She,詩,死

非道いはなし

「かわいそうに。非道いひとがいるのね」と、ニュースを見たきみはつぶやく。

非道いひとがいるんじゃない。ひとはみな、ほんとうは非道い生きもので、この世界は、ほんとうは非道くできているのだ。

ぼくたちの日常も、油断も、勇気も、優しさも、幸せも善意もぜんぶ、だれかの悪意の喰いものになるのだと、知ってしまったことがかなしい。

助けをこうひとを見ても、こころのどこかで、ほんのすこし、うたがってしまうことがかなしい。どんなにひとにやさしく生きていたくとも、結局は自分がいちばんかわいいのだと、思い知らされることがかなしい。

なにより、傷つくのも傷つけるのも、どちらもおなじにんげんで、だれかのたいせつな家族をころしたのは、べつのだれかのたいせつな家族なのだという事実がいちばんかなしい。

いつだって、正直なひとがばかを見て、まじめなひとが損をして、素直なひとがだまされて、やさしいひとが傷ついて、だれかのしあわせのために、だれかがなみだをながす、理不尽であふれた、そんな世界だ。