Q.異世界で地球産の商品を売るにはどうしたら良いですか?A.菜食主義のエルフに焼き肉のタレを売らなければいい。

以星 大悟(旧・咖喱家)

理不尽な始まり方

 丹波たんば 友三郎ともさぶろうはとても憤っていました。

 本部から「これが今月のバイヤーのおススメだから今月も目標達成目指して頑張ってね(⋈◍>◡<◍)。✧♡」という紙が添えられている段ボール箱の中身は、日々の業務で常に文字通り命を懸けている友三郎の叫び声が上まで全く届いていない事をありありと語っているのですから。


 今から友三郎が売り込みに行くのはエルフの里、当然のように彼等は菜食主義です。

 山羊の乳といった乳製品を口にしますが例えば子牛や子山羊の腸の中にのみ住む酵素を使って作られたチーズは決して口にしません、彼等が信仰する宗教の教義で固く禁止されているからなのでもしも彼等にそういった物を渡せば、即座に首を掻っ切られてしまいます。


 しかも二度と同じ事をされないようにナマモノとしてその人間の身内や所属する会社にしっかりと送り付けたりします。

 何度も本部から無理難題を押し付けられ幾度も首を掻っ切られそうになりながらも必死に働いていた友三郎は机の引き出しの中に入れてある突き返された退職願の山をもう一度会社に送りつけようと決心しました。

 彼の目の前に置かれている段ボール箱の中身はとても愉快な事に高級ブランド牛の牛脂を使った焼き肉のタレなのですから、彼がここまで激情に身を任せるのも仕方が無い事でしょう。


「もう限界だ、ここはエルフが住む地区なんだぞ!菜食も菜食、誰だろうが誰であろうが強制菜食!肉でも食おうものなら…この前はカップ麺を食ってたら牢屋に入れられた……」


 どうやら友三郎自身も相当に迂闊な性格の様ですがそれでも最初に派遣された社員で生き残ったのは彼だけ、他の地区に派遣されている人達が売りあぐねている商品を押し付けられるのは、上の人達にとってみれば仕方が無い事なのでした。


「ドワーフ…ドワーフになら売れ…駄目だ、そうしたらエルフに敵視される。何より地区を跨ぐと他の連中が五月蠅い…よし辞めよう!もう限界、そして俺今まで欲感がったお疲れ!そしてこんにちわニート生活!10年以上も使っていない有給を全部使って辞めてやる!」


 そう決心した友三郎は山の様な退職願と有給申請も一緒に詰め込んで段ボール箱を本部に送り返しました。

 後日、別の商品と一緒に退職願と有給申請は帰って来ました。

 それと紙が再び一枚。


『友三郎君へ。

 君の気持は良く分かったよ(⋈◍>◡<◍)。✧♡だけど社会人として辞める前に今月の目標を達成しないと!ちなみに君の目標数は会議で5倍に決まったから退職が出来る様に頑張ろう!!逃げたら法的な措置を取るからね?それとそっちは日本国憲法が通じない事も忘れないでね( ˙-˙ )』

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