bench time 第6話

酔いが少し残る中、アキさんが暗い外を見ながら話し出した。

「昔は、温泉なんて余り行かなかったんだよ。ただね、若い頃ちょっと辛い事があって何もかもイヤになって、自暴自棄になって誰にも会いたくなくなって…… それから暫くして、ふと気づくと本当に一人になってて」


「その時は一人でも寂しくなかったけど。ただあまり出かけなくなるでしょ? 一人だとドライブくらいしか。でもそのうちドライブがてら温泉とか行く様になってね。結構何処に行っても、ひとつ位温泉あるしね。温泉だと一人でも平気でしょ? それからかな〜〜 あちこち行き出したの」


辛い事が気になった自分……

思い切って訊いてみた。


「あの〜〜 アキさんの家でつい見ちゃったんですけど。仏壇みたいの…… すいません。それが関係しているんすか? 辛い事って? 」


「ん〜〜 それも辛い事だけど今、話した事は若い頃で二十代の時。その時の彼女を病気で亡くしてね、若かったからショックで立ち直れなかった」


「重い病気だったんですか? そんな若さで…… 」


「急性白血病。ビックリしたよ、まさか白血病とは。やっぱり…… 大変だったよ。彼女も辛かったろうし悔しかっただろうし。ずっとその姿を見てたから余計ね、辛さから立ち直れなかったかな」


(と言うと、あれはまた別の人? )


アキさんが続けた。

「二十代半ばの一番良い時期は、ずっと一人だったかな。自ら孤独を選んでた気もするけど。前にマコちゃんと温泉行って、また今日皆んなで温泉浸かってたら、やっぱり良いなーー 楽しいなーー と思ったよ、この歳で」

「だからマコちゃん! まだ若いんだからドンドン楽しみなよ人生! 何があるか、わからないんだから人生は」


酔いと楽しかった一日のせいで余計な事を話しちゃった、と頭を掻きながらアキさん。


「その話は、カオリさんには? 」


「こんなに詳しくは話してない。真っ直ぐだからねカオリちゃん、意外と 」 (笑)


「さぁ寝ますか。明日、朝風呂入りたいし」

「うぉ! いいっすね。 あの〜〜 出来れば起こして欲しいんですけど…… 」

図々しくお願いする自分。


「さぁーー どうかな? 」

ニヤリとアキさん。


少し過去を話してくれたアキさん。

まだ色々気になる事も有るけど、少しだけアキさんに近づけた気がした。


流石に、布団に入った途端…… 爆睡!


なんか寒い…… 布団が…… ん? どこだ布団?


「おーーい! どうするんだ〜〜? 寝るのかな? 朝風呂いくのかな? マコちゃ〜〜ん! 」

アキさんが自分の掛け布団を取り上げながら訊いてきた。


「あぅ、もう朝っすか? なんか…… はやいな〜〜 朝になるのが」

目が半分開かない自分がヨロヨロしながら起き上がる。


「寝てたら? 眠そうだよ、すごく」


「大丈夫れす! 朝風呂行きたいんです〜〜 」


ボサボサの髪とヨレヨレの浴衣姿のまま、ただアキさんの後ろをついて行った。

あくびを止めどなくしながら。

浴場に入ると、朝日が綺麗に射し込んでいて目が開けられないほど。

うっすら湯気の立ち昇る浴槽をアキさんと二人だけ。貸切状態。眠気もとれる程、気持ち良くゆったりと朝風呂を満喫。

「良かった〜〜 眠い中、朝風呂入れて」


「すっごく眠そうだったね。寝てた方が気持ち良かったんじゃない? 」


「いやいや、起こして貰って よかったっす! 最高ですね朝風呂! 」


「だね。夜はあまり景色見えなかったからね。朝日も綺麗だし」


二人で顔近くまで浸かりながら、朝日に照らされた景色を見てた。


風呂上がり、酔っ払い二人の様子を見に。


何故か、二人とも昨晩の時とは全く違う感じで寝てた。何があったんだと思う位、布団がめちゃくちゃ。恐らく朝方寒くて布団の取り合いをしてたのかな? ユウさんに至ってはシーツにくるまって寝てた。


カオリさんに布団取られたのか? ぷぷっ。


すんごい顔をしながらカオリさんが目を覚ました。

「え、もう…… あさ? ん? 何でユウさん寝てるの? アキさんは何処で寝たの? 」


「マコちゃんと隣の部屋で寝たよ。で、今二人で朝風呂行って来たとこ」


「え〜〜! 何でマコなの! コラっ! マコ、アキさん取るな〜〜 」


いや! 取ってませんよ。あなたが此処で寝ちゃったから仕方無く、隣行ったんすよ!まぁお陰で朝風呂連れて行って貰ったけど。

「アキさん〜〜 朝風呂、超気持ち良かったすね〜〜 」

カオリさんに、自慢する様に大袈裟に言ってみた。


「…… 朝風呂。あ〜〜ん行きたい〜〜 アキさん行こ? 」

「今、行ったばかりだし。朝から混浴は開いてないよ時間決まってるから」

朝イチの色々と凄いカオリさん相手にも冷静なアキさん。

「え〜〜 ヤダ! 行きたい! 」

朝から女王モード全開のカオリさん。


「その前にさっ! 顔洗おうね! 浴衣も直して。かなり凄いよ! 色々と」

アキさん! 言えるんですね。自分は言えませんでした。

カオリさんは、その一言で完全に眠気が覚めたらしく無言で洗面所に駆け込んだ。


思わず、アキさんと目が合い互いにクスクスと笑ってしまった。

イビキをかいて寝てたユウさんも、ムクッと起き

「腹減ったな! 」と一言。


なんか…… さすがユウさんって感じ。 (笑)


恥ずかしそうにカオリさんが戻って来て、自分に軽くケリを入れ、アキさんに寄り添う。

「も〜〜 こんな女じゃアキさんも嫌だよね? もうお酒やめる! 」


誰もその言葉を信用しないのは確か。


「コラっマコ! 突っ込まないの? ホントにお酒やめるよ! 」

何で、自分に振ってくるかな? 勝手に言い出した事なのに…。


「どうぞ、ご自由に」

弱っている女王相手に強気で攻めてみる。


「あ〜〜ん、マコが酷い事言う〜〜 アキさ〜〜ん! 」アキさんの背中に頭を付けながら。


女王もまだ反撃するチカラが残っていたか〜〜 もう一押ししてみる? こんなチャンス滅多にないし……


「カオリちゃん、ほら朝ご飯食べに行くよ! 」カオリさんの髪を整え、軽く頭をポンポンしながらアキさんが言った。


うっヤバイ! アキさんそんな事したら女王が体力回復しちゃうじゃないすか!


『女王復活! 』


カオリさんはアキさんを優しい眼差しで見つめてた。


「うっ! 」


アキさんを見つめながらカオリさんの足が自分の腹めがけて! 復活した女王の見事な蹴り!


「じゃあ、着替えてくるね! 」

カオリさんが出て行った。


結局、女王を仕留めきれなかった。

チャンスだったのに!


四人で朝食。スッカリご機嫌になったカオリさんが、アキさんに寄り添う。たまに見下した目で自分を見る。

うーむ、また下僕になりさがりましたか!


「水飲みたい〜〜 しもべ! 水っ! 」

パワーアップした女王!


しもべですか、そうですか。

(今日の寝起きの顔、ヒドかったですよ女王様! )


第6章 終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る