第45話 救出



 診療所兼、ザルアの家に着く。



「……これは、酷いな」



 寝台には三人の小人族が寝かされていた。

 三人共、一目で重傷と解る有様だ。

 特に、一番体格の良い少年の状態が悪く、腕が半ばから噛み千切られていた。

 あの出血量では、恐らくもう助からないだろう……



「あ、あんたが、この集落の、長か?」



「……ああ。何があったか、話せるか?」



 本当であれば傷に障るから喋るなと言いたい所だが、恐らく本人も、自分が助からないことを理解しているのだろう。

 だから俺は、彼の最後の言葉しっかり聞き届けてやろうと思ったのだ。



「魔獣が、突然……、襲ってきたんだ。シシ豚や、魔犬が、何十匹も……、ふ、復讐者も、いた」



「っ!?」



 その言葉に、俺だけでなく、他の者たちも驚いた様子であった。

 その理由は、複数種の魔獣の名が出たからだ。


 シシ豚や魔犬は、単独で行動することも多いが、4~8匹程度の群れで行動することもある。

 森に住むものにとって、魔獣は危険な存在であると同時に食料でもあるため、このことを知らない者はほとんどいないだろう。

 しかし、シシ豚や魔犬が、同じ群れ……、増してや数十匹単位で行動するなんて話は聞いたことも無い話であった。

 さらに言えば、復讐者がその群れに混じっていたのというのは、絶対におかしい……

 何故ならば、奴らは決して群れない上、能動的に人を襲うようなこともないからだ。



「……正直信じ難いが、この状況で嘘を吐くとも思えん」



 俺もゾノの意見に同意だ。

 そして、嘘でないのであれば、何か異常事態が発生している可能性がある。



「君達の他に、生存者は?」



「わ、わからない……。さ、最初の襲撃で、うちの集落は……、ほぼ、壊滅した。俺、達は、……散り散りになって、逃げた」



 俺はそれとなくゾノに視線を送る。



「……いや、彼ら以外は見つかっていない。一応周囲は探させているが……」



「そうか……」



 彼らの集落がどの程度の規模かはわからないが、恐らく百人を超えるとは無いだろう。

 襲来した魔獣達の群れが、この小人族の少年が言った通りの規模であるのだとしたら……、生存者の発見は難しいかもしれない。

 この三人が生きてこの集落に辿り着けたのも、ほとんど奇跡に近かったのではないだろうか。



「な、なあ……、あんた達に、頼みがあるん、だ」



「……聞こう」



「この二人を、助けて、やってくれ……。親友の、子供なんだ……」



 見た目から、てっきり少年だと思っていたのだが、どうやら彼は成人だったようだ。


 隣で意識を失っている二人は、彼に比べれば軽症である。

 恐らく、彼に守って貰ったということなのだろう

 これなら、集落の術士が治療に専念すれば問題なく回復する筈だ。



「わかった。この子達のことについては任せてくれ」



「あり、がとう……。それと、済まないが、もう一つ、いいか?」



「ああ、言ってくれ」



「俺達の、集落の……、北に、別の子供達の、隠れ家が、ある。できれば、あの子達も、救ってやって、……欲しい」



「別の子供達?」



「俺、達は……、あの子達を、受け入れて、やれなかった……。心残り、だったんだ……。あの、子達を……、どう、か……」



 その言葉の続きが、彼の口から語られることは無かった。

 俺は彼の開いたままの目を閉じてやり、振り返る。



「……ゾノ、彼らの集落の位置は分かるか?」



「ああ……。しかし、行くつもりか? 恐らく、かなり危険だぞ?」



「ハハ、良く言うよ。俺が行くと言わなくても、ゾノは行くつもりだったろ?」



「……すまん、試すような物言いになってしまったな」



「謝る必要は無いよ。それより、ゾノはガウ達を呼んでおいてくれ。俺はライやリンカ達を集めてくる」



「了解した」



 レッサーゴブリンの治癒術士に、彼らの治療を任せてから診療所を出る。

 もし彼の言い残した子供達が無事なのであれば、一刻を争う状況だ……





 ◇





「……集まったな」



 招集を受け、広場には先日と同様兵士志願者が集まっていた。

 事情を知らないものも多く、何事かとざわついている者達もいる。



「既に聞いている者もいるだろうが、先程小人族の者を保護した! 彼らは魔獣に集落を襲撃されたらしい!」



 俺の言葉に、皆の表情は険しいものに変わっていく。

 皆、魔獣の脅威については十分に理解しているのだろう。



「かなりの規模の群れらしく、小人族の集落はほぼ壊滅したようだ」



 先程までの喧騒が、嘘のように静まり返っている。

 トロール達やリンカ達以外は、皆一様に恐怖を感じているようであった。



「しかし、まだ生き残っている可能性がある者達がいるらしい。俺はこれから、その者達の救出に向かおうと思う。ガウ、デイ、ダオ、イオ、ゾノ、そしてリンカ達は俺に付いてきてくれ。ライや他のみんなには、ここに残って集落の防衛を頼みたい」



「トーヤ様、私達も何かお役に立てないでしょうか?」



 そう尋ねて来たのは、オークのシアである。

 彼女は兵士では無いが、状況を察して駆けつけてくれたようだ。



「シアさん達女性陣は、負傷者の受け入れ準備をお願いします。ジュラも今回はそれに加わって欲しい」



 それを聞いて、ジュラが驚いた顔をする。



「ま、待ってくれ! トロールの私が戦わなくてどうする!?」



「……ジュラ、何故俺がこんな指示をしたか、それは君が一番よくわかっているんじゃないか?」



「!?」



 俺の言葉に、皆が不思議そうな顔をする。

 しかし、イオだけは俺の意図に気づいたようだ。



「ジュラ、トーヤの言う通りにしましょう。状況次第ではそうも言ってられないかもしれませんが、できるだけ安静にしているべきです」



「イオ……」



「ジュラ、悪いがこれは命令だ。そうでも言わなきゃ大人しくしていなさそうだからな」



「…………わかった。言う通りにしよう」



 会話の内容を理解できなかった者が質問したげな雰囲気を出しているが、今はそれに答えている暇はない。



「じゃあ、すぐに出るぞ! ゾノ、案内を頼む!」



「ああ」



 ゾノが先導し、他の皆がそれに続く。

 この中では俺が一番身体能力で劣るので、皆に引き離されないようしっかりとついて行かねば……




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