに空から目ぼしい場所を探して貰っていた。


「森中央部に、魔力が異常に大きい大樹があります」


 クロから報告を受ける。


「魔力って事は、魔物が集まっているのか?」

「いえ、違います。自然豊かで、動物たちが集まっております」


 ……魔力があるけど、動物が集まる? どういう事?


「ゴブリンや、オークの集落は別の場所になります。ドラゴンも山から下りてくる気配はありません」


 ……サラッと話したけど、この森ってゴブリンだけじゃなくて、オークの集落もあるの?

 しかも、ドラゴンって! 山には近づかないでおこう!


「とりあえず、その大樹まで行ってみるか。クロ、案内を頼む」

「承知致しました」


 俺は左腕でシロを抱き抱え、クロの案内で大樹まで歩いた。

 【危険探知】で周囲は確認しているので、魔物との遭遇は無かった。


 クロが、空中で止まりこちらに振り向いた。

 どうやら、目的地の大樹に着いたようだ。

 そこは、空から光が差し込み動物達が各々に休憩をしている。

 とても魔物がいる森の風景には見えなかった。


「こんな、場所あったんだ!」


 ここなら新しい拠点に申し分無い。


「クロ、ありがとう!」


 クロが右肩に止まり羽を休める。

 良い場所なのは分かるが、魔力が大きいって何でだ?

 シロの耳がピクッと動き何かに警戒している。

 クロも同様だ!

 【危険探知】には何も反応が無い。

 動物達が逃げ出す様子も無い……。


「ここに人間が来るのは、いつ振りですかね?」


 奥の大樹の陰から女性が現れた。

 明らかにシロとクロの警戒対象は、彼女だ!


「……何者だ!」


 警戒対象という事は、敵の可能性が高い。


「安心して下さい。危害を加えるつもりはありません」


 彼女は両手を上にして無抵抗アピールをした。

 【鑑定眼】を使うと、ステータスは『樹精霊ドライアド』となっている。


「俺を騙して、樹の養分にでもするつもりか!」


 前世の記憶だと樹精霊ドライアドといえば、美女に化けては人間を樹の養分にする筈だ。


「いいえ、神の眷属を従えているあなたを襲う程、愚かではありません」


 ……何故、その事を知っている?


「この森で起きている事は、木々を通して全て私に情報が集まります」

「なるほどね! では、俺があんたの領域に入った事による忠告か?」


 大樹が、この森の主要な樹であれば近づけたくはない筈だ。


「そんなことはありません。でも、ひとつお願いをしたい事があります」


 ……美人の御願いって、絶対ろくな事無いよな。


「依頼内容を聞いて、判断するという事でもいいか?」

「はい、構いません。あなたにしか御願い出来ない事ですから」


 ……俺にしか出来ない?


「とりあえず、着いてきて頂けますか?」


 クロとシロを落ち着かせて、後を付いていく。


 樹精霊ドライアドは、『リラ』と名乗りこの森迷いの森の管理者だと言う。

 その森の管理者が、俺に何の用だ?


「ここです」


 リラは、少し広がった場所で止まった。

 周りには木が生えているだけで特に何も無い。

 いや、よく見ると樹に人が呑み込まれている。


「……どういう事だ?」

「タクト様には、あの人間を見て頂きたいのです」


 そう言って、一本の樹を選んだ。

 他の樹に比べ、まだ人間の原型を留めている。最近、餌食になったのか?


「実は、この人間は五〇年この状態なのです」

「五〇年?」


 捕まっている男性はどう見ても三〇代だ。

 俺達を騙すリラの嘘か?

 リラを見るが、襲ってくる気配は無い。


「依頼の内容を、御説明させて頂きますが宜しいですか?」


 この男性を五〇年前に捕まえ、生命力を奪おうとしているが何かに邪魔をされて、奪う事が出来ない。

 しかも魔力が膨大でこの森迷いの森自体に影響が出ている。

 何年も樹精霊ドライアドに魅了されずに、この男に触れられる者を探していた所に俺が現れたと言う事らしい。


「成功した際の報酬は?」

「『ドライアドの実』でいかがでしょうか?」


 すぐに【全知全能】に質問をする。

 『ドライアドの実』とは、昔は万能薬として高い値で取引されていたが、近年では市場に出回らない事から『幻の実』とされている。

 ひと粒飲めば、どんな原因不明な病気や手足が失った怪我でも治る。

 稀に【呪詛】にも効果があるそうだ。


 ……【呪詛】にも効果がある!


 【全知全能】に『ドライアドの実』で俺の【呪詛】に効果があるか確認したが、効果が無いと答えた。

 神の【呪詛】だから強力なのだろう。あのポンコツ女神は、どうしてこういう所だけ優秀なんだ!


「分かった、『ドライアドの実』を五つでどうだ!」

「すいません、実はふたつまでしか用意出来ません」


 在庫不足か。そう簡単に出来る物でも無いのだな。


「その代わり、『大樹の祝福』を施します。そうすれば、世界中の樹精霊ドライアドとの交流が可能になります」


 ……世界中の樹精霊ドライアドと交流が出来るのはメリットが大きいな。


「分かった。それでいい」


 俺は了承した。

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