bench time 第2話
アキさんから頂いたキーホルダーは、車のキーにつけた。
フクロウが、彫られていたので意味があるのかと自分で調べてみた。
フクロウは福にかけて、幸運を運ぶとか そういう意味があるらしいがアキさんの意図は、分からない。
革自体に彫刻の様に模様をつけるカービングと言う技法で細かな仕事だなと思った。わざわざ自分の名前まで刻印してくれた事も、嬉しかった。
一緒に入ってたパンも、アキさんの店には普段置いてないパンの種類。だが知っていた。
[プレッツェル]
そのパンも意味があるのかなと思い調べたら、色んな意味があって困った。
自分に都合の良い、意味合いを勝手に思うことにした。
形が、ハート型にも見えるので 『愛情』。
「もう! アキさんたらっ! 」
ともあれ、また楽しい日々が始まろうとしていた。
そんないい感じの日に、割とよく会ってしまう人…… そう [信金さん] です。
それも、まさかの病院で。
会社の健康診断で病院に行ったら、信金さんが座っていた。直ぐに気づかれ声を掛けられる。
「健康診断でしたか、御苦労様です。私はね、ちょっと風邪ひきましてね。朝晩スッカリ寒くなりましたからねーー もう最悪ですわ! 」
とても風邪をひいてるとは思えない流暢な話し方。信金勤めとはいえ 一回り以上 、歳下の自分に低姿勢で敬語を使われると、より胡散臭い。
まぁ信金さんは悪気はなく、その様な態度や話し方が染み付いてしまっているのだと思う。確かに軽い感じの人で酒癖も良いとは言えないが、金融機関に勤めてるのだから大変な事も多々あるだろうし。
健康診断と言っても軽めの検査ばかりだった。すんなり終わらし会社に戻る。戻る途中、コンビニに寄った時。コンビニの駐車場の端っこで、おばあちゃんが座ってた。
よく見ると辛そう。声を掛ける。やっぱり辛そう。アキさんの時を思い出し救急車を呼ぼうと…… でも、おばあちゃんは呼ばなくていいと。どうしようかと思ってたら……
「おばあちゃん! 大丈夫? ツライの? 」
大きな声で…… 信金さんだった。
信金さんは慣れた感じで、おばあちゃんに色々聞いてた。
「わかった! 一緒に病院行こ! ほれ、背中に乗って! 」
信金さんは、そう言っておばあちゃんを背負い駆け足で病院の方へ。幸い、病院は近くなので自分も付いて行った。おばあちゃんと信金さんの置いて行った荷物を抱えて。
病院に着き、おばあちゃんを診察室へ。
年齢が年齢だけに心配したけど大丈夫そうだった。
はぁはぁ言ってる、信金さん。
ただ信金さんは、おばあちゃんが大丈夫そうと聞き笑顔だった。
風邪ひいてるんだよな〜〜 信金さん。
自分の方が若いし元気なのに、おばあちゃんを背負う事すら出来なかった。
病院の待合室の椅子に座り、疲れた感じの信金さんに申し訳ない気持ちになった自分は、自販機で水を買って手渡した。
「ありゃ、すいませんね。嬉しいなーー 有り難く遠慮なく頂きますわ」
と、信金さんが水をゴクッと。
「いやねーー 自分は、おばあちゃんっ子だったんですよーー だからね少し嬉しいと言うかね。少しでもお手伝い出来て」
そう言った信金さん。
ちょっと意外だったな〜〜
良い人なんだな〜〜
何も出来なかった自分より、よっぽど偉いですし。見かけだけで決めつけたら駄目だな、やっぱり大人ですね信金さん。
「お水ご馳走になったから、今度パァーっと飲みに行きましょうよ、おね〜ちゃん沢山いる所に! 」
信金さん。折角、いま信金さんの株上がったとこなのに、一気に大暴落っすよ!
一言多いんだな〜〜 まぁそれが信金さんらしいのかな。
風邪をひいてる割には、相変わらずフットワークが軽い信金さんだが少しだけ良い面を知り見方が変わった。……多少。
ただ、おばあちゃんが苦しそうに座っていた姿が、あの日のアキさんを思い出し なんとも言えない気持ちになった。
そんな時、ユウさんから電話。
「今、大丈夫? 大した用事じゃ無いけど夜、ひま? 」
こんな時間にユウさんから電話で、一瞬ピリっとしたが深刻な話ではない様。
「暇です。今日は仕事も早く上がれるし」
「いやねー。隣で工事してるんだけど、やらかしたみたいで 水 使えないのよ今日。水道管やっちゃったのかな? 」
「ユウさん所、水使えないんですか?大変じゃないすか」
「今晩中に何とかするって言ってたから、明日には直ってると思うけど。で、水使えんからさーー 何処かで一緒に飯でも食べない? アキもカオリも一緒だけど」
ユウさんからの食事のお誘い。アキさん達も一緒。勿論!
「大丈夫っす。行きたいっす! 」 即答。
「じゃ後で、また連絡するわ」
ユウさん何か元気だな。水出ないのに。
…… 水商売なのに…… ハッと辺りを見回す。
こんな面白くない事、カオリさんにでも聞かれたら永遠に馬鹿にされ続ける。
仕事が終わり、待ち合わせ場所にしたアキさんの店 [After-eve ] へ。
珍しく他の街のお店に行く為、アキさんの車でアキさん運転で行く事に。アキさんは飲まないのか…… ユウさんは何故か飲む気満々。店、休みになって喜んでません?
「奥さん達は、いいんすか? 」ユウさんに聞く。
「あ、うん。実家に行ってるから」
あれ? ヤバイのかな? そう言う意味の実家では、ないですよね。
「実家って別居? とうとう」
カオリさんが、容赦なく訊く。
「とうとうって。コラコラ! 違うよ。大丈夫よ大丈夫! 何とか」
ホッとしたけど、『何とか』って気になりますよ! ユウさん!
お店に着いた。ちょっと立派な中華料理屋だった。この辺りでは有名な店らしく、料理も美味しかった。ワイワイ料理を取り分け食べるのも中華らしく楽しかった。
ほぼ自分が、カオリさんの召使いの様に料理を取り分けていたが……
折角なので、アキさんに革のキーホルダーとプレッツェルについて訊いてみた。
「フクロウは幸福を運ぶから掘ってあるんですか? 」そうだよ、という答えを期待する自分。
「違うよっ! ……フクロウは森の哲学者と言われるから勉強しようねっていう意味」
エビチリを食べながらアキさん。
「プレッツェルは形がハート型だから愛情とかの意味ですよね? 」そうだよって期待
「違うよっ! ……腕組みが語源で神に感謝の祈りをしようねって意味。パンの様なソフトプレッツェルも塩味が効いているからビールに合うんだよ。ドイツの物だから」
山椒がガッツリ掛かった麻婆豆腐を食べながらアキさん。
……
「マコちゃん 撃沈! 所詮、適当に調べた知識でしょ? 駄目だな〜〜 マコは。成長してない! ペラッペラよ! 人としてペラッペラ」
カオリさんが、ここぞとばかりに……
「よく言うよ。カオリちゃんだってさ〜〜
フク…… うっ」
アキさんが言いかけた言葉をカオリさんが力づくで止めた。
どうでもいいけど、カオリさん! 首絞めちゃってますよ、アキさんの首を…… !
第2章 終
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