表向きは好意的ですが下手すると

「大変申し訳ない、どうもあの一件以来人を見るとね」

「いえ、こちらが不要に声を掛けたのが悪かったのですから気にしないでください」

 

 とニコやかに会話をしている様に見えて実はさっきから友三郎の目の前にいる村の長老であるセントールの目はまったく笑っていませんでした。

 当然、迂闊な友三郎も好意的なのは建前だけだと理解しています。


 友三郎の本音は「サーチ&エスケープ」つまり一目散に逃げたいです。

 しかし上からの命令でドレッシングを売り込まなければなりません、それと堆肥に混ぜられた前任者の骨、もしくは形見の品として遺族に渡す何か物品を持ち帰らないといけないので必死に耐え凌ぎます。

 

 何とか機嫌を損ねずに本題に入ろうと友三郎は話の取っ掛かりを探しますが、長老のさっきから殺気が見え隠れする目線に「無理、絶対に無理、無理過ぎて即死」と心の中で友三郎は叫び続けますが意外にも長老の方から話を振りました。


「前任者の方の代わり、ですよね?何を売り込みに来られたんですか、言っておきますが貴方の用意する商品の大半は我々の教義に反する物ばかり、こちらの伝統や風習も無視して、前任者の方は何を思ったのか自然由来のぼでぃ…何とかを試すとか言って若い娘の背に乗る始末で……」

「それは…申し訳ない。何と言いますか前任者は来て間もない新入だったので実情を知らない本部の言いなりだったので…大変に申し訳ない」


(うぉおおおい!?何やってんだ前任者!馬鹿なの?あ、馬鹿だったからこうなったのか…じゃねぇえよ!何してくれてるんだよ!ダメじゃん、絶対にもうダメじゃん!ここで顧客の開拓とか無理じゃん!)


 友三郎は既に詰んでいる事を理解していましたがそれでも気力を振り絞って商談を始めました、結果は言うまでも無く「正直に言って貴方方のドレッシングは料理を習い始めた不慣れな娘達が作るそれよりも酷い」と一蹴されました。

 

 ただ目的の一つだった前任者の遺品の回収だけは出来ました。

 そして帰り際、セントール達の鋭い視線を浴びながら友三郎は思います。


(責任を取って婿入りするか、それとも土に還るか…あんなに可愛い娘なら二つ返事で了承すると思うけど、そっちの属性は無かったか)


 どうでもいいですが彼の中では今後の方針は決まりました。

 ドレッシングを売り込む、その選択は大間違い。

 でも別の物なら可能性は大きい。

 

 若い娘がまず母親から習うのはドレッシング作り、ならどうしたらいいのか?

 その答えは友三郎の中で決まっていました。


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